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68.一人ぼっちの戦い

前回、紲星あ〇りさんの名前を絆星あ〇りと誤って表記してエアプを晒してしまったことを謹んでお詫び申し上げます

いや、実はボイロは昔、弦巻のマッキーを買って数年単位で放置中なんですが、今回の割引は本体25%オフに抱き合わせクーポン18%が加わった実質40%オフで、「これかつてのDLsi〇eボイロ半額事件に次ぐ価格では?」と思った瞬間ついカートに入れちゃったんですよね



そして、今回はまさかの教官一人称

前話との対比をお楽しみください


 ――わああぁぁぁ、とどこか遠くから歓声が上がる。


(クッソ! 気楽でいいよな、学生は!)


 鼓膜に刺さる耳障りな音にオレ、B級冒険者の菅田かんだとおるは外から分からない程度に顔をしかめた。

 聞こえてくる言葉を継ぎ合わせると、どうやらここの生徒会長……Aランク冒険者の守成月に、教官が一対一で戦って負けたらしい。


(……クジ運が悪かったな、ご愁傷様)


 不運な同僚に、そう口の中だけでお悔やみを告げる。


 このパーティ戦の試験官という仕事は、本来なら非常に簡単な部類の仕事だ。

 少なくとも命の危険はないし、養成校の生徒なんて、ひよっこもひよっこ。

 仮にもBランクのライセンスを持っている人間が、苦戦する道理もない。


(でも、どこにだっているんだよな。「例外」って奴は)


 数千人、あるいは数万人に一人の割合でたまに出てくるバグ、イレギュラー。

 その一人がここの生徒会長、守成月だ。


 在学中に、Aランクに昇格。

 そう言うと華々しく聞こえるし、ここの学生どもは単純にキャーキャーと騒ぎ立てているが、それがどれだけすさまじく、どれだけ異常なことなのか、彼らは本当の意味ではまるで分かってはいないだろう。


 オレはそっと、自分のステータスカードを見る。



――――――――――――――

【菅田 享】


クラス:戦士


LV:160

HP:1389/1418

MP:377/517


STR:731

MAG:51

CON:527

MND:306

SPD:646



【汎用スキル】

大剣技  Lv5

剣技   Lv4

斧技   Lv2

槍技   Lv1

盾術   Lv2

索敵   Lv1

罠察知  Lv1

看破   Lv3


【固有スキル】

影廻り

――――――――――――――



 オレがBランク冒険者になって、五年。

 レベルの伸びは、すっかり鈍化してしまった。


 すでに魔物の魔力を多く取り込んだこの身体は、より強い魔物の魔力を押し込まなければ強くはなれない。

 今以上にレベルを上げるためにはもっと危険なダンジョンに潜らねばならず、それはオレの、オレたちの実力では無理だった。


 おそらくこれから十年、二十年と冒険者を続けていてもオレのレベルが二百を超えることはないだろうし、Aランクになることもないだろう。

 悲しいことではあるが、それはオレが特別弱かったり、ダメだったりするからじゃない。


 Aランク以上の冒険者の割合は、冒険者全体の一割未満。

 九割以上の冒険者はBランク、あるいはそれよりもっと下のランクのまま、冒険者人生を終えるのだ。


 ――つまり、オレはただ、「普通」だっただけ。


 Aランクに上り詰めるような奴らは、並外れた才能や類稀な運、あるいはその両方を持っている。

 どれも、オレには足りなかったもんだ。


(かといって、ここのガキどもに負けるつもりはさらさらねえがな!)


 そんな「例外」なんてそうそう転がっているもんじゃない。

 実際、ざっと担当する生徒の資料に目を通してみたが、警戒に値するような奴はいない。


 この中で目を引くのは、


「だ、だいじょぶ! わ、わたしが前衛をやって朔ちゃんを守るから!」

「梨乃ちゃんも、あんまり無理しないでね」


 そんな風に互いを励まし合っている仲のよさそうな女の子二人組のパーティ。

 それから、


「しっかしラッキーだったなー! アタシらの前の試験者がクソ雑魚でさぁ!」

「ま、アイツらのあとじゃな! どんな戦いやっても前の奴らの百万倍ツエエエエエ、ってなるだろうし」

「そう? 逆にアンラッキーじゃん? 一瞬で終わっちゃったら教官も疲れないだろうしさぁ!」


 そいつらに品のないヤジを送っている、こいつらくらいか。


(バカな奴らだな)


 オレは表情を変えないままで、ため息をつく。

 大方、大人から何も言われないから調子に乗っているんだろうが……。


(「叱られないことの怖さ」ってものを、もっと知っておくべきだったな)


 オレは、試験結果のメモにバツ印をつけながら、そうひとりごちる。


 極論、性格が悪いのは別にいい。

 だが、それを隠せず、表に出してしまっているようでは冒険者としても三流以下だ。


 とはいえもちろん、冒険者が実力主義なのは確か。

 それでも悪評を払いのけるほどの力があれば問題はない。

 ただ……。


(ひいき目に見ても、こいつらにそんな実力なんてねえしな)


 態度も悪い、実力もない冒険者が、生き残っていけるはずもない。

 おそらくこのパーティは、どこかで自分を見つめ直さなければ養成校を卒業することも難しいだろう。


 などと考えていると、次の試験を始める時間がやってきた。



「――次! 宇津木 朔! 乙名 梨乃!」



 どうやら次はあの女の子二人組らしい。

 例の落ちこぼれパーティからのヤジにも負けず、健気に前を向くこの二人には、出来るなら実力を発揮させてから負かせてやりたいと考えていたのだが……。


「さ、朔ちゃん! あんなの、気にしなくていいよ! わたしたちは……」

「分かってる。二人で、絶対に教官に勝とう!」


 二人組のうちの一人。

 支援職らしい女子生徒が口にした言葉に、オレは思わず目をむいた。


(は? いやいやいや、オレに勝つとか、何言ってんだあの子は)


 士気が高いのはいいが、オレはこれでもBランクの冒険者だ。

 はっきりと言うが、学生レベルの見習い冒険者とB級冒険者じゃ、大人と子供……いや、プロのアスリートと幼児くらいの実力差がある。


 当然万に一つにも学生が教官に勝てる訳もなく、教師側もそんな期待はしていない。

 これはあくまで教官たちに日々の練習の成果を見せる場であり、言ってみれば人間相手の壁打ちのようなものだ。


(やる気がある、と言えば聞こえがいいが……。全く現実が見えてないのは減点だな)


 せっかく応援出来る生徒を見つけたと思ったのに、と内心でため息をつく。


 こういう度を過ぎた自信過剰ってのは本人だけじゃなく、パーティ全体を危険に晒しかねない。

 実際、パーティメンバーの盗賊の子はあまりの大言壮語に目を丸くしている。


(気は進まねえが……)


 こういう頭お花畑な奴らに現実を見せるのも教官の役目だ。

 さっさと終わらせてしまおう。


(まず潰すなら前衛だな)


 支援職の少女は、明らかに魔法の待機状態を維持している。

 なら、開幕で相方に補助魔法をかけるはずだ。


(そこを速攻で潰す!)


 簡単にプランを立てながら、オレは目標である盗賊職の少女に視線を合わせ、スキルを使う。


 使うのは、こうして養成校の教官なんてやることになってから覚えた〈看破〉というスキルで、人の大まかなステータスを見る能力だ。

 探索には大して役に立たなかったが、こうして人相手の試験をやるには必須級の能力と言える。



――――――――――――――

LV:34

HP:289/289

MP:205/205


STR:140

MAG:48

CON:114

MND:123

SPD:215

――――――――――――――



(速度特化型、か。二年のこの時期にしてはよく鍛えてるな)


 だが、裏を返せばそれだけだ。

 やはり、警戒するべき要素はない。


 試験開始が伝えられると、オレは予定通り補助魔法を使い始めた二人に向かって駆け出し、


「悪いがこれも勉強だ。まず一人!」


 オレは盗賊の少女に向かって剣を振り下ろす。

 これで一人脱落……の、はずだった。


「……は?」


 しかし、現実は違う。

 オレの振り下ろした剣は少女のちっぽけな剣に防がれ、あまつさえ弾かれた。


「ま、まだだ!」


 追い打ちをかけるが、結果は同じ。

 そこで動揺したオレは、思わず身体の反射に従うように後ろに跳んでしまった。


「梨乃ちゃん!」


 しまった、と思ってももう遅い。

 盗賊の少女の瞳が、ギラリと獰猛な色を帯びる。


 彼女は一瞬のためのあと、オレに向かってすさまじい速度で飛びかかって……。


「ひぐっ!?」


 オレの頭上をはるかに跳び越えて、場外に飛び出していった。



 ※ ※ ※



(……助かっ、た)


 あのまま彼女に追撃をされていたら、なすすべもなく負けていた。

 オレは額の汗をぬぐいながら、ホッと息をつく。


 今のは十中八九、力の加減を間違えた盗賊の少女の自爆。

 だが、ステータスによる強化で身体を痛めたり、強まった力の扱いに失敗したり、ということは基本はほとんど起こらない。


 前者についてはステータスエフェクトの強化とは肉体に直接作用するものではなく、魔法による補助を行うものであるため。

 そして後者については身に着けた能力はステータスエフェクトによる最適化が行われ、無意識的に扱えるようになるからだ。


 ……ただ、例外として他人の補助魔法によって能力が急激に上がった場合、その力を扱いきれずに暴走することが稀にある、とも聞く。


 ステータスを見た限り、試合開始前の盗賊の少女にあれほどの力はなかった。

 なら、あの少女が自爆した原因は、補助魔法だとしか考えられない。


 つまり、オレが本当に警戒するべきは……。


「あ、あわわわ」


 一人リングに残されて、露骨にキョドっているこの女子生徒!


(……いや、本当にそうか?)


 相方の暴走に盛大に動揺している彼女からは、強者のオーラを微塵も感じない。

 オレは半信半疑のまま〈看破〉スキルを使った。


 そして、



――――――――――――――

LV:???

HP:????/????

MP:????/????


STR:???

MAG:????

CON:????

MND:????

SPD:????

――――――――――――――



(……は?)


 あまりにありえない結果に、意識を飛ばしそうになる。


 格上相手には〈看破〉スキルは効かない。

 だが、効かないということがすでに大きな情報になる。


 信じられない。

 信じがたいが、こいつ……。



(――全ての能力が、オレよりも上だ!!)



 ふざけんな、と叫びたくなる。


 ――応援したくなる?

 ――度を過ぎた自信過剰?

 ――頭お花畑?


 思わず赤面したくなる、とんでもない勘違い!


 頭がお花畑なのはオレの方だった!

 こいつはここの生徒会長と同じ……いや、下手をするとそれ以上の「怪物」だ!


(クジ運がないのは、オレの方じゃねえか!)


 なんでこんな化け物がよりにもよってオレの担当に来た!?

 いや、そもそも資料を見る限り、前回の試験の時の彼女はいたって普通、いや、むしろ養成校の中でも下から数えた方が早いくらいの強さだったはず。


(一体この数ヶ月で何があったってんだ!!)


 取り乱して叫びたくなるが、立場がオレに正気を取り戻させる。


 いくらなんでも、二年生、それも支援術師と一対一で戦って、試験官が負けるのはまずい。

 実際にはとんでもない強者であっても、周囲の反応を見るに、おそらくその強さは周知されていない。


 もしそんな相手に負けたとなれば生徒に舐められることは間違いないし、教官としてのオレの評価の低下は免れない!


(せっかく見つけた割のいい仕事なんだ! クビは、クビだけはゴメンだ!)


 社会人の悲哀を胸に、オレは自分の心に気合を入れ直す。

 これはもう、試験なんかじゃない。



 ――戦いだ。



 己の全力を尽くさねばならない、死闘だ!


(大丈夫、勝機はある!)


 いや、学生を相手にB級冒険者が勝機が云々を語ること自体が正気を失うような事態だが、それは頭の隅に追いやる。


 見たところ、彼女は急に力を手に入れただけで、まだ戦いに慣れてはいない。

 だから、その経験不足を突く!


「おおお!!」


 叫びながら、全力で少女の周りを走る。

 所詮虚仮脅しだが、勢いのある叫びとあいまって、新人冒険者ならそれだけで呑まれてしまうような攪乱。


 だが、


(チキショウ! 完全に見切られてやがる!)


 オレの全力の高速移動に対して、全くブレることなく正確に目で追っている。

 それに、見ていて気付いた。


 彼女は間違いなく、「戦闘する」ことには慣れていない。

 それは確かだ。


 なのになぜか、オレを見据える瞳に怯えの色が全くない。

 表面的な動揺は見せても、本質的にはオレに恐怖を感じていないのだ。


 それはおそらく、単なるステータス差が生み出すものじゃない。

 まるで、「オレよりもすごいもの」なんてたくさん見てきたかのように、その視線は冷徹にオレを捉えていて……。


(なんなんだ! なんなんだよこいつは!)


 素人の少女そのものの所作に、歴戦の勇士そのままの佇まい。

 あまりにもいびつなその存在に、オレの中で恐怖が膨れ上がってくる。


(クソが! これだけは使いたくなかったが、仕方ねえ!!)


 攪乱をあきらめ、少女に突撃する。

 身構える少女だが、無策で勝てると思うほど、オレも自惚れちゃいない!


 あと一息で互いの武器の射程に届くという位置で、オレは切り札を切る。



「――〈影廻り〉!!」



 それは、平凡なオレが唯一持っている才能。

 オレだけの固有のスキル。


 その効果は単純に言えば、一瞬で相手の後ろに回り込む、というただそれだけ。


 制約も多く、燃費が悪く一日に一回しか使えず、種が割れてしまえば同じ相手には通用しない。

 そんな欠点だらけの技だが、初見の、そして一対一の状況では、格上すら殺す鬼札となる!!


(ここだ!)


 彼女の背後に移動したオレは、間髪入れずにその無防備な背中に向かって剣を突き出す。


(これで終われ! 終わってくれ!!)


 本来、試験を受ける生徒の実力を全て引き出すべき試験官としてはあるまじき思考。

 だが、今さらなりふりを構ってはいられなかった。


 このステータス差では、仮に当たってもオレの剣がまともなダメージになるかは分からない。

 だが、寸止めをすれば勝利というルール上、この攻撃が通れば勝負は終わる。

 終わらせられる!


「っ!?」


 気配を察知してか、彼女が振り向く。

 思わず背筋の凍るような、恐るべき反応速度。


 しかしそれでも、オレの方が一手早い!!



(――乗り切った!!)



 オレがそう確信した、その瞬間、


「あ?」


 会心の一刀は、彼女の周りに突如出現したバリアによって弾かれた。



 ――頭の中が、真っ白になる。



 防御魔法の気配なんて、微塵もなかったはずだ。

 いや、それに試合が始まってから、彼女は一度も魔法を詠唱していないはずで……。


 空転する思考。

 だがそれを嘆く余裕も時間も、オレには残されていなかった。


「……あ」


 影が、動く。

 オレの全速を遥かに超える、残像が見えるほどの速度で目の前の少女の姿がブレて、



「――ウインド」



 すさまじい衝撃が身体を襲った、と思った次の瞬間、オレはリングの外に転がって、抜けるように高い空を見上げていた。


(……負けた、のか)


 なぜだか、すがすがしい気分だった。

 それは、自分の力を全て出し尽くしての完敗だったせいかもしれないし、落ちこぼれだった少女がたった一人でBランク冒険者を下すその瞬間に、文字通り一番近くで立ち会えたからかもしれない。


(……静か、だな)


 倒れたまま、ちらりと視線を横に向けた。

 あまりにもあんまりな大番狂わせに、このリングの周りだけ、世界の時間が止まったように凍りついていた。


 その場にいる全ての者の驚きを吸い取ったかのような、耳に痛いほどの沈黙。

 だが時が経つにつれ、次第にその呪縛も解け、そして……。




「――じょ、場外! 試験官の脱落により、宇津木 朔、乙名 梨乃ペアの勝利です!」




 震える宣告と共に、長くて短い、オレの「一人ぼっちの戦い」は、幕を閉じたのだった。

一見常識的に見える(?)朔ちゃんも大概おかしいよ、というお話




ちょっと疲れたので次回と次々回はあっさり風味になる予定!

なので更新はもちろん明日です!

シンジテ!

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成長率底辺のゲームキャラになった主人公が、裏技を使って英雄になっていく話です
主人公じゃない!

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二巻
― 新着の感想 ―
[良い点] タイトル回収! すごいです♪ いや、マジでw
[一言] 別にこのおっちゃんが無能呼ばわりされても、 朔に看破してみろって言えば良いだけだしね
[一言] > (一体この数ヶ月で何があったってんだ!!) 鬼や悪よりも酷い者にもう普通には返らない身体にされてしまいました。
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