65.冒険者技能考査
いやーもっと早く更新する予定だったのに近くに置いてあった漫画を読んでたら遅くなっちゃいました!
あ、その漫画は「主人公じゃない!」って作品の二巻だったりするんですけど、絵が綺麗ですごく読みやすくて、特にヒロインのレシリアがウィンドカッターを撃つ場面とか作画のメイジさんって人がすごい気合の入った絵を描いてて……(あまりにもさりげない宣伝)
――〈冒険者技能考査〉というのは冒険者養成学校における、冒険者としての能力を見るテストだ。
「別にわざわざテストなんてしなくてもステータス見ればよくない?」という批判もあるけれど、ステータスが高くても実際にそれをどれだけ使いこなせるかは本人次第。
それに、ダンジョン出現直後にステータス関連のトラブルが相次いでから、「ステータスの公開を強要してはいけない」というのが冒険者の常識となっている事情もあって、定期的に学校の訓練場で能力を見るテストが実施されることになっている。
(今日はがんばらないと!)
冒険者養成学校は、通常の学業に加えて、冒険者としての知識や経験を指導する学校だ。
だからこそ、学校の勉強だけ、冒険者としての強さだけがあっても卒業は出来ず、必ず両方で一定以上の水準を満たさないといけない。
わたしは勉強の方は問題ないけれど、冒険者としての成績はとても褒められたものじゃなかった。
普通の学校と違って、冒険者養成学校は入学するのも進級するのもハードルが高い。
(たぶん、ここでいい結果を出さなきゃ、退学ってこともある……よね)
風流さんと冒険して目がくらむくらいの大金をもらっていると「もう学校とかどうでもいいんじゃ」と思ってしまうこともあるけれど、この学校には友達もいるし、わたしをこの学校に入れるのにがんばってくれたお母さんとお父さんのことを思うと、やっぱり退学なんてしたくない。
もしいつか学校を辞める日が来るとしても、それは自分の意思で、胸を張って出ていきたい。
だから、今日の〈冒険者技能考査〉は絶対に失敗するわけにはいかないんだ!
そう自分に気合を入れて、試験の行われる学校の訓練場に足を踏み入れる。
すると、
「――あっれー? 魔力タンクじゃーん」
不意に、後ろから声がかけられた。
おそるおそる振り返ると、そこには思った通りの人がいた。
「……座間、さん」
大事な日の朝に、嫌な人に出会ってしまった。
思わず顔がひきつるわたしに対して、面白いオモチャを見つけたとばかりに、彼女の唇が明るく歪む。
「うっわー、よく学校来られたねー! てっきりテストサボるかと思ったー!」
「そんな、こと……」
しないです、と言い返そうとして、口ごもる。
この人、座間 美夜さんは、わたしの昔のパーティメンバーの一人だ。
パーティの攻撃役で炎の魔法が得意な彼女は、いつもわたしにMP譲渡の魔法を使うように強要してきた。
彼女がわたしのことを名前ではなく、「魔力タンク」と呼ぶのはそういう理由だ。
MP譲渡の魔法はMPの自然回復量を上げる補助魔法よりも多くのMPを消費してしまって効率が悪い上に、補助魔法の経験値がほとんど上がらない。
はっきり言って緊急時以外に使うメリットのない魔法だけど、座間さんやパーティメンバーに無理強いされ、断ることができなかったのだ。
言い訳ではあるけれど、わたしが前のパーティで支援魔法使いとして成長出来なかった一番の理由はこの人にあると言ってもいいかもしれない。
彼女は、怯むわたしの方に迷いなく歩み寄ると、わたしよりも頭一つ分高い身長を誇示するようにわたしを見下ろすと口を開いた。
「ねぇねぇ、アンタさぁ。アタシのパーティ追い出されてからだーれとも組めてないんでしょ? って、ことはー♪」
そこで、ニヤリ、と意地の悪い笑みを浮かべると、そっと顔をわたしの耳に寄せ、
「――退学決定、おめでとー!」
心底楽しそうにそうささやいて、「キャハハハハ!」と甲高い笑い声をあげながら歩き去っていった。
※ ※ ※
「……だ、大丈夫?」
座間さんがいなくなってもその場から動けなかったわたしに、控えめな声がかけられた。
「あ、梨乃ちゃん……」
そこにいたのは、わたしの友達の乙名 梨乃ちゃん。
わたしと一緒で少し気の弱いところがあるけれど、座間さんのパーティを追い出され、どこかクラスでも浮きがちだったわたしをずっと励ましてくれた優しい子だ。
「あ、あんなの、気にすることないよ! 朔ちゃんががんばってたの、わたし知ってるから!」
「……ありがとう!」
普段は優しくて、人の悪口なんて言わない梨乃ちゃんが、わたしのためにここまで怒ってくれる。
それだけで、わたしはなんだか救われたような気持ちになった。
「そ、それで、その……。テスト、だいじょうぶ、そう?」
「それは……」
おずおずと尋ねるその言葉に、わたしは即答できなかった。
(絶対大丈夫、だと思うんだけど……うーん)
昔と比べたら、わたしのレベルはたくさん上がっている。
校内でパーティを組んでいないからパーティ試験は参加できないけど、個人試験だけでも退学にされるようなラインには絶対にならない……はず。
(それに……)
逆に、うまくいきすぎて、短期間で急に強くなってしまったのがバレてしまうのもちょっと困る。
風流さんと冒険しているのは、学校の人にも、梨乃ちゃんにも秘密にしている。
だって、もし風流さんのすごさがバレてしまって、風流さんが人気になっちゃったりしたら……。
と、うじうじと考え込んでいると、それをどう思ったのか。
梨乃ちゃんが意を決した様子でわたしに言った。
「あ、あのね! まだメンバーが決まってないなら、今日のパーティ戦、わたしと一緒に組んでほしいの!」
「え……」
それは、思ってもいなかった提案だった。
本音を言うと、その提案はとてもうれしい。
学園の先生相手にパーティを組んで戦うパーティ試験は、力よりも連携を重視する生徒や、一人だとどうしても強みを出し切れない支援魔法使いのような人のためにある試験だ。
支援職のわたしとしては受けられるものなら受けたい試験だと言える。
ただ、パーティ試験は当然いつも組んでいるパーティで挑むのが普通。
単純な戦闘力だけじゃなく、連携や戦術も評価される以上、普段と違うパーティで挑戦するのは不利だからだ。
「いいの? そんなことしたら梨乃ちゃんのパーティは……」
「も、もうみんなには話してある! 朔ちゃんがOKしてくれるなら、今日はこっちに行ってもいいって……」
どうやら、本気のようだった。
どうしてそこまで、とわたしが戸惑っていると、梨乃ちゃんは目に涙を溜めながら、訴えるように言った。
「だ、だって! わたし、朔ちゃんがパーティを抜けた時に、力になってあげられなかったから……!」
「それは……」
泣きそうな顔で梨乃ちゃんは言うが、パーティの上限人数は六人で決まっている。
人数が一人でも多い方が有利になるからほとんどのパーティは六人でチームを組んでいるし、梨乃ちゃんのパーティも例外ではなかった。
だからわたしはそういうものだと割り切っていたし、梨乃ちゃんがここまで気に病んでくれていたなんて気付かなかった。
「わ、わたし、ただの盗賊職だし、弱っちいし、二人だけでちゃんと戦えるかは分からない。で、でも! でも今度こそ、わたしは朔ちゃんの力になりたい!」
「梨乃ちゃん……」
否定する理由はいくつでも思いついた。
でもわたしは、この梨乃ちゃんのこの思いを、絶対に無駄にはしたくなかった。
だから、
「……ありがとう! よろしくね、梨乃ちゃん!」
わたしは精一杯の笑顔を浮かべ、伸ばされたその小さな手を取る。
――その小さくて、でも温かい手の感触に、わたしは誓った。
もう、学校を辞めてもいいかも、とか、手を抜いても、なんて考えは封印する。
わたしが、これからもこの学校に通うために……。
前のパーティなんかより、風流さんの方が何倍も何百倍もすごいんだって証明するために……。
何より、こんなわたしに手を差し伸べてくれた梨乃ちゃんのために……。
――わたしは全力で、試験を戦い抜くんだ!!
熱血スポコン展開!!
長くなった(し今日サボりたい)ので分割です!
次回更新は今日の18時です!(予約投稿済み)