64.朔、出陣!
今回、たぶん何気に初の朔の一人称視点(朔側の話の時は大体三人称だったので)です
部屋の中、ベッドに横たわりながらわたしは「はぁ」とため息をついた。
風流さんと二人で初めてのA級ダンジョンに挑んだあの日。
いつもより真剣な目をした風流さんが〈氷神覚醒〉を使って、辺り一面が氷に包まれた、と思った直後にそのすさまじい魔力に当てられて、わたしは気を失ってしまった。
(……あの魔力、すごかったもんなぁ)
焚きつけてしまったのは自分ではあるし、気絶したのは気にしていない。
むしろ風流さんに負ぶってもらってもらうのは悪くな……じゃなくて!
(――まさか、こんなことになっちゃうなんて)
ネットで冒険者関連の情報を見ると、どれも「シンジュクの魔力爆発」のニュースであふれている。
気を失う直前、確かにものすごい範囲が凍っていくのは見えていた。
でも、いくらなんでもこんな大事になるとは思ってもみなかった。
当の本人だって、
「ごめん! テンション上がってちょっと広めに魔法を撃ったから、魔力が集まりすぎたのかもしれない。まさか、朔が気絶するなんて……」
なんて言っていたことを考えると、あんまりやばいことをしたって自覚はなかったと思う。
(それにしても、ちょっと広め、かぁ)
それで五つのダンジョンが氷漬けになっているのだから、本当に風流さんの〈氷神覚醒〉の性能は頭がおかしい。
流石に今日の魔法を撃ったあとはいつになく疲れた様子だったけれど、逆に言うとそれだけで済んでしまっているということ。
もし、本当の限界まで力を使ったら一体どれほどのことになるのか、想像もつかない。
(と、とにかく! ちょっと噂にはなっちゃってるけど、被害者とかいないから大丈夫、だよね?)
風流さんも「一応、今回は索敵も併用して人に当てないようには気を付けたから!」と言っていたし、巻き込まれた人がいなかったのは不幸中の幸いだ。
……そのあと、「まあ、一人ギリギリだったけど」とつぶやいていたのは聞かなかったことにしよう。
(本当は、名乗り出た方がいいんだろうけど……)
風流さん自身は、あんまり乗り気ではなさそうだったし、わたしもそうだ。
名乗り出ても信じてもらえるか分からないし、仮に信じられたとしても厄介ごとになる予感しかしない。
(もし、それで風流さんとのパーティを解散しなくちゃいけなくなったら……)
嫌な想像をしてしまって、反射的にギュッと枕を抱きしめた。
ワガママかもしれないけど、やっぱりそんなのは嫌だ。
一生懸命原因を探している冒険者協会の人には悪いけれど、別にルールに違反したとか人を傷つけたとかではないから名乗り出る義務はない……はずだ。
わたしはそんな風に自分を納得させると、「ヨシ!」と言いながら身体を起こす。
あの事件のせいで、わたしたちが行ったダンジョンの付近は立ち入り禁止。
ほかの場所ならいけなくもないけれど、風流さんとも相談をした結果、しばらくの間はダンジョン探索はお休みすることになった。
しばらく風流さんと冒険ができなくなってしまうのは寂しいけれど、あんまり落ち込んでばかりいられない。
探索をお休みにしてもらったのは、わたしの方にも理由があるのだ。
起き上がると手早く身支度を済ませ、昔、学校案内で一目見ただけで惚れこんでしまった、奧斗冒険者養成学校のブレザーに身を包んで鏡の前に立つ。
「……うん!」
一年前は制服に着られているという印象だったわたしも、今は一端の生徒に見える……気がした。
それは単なる錯覚かもしれないけれど、今日のわたしにとっては必要だった。
いつもより軽い鞄の中身をチェックして、靴を履く。
それから、
「――がんばってきますね、風流さん!」
スマホの待ち受けの中の風流さんに向かってそう宣言して、わたしは家を出る。
大げさかもしれないけれど、今日は普段の冒険とは違う意味で大事な日。
わたしにとって、ううん、冒険者養成校に通う生徒にとって、一番と言ってもいいくらい重要な行事。
――〈冒険者技能考査〉があるのだから!!
なんか朔ちゃんサイドの方がドラマチックな気がしてきた
あとこれもこの作品とは毛ほども関係ないんですが、今月は「主人公じゃない!」の漫画版二巻だけではなく、「この世界がゲームだと俺だけが知っている」の漫画版九巻も発売してるのでよろしくお願いします!
宣伝、ヨシ!