61.成長
毎日更新だと!?
早いもので、朔と一緒に初めてBランクダンジョンに挑んだ日から二週間ほどの時間が過ぎた。
そして、
「――おめでとうございます! 二人とも、本日付けでBランク冒険者にランクアップいたしました!」
受付の人に伝えられた言葉に、朔と俺は視線を見合わせ、笑顔でハイタッチをする。
「それにしても凄まじいですね。たったの二週間でCランクからBランクに昇格するなんて……」
「はい! 風流さんはすごいんです!」
しみじみと話す受付の言葉に、元気よく朔が答える。
おなじみとなった光景に、受付の人はクスッと上品に笑った。
「朔ちゃんは本当に風流くんが好きですね。……ですが、この異例の速さでの昇格は、お二人の確かな実力の証明です。それは誇っていいと思いますよ」
「ありがとうございます」
俺たちがこうも早くランクアップ出来た背景だが、ダンジョン攻略のペースが関係しているのだという。
冒険者ギルドのあるRPGなどでは「Bランクのクエストを累計百回こなしたらランクアップ」みたいなシステムになっていることが多いが、それはぶっちゃけゲーム的な都合であり、この世界の冒険者ギルドでは数だけでなくその期間も重視しているそうだ。
考えてみれば単純な話で、同じ「Bランクのモンスターを百匹倒した冒険者」がいるとしても、「自分の勝てるモンスターだけを狙って十年かけて狩った」場合と、「手当たり次第に戦って一日で達成した」場合なら、後者の方が実力が上の可能性が高いだろう。
どうやら俺たちのダンジョン攻略ペースはほかのCランク冒険者より早かったらしく、その点も考慮されてのこのランクアップが成った、という訳だ。
「いえ、基本的に冒険者ランクって『同じランクのダンジョンで戦える実力がある』という証明なので、そもそも普通のCランク冒険者は昇格したその日にBランクダンジョンに挑まないし、あまつさえ完全クリアなんてしないんですけどね……」
どこか疲れたように受付の人はこぼした。
「正直、今でも夢に見ますよ。お二人が初めてBランクのダンジョンに挑まれた日、たったの一時間でダンジョンを攻略して戻ってきた時の驚きは、今でも忘れられません」
「あはは……」
その一時間のほとんどが、移動とアイテム拾いの時間だったというのは言わない方がいいだろう。
魔石や魔物素材のような一般的なダンジョン産アイテムに限り、ステータスカードにかざすことで無限に収納することが出来るので輸送の問題はないのだが、拾うのには当然手間がかかる。
倒すよりアイテムを拾う方が何倍も時間がかかるのは、ジュンと一緒に初心者ダンジョンを攻略した時から変わらない俺たちのパーティの弱点かもしれない。
「それで、今日は……」
「早速Aランクダンジョンに挑もうと思います!」
俺が食い気味で言うと、受付の人はやっぱり、とばかりに額を押さえた。
「分かりました。ただ、何度も言いますが油断はダメですよ! 正直なところ、お二人ならAランクダンジョンでもなんとかなってしまうのでは、と思わなくもないですが、BランクとAランクのダンジョンは何もかもが違いますからね!」
前にも聞いたようなことを言う受付の人。
ただ、Aランクダンジョンが油断出来ないというのは俺も同じ気持ちだった。
しかしそれでも、今は挑戦したいという気持ちが勝っている。
俺はちらりと朔と目を合わせ、彼女が笑顔でうなずくのを確認すると、Aランクダンジョンへと挑む手続きを始めたのだった。
※ ※ ※
ダンジョンへの道を歩きながら、俺は自分のステータスカードを見た。
――――――――――――――
【篠塚 風流】
クラス:ブレイバー
LV:21
HP:976/976
MP:1537/1537
STR:634
MAG:1123
CON:321
MND:393
SPD:353
【汎用スキル】
剣技 Lv5
炎魔法 Lv6
氷魔法 Lv9
感知 Lv2
補助魔法 Lv3
光魔法 Lv1
回復魔法 Lv1
【固有スキル】
奇運
超成長
炎陣乱舞
魔纏練装
氷神覚醒
超回復
詠唱短縮
――――――――――――――
(――俺もだいぶ成長したなぁ)
俺の記憶が正しければ、こっちの世界にやってきた当初のSTRは200ちょっとだったはず。
その基準で考えるなら、今の能力値は当時の三倍程度には上がっていると考えていいだろう。
(ただ、能力値が三倍になったからと言って、単純に強さが三倍になった、って感じはしないんだよな)
ステータスエフェクトというのは、どうも元の身体能力をプラスするように機能するらしい。
そう考えれば元の身体の強さが数値換算で100の人間の場合、STRが400も上がったらそりゃ大きな差になるが、仮に元の強さが2000だの5000だのだったと考えれば、400程度の成長は誤差になってしまうだろう。
そして、仮にも勇者として世界を一つ救った自分の身体能力は間違いなくこの世界の一般人よりもずっと上なのは間違いない。
特にSTRやSPDといった数値の伸びについては、あまり信用しない方がいいかもしれない。
ただ一方で、この世界に来てから覚えた〈氷神覚醒〉については明確に威力が上がっていることをしっかりと実感出来ていた。
特にあの月との魔法決闘で一つの壁を越えたような感覚があり、それが氷魔法のレベルアップという形になって表れているのではないかと思う。
(しかし、それでも……。Aランクってのは、一つの壁になりかねないんだよな)
Bランクダンジョンに挑んだ時のように、杞憂であればそれでいい。
だが、俺がこの世界に飛ばされてきた時にいた場所は、うろ覚えだが確かA級だとか言っていたように思う。
あそこに出てきた巨人は、今思うと俺が今まで戦ってきたモンスターの中でも群を抜いて強かった。
あれから俺も強くはなったはずだが、しかしあの巨人と同じレベルのモンスターが百匹単位で襲ってきた場合、今までのように魔法一発で殲滅出来るかは微妙なところだ。
パーティを組んだばかりの時であれば、朔が危ないからと迷ったのだろうが……。
俺はちらっと隣を歩く朔に目をやった。
――――――――――――――
【宇津木 朔】
クラス:吟遊詩人
LV:224
HP:1739/1739
MP:3615/3615
STR:407
MAG:1424
CON:1108
MND:1967
SPD:791
【汎用スキル】
補助魔法 Lv4
魔法制御 Lv2
【固有スキル】
幸運
応援
――――――――――――――
これが、この前の冒険の時に見せてもらった今の朔のステータスだ。
……うん。
どう考えても俺とはレベルアップの速度が違いすぎる。
その分レベル一個当たりの上昇量は俺よりかなり少なめだが、これならAランクダンジョンでもたぶん滅多なことは起こらなそうというか、数値だけならぶっちゃけ俺よりも確実に強い。
今はまだまともな攻撃手段がないから戦闘はしていないが、最近は訓練場でずっと攻撃魔法を練習している、と受付の人がこっそりと教えてくれた。
もしその努力が実り、この魔力の値で攻撃魔法が使えるようになったら、もしかするとすごいことになるんじゃないだろうか。
「あ、あの!」
そんなことを考えていると、当の本人が俺の方を向いて、おずおずと話しかけてくる。
彼女は緊張した面持ちで俺を見ると、自分のステータスカードを差し出しながら、こう言った。
「――実はわたし、ずっと練習していた魔法が使えるようになったんです! だから、次のダンジョン攻略で一度試させてみてくれませんか!?」
そうして突き出されたステータスカード。
そこにはこの前まで存在しなかった、「風魔法 Lv1」の文字がはっきりと浮かび上がっていたのだった。
掲示板回も書きたいんですが、あれ普通に話書くより数倍時間かかるので……
次回更新もたぶん明日です!!