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56.魔法決闘

なんか今回の話短くなりそうだなぁ、と思って無駄エピソード入れたらむしろいつもより長くなるという罠


「――こちらです」


 突然現れた冒険者養成校の生徒、月に先導され、俺は冒険者協会の関連施設である地下訓練場へと向かう。


「的当てっていうとなんとなく野外のイメージだったけど、専用の施設があるんだな」

「うちの学校の的当て施設はグラウンドにありますが、どこでも大きな敷地を確保出来る訳ではありませんから。流石にAランク冒険者が街中で魔法を使ったりしたら、騒ぎになってしまいますし」


 大げさな、と思わなくもないが、高ランクの人間は本当に人間離れしていると聞く。

 そういう配慮もきっと大事なのだろう。


「その点、これから行く地下の練習場はダンジョン化した場所を改造した施設なので安全です。機能も訓練に特化されていて、初めて見たなら……あら?」


 楽しそうに解説をしていた月だったが、それをとがめるように彼女の胸元から電子音が鳴る。


「あ、すみません。電話みたいなので、少し失礼しますね」


 月はどこからかスマホを取り出すと、流れるような動作で耳に当てる。

 そして、優雅な仕種で口を開いて……。


「はい、もしも……」

《月!? 今あんたどこにいるの!? まさかとは思うけど、一人で投書の男に会――》


 ――ピッ!


 一瞬の早業だった。


 スマホから俺にも届くくらいの大きな女性の声が聞こえたと思った次の瞬間、月は全く表情を変えないまま通話を切っていた。

 そして、間を空けずにふたたびかかってきた通知の息の根を止めるようにスマホの電源を落とすと、



「――すみません、間違い電話だったみたいです」



 一点の曇りもない笑顔で全てをなかったことにした!


「いや、それは無理があるだろ!」


 俺はたまらずツッコむが、月は「?」と頭の上に疑問符が浮かんでいるのが見えるような、あまりにも無邪気な顔で小首を傾げる。

 目の前で電話を切ったのを見ていなければ、本当に何も知らないのかと信じてしまいそうなくらい邪気のない表情だ。


 あまりの悪びれなさに毒気を抜かれ、俺は追及をあきらめた。


「はぁ……。こっちとしては別になんでもいいんだけどさ。本当に大丈夫なんだろうな」


 俺が呆れて言うと、月はくすっと笑った。


「もう、心配しすぎですよ。彼女は素敵なお友達ですから、きちんと誠意を持って適当に丸め込めば問題ありません」

「その台詞がすでに大丈夫じゃないというか、秒で誠意を投げ捨ててるというか」


 ぼやいてはみたものの、俺に何が出来るということでもない。

 学校に帰ったらせいぜい独断専行の責任を追及されて、たっぷり反省してくれればいいと思う。


「……あ、ここです、ここ」


 本人は全く悪びれた様子もなく、スポーツセンターのような建物に入っていく。

 迷いない足取りでカウンターまで行くと、慣れた様子で声をかける。


「失礼します。二人で、地下の射撃場を使わせてもらいたいんですが」

「あー、冒険者の方ですか?」

「はい。Aランク冒険者の守成 月です」


 反応は劇的だった。

 生あくびを嚙み殺しながら面倒くさそうに対応していた受付の女性が、月の名乗りを聞いた瞬間、ビクンと身体を跳ねさせた。


「え、Aラン……し、失礼しました! 第二射撃場が空いてますのですぐに……!」


 それから慌ただしく立ち上がると、地下施設とやらに案内してくれた。


「すごいな。Aランク冒険者って」


 すさまじい手のひら返しだ。

 俺がそんな風に感想を漏らすと、隣から思わぬつぶやきが漏れた。


「……そんなに、いいものじゃありませんよ」

「え?」


 驚いて、月を見る。

 彼女は出会ってから今まで見たことのない、どこか陰のある表情をしていた。


「それはまあ確かに、『はぁー? カップルで訓練場かよ。ここはボウリング場じゃないんですけどぉー』という心の声が聞こえてきそうな舐め腐った態度の職員を、ランクの暴力でぶん殴るのは気持ちいいですけど」

「おい本音」


 思わず口を出す俺に、月はふっとアンニュイな笑みを見せて、自嘲気味に語る。


「でも、強くなればなるほど、ランクが上がれば上がるほど、義務と責務が増えて、しがらみで雁字搦めになっていくんです。私は、こんなことのために、強くなったんじゃないのに……」


 どこまでも伸び伸びと好き勝手にやっていそうな月にも、悩みくらいはあるらしい。

 ただ……。


「まあそういうのいいから、早く決闘しようぜ」


 ここまで自由にやられて、今さらしんみりするのはぶっちゃけ無理だ。

 俺はシュンと顔を伏せながら、時折チラッチラッとこっちを窺ってくる月を放って、一人で施設の奥に入っていく。


「え、えぇ!? ちょ、ちょっと冷たくないですか? 今のってこう、ドラマとかでいうヒロインが悩みを打ち明けるシーン的な……」

「あーはいはい」


 寄ってくる月をあしらいながら、訓練場に足を踏み入れる。


「ほー」


 そこは、普通の学生をしていた時はもちろん、異世界で勇者をしていた時にもお目にかかったことのないような部屋だった。


 受付の人は確か「射撃場」と言っていただろうか。

 意外に天井の高いしっかりとした部屋の中央に、それこそ射撃の訓練で使いそうな、高さ一メートルほどの棒に円形の的がついたものが二つ並んでいた。


(的については、そこに魔法を撃ち込むのだろうというのは分かる。分かるんだが……)


 問題は、その手前についている電光掲示板らしきもの。

 あれは一体……。


「あれが、この施設で〈魔法決闘〉が成立する理由です」


 戸惑う俺に答えを寄越したのは、すっかりと立ち直った月だった。

 彼女は「見ててください」と言って小さく口の中で魔法の詠唱をすると、やがてキッと顔を上げた。


「――ファイアアロー!」


 部屋の中央の的に向かって、炎の矢が飛翔する。

 それが、的の表面をわずかに焼き焦がしたのと同時に、電光掲示板に「136」という数字が浮かび上がる。


「そうか! あれは計測器でもあるのか」

「ご名答、です。あの的に魔法を当てると、その威力に応じた数字が掲示板に表示されます。そして、魔法決闘とはその数字の大きさを競うゲーム。つまり――」


 そこで月は、可憐な顔に似合わない不敵な笑みを浮かべて、言った。



「――小細工の利かない純粋なパワー勝負、ということです」



 そう、口にされた瞬間。


 なぜだろう。

 一瞬だけ、違和感が脳裏をかすめた。


「それでは、決闘を始めましょう。私が先手でいいですよね?」

「え? あ、ああ」


 だが、それがきちんとした形になる前に、月の言葉が思考を散らした。


 彼女はあらためて中央にある的をしっかりと見定め、一歩前に出る。

 それから、


「離れていてください」


 という忠告に従って俺が距離をとったのを見届けると、月はどこからか取り出した魔法の杖を構え、おもむろに詠唱を始めた。


 目をつぶり、真剣な顔で詠唱する彼女からは、ほんの数秒前までの親しみやすい雰囲気は微塵もない。


 ひたすらに深く集中する彼女から感じるのは、さながら戦場に身を置く戦士の気迫。

 張り詰めた空気の中、彼女の口からこぼれるその朗々とした声と淀みのない発音に、彼女の技術が熟達したものであると否応なしに理解させられる。


 どれほどの時間が経っただろうか。

 永遠に続くようにも思えた詠唱が止まり、彼女がゆっくりと目を開く。


 今にも暴れださんばかりの力をその身に蓄え、身体全体を可視化出来るほどの魔力で発光させながら、彼女はこちらを見て微笑んだ。


「風流さん。私が貴方に期待しているというのは、本当です。本当ですけど、ごめんなさい」


 荒れ狂う魔力を帯びた右手が、持ち上げられる。

 右手と、そしてその延長線上の杖が、彼女の眼前の的へと一直線に並び……。


 臨界を迎えた魔力を解き放つため、ついに彼女の口から、力ある言葉が放たれる。



「――〈メギド・ライン〉!!」



 その瞬間、指向性を帯びた魔力が杖の先からほとばしった。


 それは、熱と光の二重奏。

 杖から放たれた光は、全くブレることも、揺らぐこともなく中央の的を捉える。


 文字通りに目を焼くほどの光の中で、俺は見た。

 杖から放たれた白光が一瞬のうちに的の全てを白に吞み込み、塗り潰すのを。


 そして、視界が晴れた時。

 俺の目の前にあったのは、「99999」と表示された電光掲示板と、



「――私、実はちょっとだけ、負けず嫌いなんです」



 魔法によって跡形もなく溶かされ、ただの棒だけになった的の残骸だけだった。

なろう特権「強すぎて的ごと壊しちゃいました」を先出しする女!!






大ピンチのフールに逆転の秘策はあるのか?

そしてフールが辿り着いた、このゲームの本質()とは?


次回、第五十七話

「ラディカル・グッドスピード」

は明日更新予定です

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成長率底辺のゲームキャラになった主人公が、裏技を使って英雄になっていく話です
主人公じゃない!

書籍二巻、コミック二巻ともに発売中!
二巻
― 新着の感想 ―
実戦では使い物にならないほどの遅さw 速さが足りない。
[一言] そりゃヒロイン枠はもう埋まっちゃってるからなw
[一言] 情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ、そして何よりも速さが足りない
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