55.守成 月
この作品のこと「にじゅゆ」って今は普通に呼んでますけど、これ元々は「なぜか作者だけがクッソダサいし絶対定着しない略称で自作品を呼んでる」ってネタのつもりで言い始めたんですよね
まあ特に誰も指摘しないどころか普通に受け入れられてる感が妙にツボったので、今後はこれでゴリ押ししていきたいと思います
突然の決闘の申し入れにあっけにとられる俺を前に、彼女はクスッと笑った。
「少し、演出過剰すぎましたか?」
「へ?」
そして先ほどまでの剣呑な雰囲気を一転させ、柔らかな笑みを浮かべると、ペコリと頭を下げる。
「不躾なことをしてしまってすみません。学内ではこういうのが流行っているので、一度やってみたかったんです」
それから地面に落ちた手袋を拾って、「この白手袋も購買で売ってるんですよ」と笑いながら丁寧にゴミを払う。
「は、はあ。つまり、決闘とかいうのは冗談?」
俺が問いかけると、彼女――月は首を横に振った。
「いえ、私と魔法決闘をしてほしい、というのは本当です。でも、決闘と言っても危ないことではないですから」
「え、違うの?」
「はい。学外の方と本当に決闘なんてしてしまったら、私が学校に怒られてしまいます」
朗らかに笑う月。
だが、どこかしら胡散臭く見えるのは気のせいだろうか。
「魔法決闘というのは要するに的当てゲームです。特別な的に魔法を撃って、強かった方が勝ち、という非常に単純なルールですね」
「なるほど?」
それなら確かに、危険はないように思える。
「どうでしょうか。形だけでも構わないので、魔法決闘を受けてくれませんか?」
「いや、生徒会の人がそんな適当でいいのか?」
俺が問いかけると、彼女はふふ、と思わせぶりに笑った。
「貴方は誤解しています。『生徒会』と言われたら『生徒会長』や『書記』のような役職を思い浮かべるでしょうが、生徒会というのは本来生徒たちによる自治組織なんです」
「ええと……それが?」
話が見えずに先を促すと、月は胸を張って言った。
「分かりませんか? つまり……その学校の生徒であれば、全員が生徒会所属だということです!」
「なんだその『消防署の方から来た』みたいなロジック」
そりゃ確かに「生徒会所属」としか言ってなかったが、その名乗りで役職持ちじゃないとは普通思わないだろう。
「じゃあ俺が怪しいって投書があったのも嘘か?」
もうこんな相手に敬語を使うのもバカらしい。
俺がぞんざいな口調で問いかけると、月は首を横に振った。
「ああいえ、そこも嘘じゃないです。私の友人が生徒会で書記をやっているんですが、彼女が『面白い投書があった』と話してくれたので、これはぜひ見に行かなければ、と」
「好奇心で来たのかよ……」
呆れて言うと、彼女はくすくすと笑い出した。
「だって、協会の公式の募集に載せている以上、そんなに無茶な嘘は書かれてないはずですから。冒険者協会お墨付きの募集文と、名前も分からない一生徒の言葉、どちらを信じるかなんて考えるまでもないですよね」
「う、うわぁ……」
自分の学校の生徒を微塵も信じてないな、こいつ。
こんな人間が生徒会とは……あ、いや、単なる平生徒(?)なんだったか。
俺の呆れた視線などどこ吹く風で、月はあくまで楽しそうに説明を続ける。
「ただ、それでも『いくらなんでもDランク冒険者にAランクのモンスターを倒せる力があるはずない』という意見は根強くあって、なら本人にお願いして力を見せていただこう、という話になったんです」
ポン、と可愛らしく手を打ち付ける姿を見せた彼女だったが、もう白々しいとしか感じられなかった。
俺の反応の薄さに焦ったのか、彼女は慌てて補足を始めた。
「あ、もちろん、そちらにもメリットは用意してありますよ。Aランク以上の冒険者には、Bランクまでの冒険者の昇格を推薦することが出来るんです。もちろん、実力のない人を推薦しても弾かれますし、制限なく出来る訳ではないですけど……」
「ああ、そういえば……」
本来、冒険者というのはE級から始まるらしい。
しかし俺の場合、ロストチャイルドという特殊な境遇と、ジュライからの推薦があったのでD級から始められた、という話は聞いた。
「話は分かったが、そんな権利を今日会ったばっかの俺なんかに使っていいのか?」
「なんか、ではありません! もし本当にAランクの魔物を倒せる力があるなら、その力を遊ばせておくのは人類の損失です!! 最近はシンジュクの奥が不穏ですし、ぜひとも……あ、すみません」
彼女は目を爛々とさせて前のめりにそう語ってきたが、俺が呆然としているのを見て、ハッとして身を引いた。
(案外熱い人、ではあるのか)
俺が面白いものを見るような視線を向けていると、その失態をごまかすようにコホン、と咳払いをして、月は話し始めた。
「とはいえ、それはもちろん、貴方が私に勝ったなら、です。その代わり、負けたらあのパーティ募集は取り下げていただきます」
「へ?」
「Aランクの私に負けるようなら、あの募集文は誇大広告になってしまいますから。それとも、自信がありませんか?」
安っぽい挑発だ。
だが、
「――いいや、やろう」
俺は躊躇わなかった。
即答で、その申し出を受ける。
この世界の一般的な冒険者がどの程度の実力なのかは興味はあるし、勝てば上のランクに推薦してくれるというのだから、乗らない理由はない。
「まあ、すごい自信ですね! 素敵です!」
ここで逃げられてはたまらないと思ったのか、月がわざとらしく俺を持ち上げる。
しかし、そんなことをしなくても、本当に俺に逃げるつもりはない。
だって――
――決闘しなくてもどっちみち、パーティ募集は取り下げるつもりだったんだからな!!
敗因:間の悪さ
次回更新は明日!