52.仁義なき「すごくない」争奪戦
やっと「〇ntil We Die」難易度カスタムで最終日の25日目に到達しました!
到達しただけでクリアしてないけどもうゴールしてもいいよね
パワーレベリングのため、能力値が伸びないはずの朔が異様な能力アップを遂げてから、一夜が明け。
俺たちはふたたび、Cランクダンジョンに潜っていた。
ただ、今日の目的は、ダンジョン攻略ではない。
朔のレベルアップや能力アップの原因を究明することだ。
昨日はあれから議論を重ねたが、結局は大量能力アップの原因は特定出来なかった。
だからこそ、今日は様々に条件を変えてその理由を探るつもりだった。
「よし、それじゃあ条件を変えて検証してみようか」
「はい!!」
二人とも、気合は十分。
「今日は絶対に風流さんがすごいんだって、絶対に証明してみせます!」
「どうかな。朔のスキルがぶっ壊れなんだって証明することになると思うけどね」
俺と朔は目を合わせ、バチバチと火花を散らす。
昨日の議論では、俺と朔の意見は食い違い、平行線の様相を呈していた。
「前のパーティにいた時はあんなに能力値は上がりませんでしたし、やっぱり風流さんの〈超成長〉がすごいんだと思います!」
「いや、前に組んだ人も俺の魔法でレベルが上がったけど、その人はいつもより能力値の伸びが悪いって言っていた。朔の〈応援〉か〈幸運〉がすごいんじゃないか?」
お互いに、以前組んでいたパーティではこんな能力値の伸びが発生しなかったことを理由に、お互いに原因があると主張し合っていたのだ。
とはいえこれも、検証をすれば分かることだ。
まず、朔とパーティを組んだ上で朔に補助魔法をかけてもらう。
光が俺を包み込み、ステータスカードを見て魔法が効果を発揮したのを確認すると、俺はダンジョンの入り口近くにいるモンスターたちに向かって掌を向けた。
「――〈氷神覚醒〉」
俺の声と同時に極寒の氷が魔物たちを襲い、数十匹の魔物が涅槃へと旅立っていく。
それを確認して振り返ると、ステータスカードを見ていた朔がワタワタと焦っていた。
「レ、レベルが58に上がりま……あっ、ま、待ってください! 今、59になりました!」
「ヨシ!」
ここまでは想定通り。
やはりパーティを組んだ上で補助魔法をかければ、間違いなく朔のレベルも上がるらしい。
「い、いや、よくないですよ! 能力値の上がりがおかしすぎてスルーしてましたけど、これもおかしいですからね!?」
「え? でもこいつら、レベル六十超えてるんだろ? だったらそのくらい……」
そのために、Cランクの中でも強めの魔物が出てくるダンジョンを選んだはずだ。
しかし、朔はすごい勢いで首を振った。
「そ、それは自力で倒した場合です! パーティを組んでいたら別の人が倒した魔物の経験値も入ってきますけど、それはあくまでも『おこぼれ』程度で、こんなにたくさんレベルが上がるはずは……」
「それこそ、朔の〈応援〉の効果じゃないか?」
「風流さんの〈超成長〉の効果かもしれないですけどね」
やはりここでも平行線。
しかし、ここでもめても意味がない。
「それより、能力値の伸びの方は?」
「は、はい。信じられないですけど、やっぱり普通に冒険してた時よりもずっとたくさん能力値が上がってます」
それならやはり、昨日の伸びは偶然でもカードの故障でもなかったことはこれで証明出来た。
ならば、ここからが本番だ。
「じゃあ次は……」
「はい。わたしは補助魔法も何もかけないので、単独で戦ってみてください」
補助魔法の効果が切れるのを待って、その影響が残らないように念には念を入れ、わざわざ一度パーティを解散して組み直してから朔と距離を取る。
これで俺が敵を倒した時に朔の能力が上がらなければ、やはり原因は朔の補助魔法にある可能性が高いと言えるだろう。
「――〈氷神覚醒〉」
ふたたびスキルを発動し、タイミングよく奥からやってきた数匹のモンスターを氷漬けにする。
俺の推論が正しければ、これではレベルは上がらないはず。
期待を込めて振り返ると、
「レベル、60になりました」
「……へ?」
嬉しそうにステータスカードを突きつけてくる朔がいて、俺は思わず間の抜けた声を漏らしたのだった。
※ ※ ※
そのあと、泣きの一回として俺に補助魔法だけをかけ、パーティを組んでいない状態で魔物を倒してみたが、これだと何回敵を倒しても朔のレベルは全く微動だにしなかった。
そのうえ、詳しく能力値の伸びを調べてみると、補助魔法をかけた時とかけてない時、上がっていた値にほとんど違いがなかったことまで明らかになってしまった。
ここまで来ればもうほとんど疑いはない。
朔のレベルアップと異常な能力値の伸びは、補助魔法とは何の関係もなかったことになる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! やっぱり何かを見落としてるって可能性はないか? 前に組んでた時は本当に能力値の伸びが悪くなったって言われたんだよ!」
俺は必死に訴えたが、朔の反応は懐疑的だった。
「その、失礼ですけど、その人の言葉ってほんとに参考になるんですか? 風流さんの知り合いなら、その人もやっぱり常識外れな……」
「し、失礼だな! いいか? その人は、キャリアの長いBランクの冒険者で、これまで何年もずっとソロで……あ」
そこで俺は、とんでもないことに気付いてしまった。
――能力値の伸び方は、パーティの人数が少ないほど高くなる傾向にある。
つまり、ジュンの「いつも」は「能力値の伸びが一番いい」とされるソロ基準。
その基準で「心持ち低めを引いたかなって程度」の値ってのは、もしかすると常人にとっては……。
「答えは、出たみたいですね」
俺の顔色を読み取って、朔が満足げにうなずいた。
そうしてたっぷりとタメを作ってから、ビシッと俺を指さすと、
「――すごいのは、あなたです!!」
犯人を暴く探偵のごときキメ顔で、そんな言葉を言い放ったのだった。
すごくないですの栄冠は朔の元に!!
これ何の話だろ??