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51.明かされる真価


 急いで待ち合わせ場所に選んだ冒険者協会近くの公園に行くと、そこにはすでに朔の姿があった。


「――風流さん!!」


 俺の姿を認めると、泣きそうな顔の彼女が一目散に駆け寄ってくる。


「無事でよかったよ、宇津木さ……あー、朔」


 呼び慣れない名前に一瞬言いよどんでしまったが、お互いに名前で呼び合うというのはパーティ結成時に決めたことだ。


 呼びかけは短い方が戦闘時などには便利だし、長い異世界暮らしでは完全に「フール」呼びが定着していたせいで、名字で呼ばれるとなんだか違和感があったというのが発端だが、今はそんなことはどうでもいいだろう。


 ステータスカードは冒険者にとっての生命線だ。

 それが壊れたということで、明らかにパニックになりかけている朔を落ち着かせるように、出来るだけゆっくりと話しかける。


「それで、ステータスカードが壊れたって聞いたけど……」


 俺の言葉にハッとなった朔は、手にしていたステータスカードを掲げ、必死に訴えかけてくる。


「そ、そうなんです! か、帰ってからステータスを見たら、カードがありえない数値になっていて……」

「ありえない数値?」

「これです!」


 オウム返しに尋ねると、言葉だけでは埒が明かないと思ったのか、押し付けるようにして俺に自分のステータスカードを見せてくる。



――――――――――――――

【宇津木 朔】


クラス:吟遊詩人


LV:57

HP:411/411

MP:879/879


STR:106

MAG:371

CON:289

MND:501

SPD:205



【汎用スキル】

補助魔法 Lv2


【固有スキル】

幸運

応援

――――――――――――――



「これは……」


 昼間には八だったはずのレベルが、いきなり五十近く跳ね上がっている。

 能力値の方も昼には百に届いている能力が一つもなかったはずが、どれも飛躍的に上昇して全てが百を超えている。


 確かに驚くべきことではあるが……。


「いやこれ、壊れたんじゃなくて普通にレベルが上がっただけなんじゃ?」

「……へ?」


 俺が指摘した可能性に、朔はぽかんと口を開けた。



 ※ ※ ※



 こんなの絶対ありえません、と主張する朔を説得して、魔法を唱えさせる。


「――オールアップ!!」


 長い詠唱のあと、以前にも見た光が俺の身体を包み込み、魔法が発動した。

 体感としては特に何かが変わったという感じはしないが、自分のステータスカードを見ると、その結果ははっきりと出ていた。


「あ、やっぱり効果強くなってるぞ」

「う、ウソ!?」

「嘘じゃないって、ほら」


 思わず身を乗り出してくる朔に、今度は俺のステータスカードを見せる。


 かつて、朔の補助魔法は一つの能力を二十程度しか上昇させられなかった。

 しかし、今、俺のステータスカードに表示された補正値を見ると、


「の、能力値が、百も上がってる!?」


 その上昇量は、およそ五倍程度に膨れ上がっていた。


「な、なん、で……」


 朔は自分のやったことを自分で信じられないようで、俺のステータスカードと自分のステータスカードを何度も見直しては、自分の正気を疑うように首を振っている。


「……しかし、これではっきりしたな」


 流石に、俺のステータスカードと朔のステータスカードが同時に壊れたなんてことはないはず。

 だとしたら、補助魔法の効果が跳ね上がったのは朔のステータスが飛躍的に向上したおかげだと考えていい。


 つまり、だ。


「ステータスカードは壊れてなんかない。朔は本当に、そのステータスまで『成長』したんだ」

「そんな……。あ、ありえないですよ!」


 そう俺が宣言しても、朔はいまだに信じられないようだった。

 必死な様子でまくしたててくる。


「だ、だって、強い人についていく形でパワーレベリングをしても、本人が戦闘に貢献してないって判断されて能力値が全然上がらないはずなんです! なのに……」


 確かにそれは最初に聞いていた情報と合致する。

 だが……。


「それについては、考えていたことがあるんだ」


 俺にはその理屈を根本から覆す、一つの仮説を思いついていた。


「確かに、攻撃魔法使いが敵を攻撃せずに戦闘を終えてしまったら、それは戦闘に貢献しているとは言えないと思う。能力値が増えなくても当然だ。ただ……」


 朔の職業は、それとは全く性質が違う。

 他人を「支援」することを役割とする、補助魔法使い。



「――補助魔法使いだけは、『補助した相手が敵を倒す』ことでも戦闘への貢献と認められるんじゃないか?」



 これが、俺がずっと考えていた、パワーレベリングされた朔が強くなった理由。

 もしこの説が正しいとすれば、朔は「すごいです係」になることでもほかと同じように強くなれる、まさに「すごいです係」を天職とするような……。



「――違うんです!」



 しかし、俺の披露した推論は、当の本人の叫びによって遮られた。


「もし本当に、パワーレベリングをされても普通に冒険した時と同じだけ能力値が伸びたのなら、きっとわたしは受け入れました。でも、でも、違うんです!」


 そう言いながら朔が見せたのは、手帳だった。

 そこに描かれていたのは、一つの図。


「折れ線グラフ?」


 そこには、これまでの朔のレベルアップでの能力上昇が、グラフにまとめられていた。

 まめだなぁと思いつつ、そのグラフをぼんやりと眺める。


(……あれ?)


 レベル八までは一個ずつ線が結ばれていたのに、レベル八から五十七までは太い一本の線でグラフが描かれている。

 いや、それはいい。


 だけど、もしこれが事実だとすると、この線の角度は……。


「……気付きました、よね」


 俺がハッと顔をあげると、朔はまるで動く理不尽を見るような目で俺を見据えながら、こう叫んだ。



「――普通に冒険してた時より、風流さんにパワーレベリングされてた時の方が、ずっと能力値の伸びがいいんですよ!!」



明かされた勇者の力の真価!!




なんか最近隔日ペースが板についてきちゃったけど次回更新は一応明日の予定

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成長率底辺のゲームキャラになった主人公が、裏技を使って英雄になっていく話です
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二巻
― 新着の感想 ―
ブレイバーや超成長のせいかな?
[一言] オールアップしたから……?
[良い点] 大金積んでパワーレベリング依頼殺到待ったなし!
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