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50.急報

すごい久しぶりな主人公視点


 溶岩の海も、凍らせてしまえば見晴らしのいい平地と大差はない。

 俺たちは溶岩の海をまっすぐに歩いて奥へと進み、その最奥にあった宝箱を開けた。


「よし、これでダンジョン制覇だ!」

「すごいです……けど、これ、Cランクのダンジョンですよね。こ、こんなに簡単でいいんでしょうか」


 どうやら宇津木さんは、俺が溶岩を凍らせるといういわば裏技を使ったことに引っかかりを覚えているらしい。

 確かに正規の攻略法ではないだろうが、ジュンもダンジョンに慣れてくるとバカ正直にギミックや謎に挑むより、自分の持つ技能を使って搦め手で突破することの方が多くなると言っていた。


 ダンジョン探索なんてこんなものだと思うが、やはり真面目な宇津木さんとしては納得しきれないものがあるのかもしれない。

 何か落とし穴がないか警戒しているようで、キョロキョロとしきりに辺りをうかがっていた。


「そ、そういえば、ボスも出てきませんでしたよね。もしかして、帰り道で奇襲されたり……」

「あれ? 気付いてなかったのか?」

「え?」


 驚いて振り返る彼女に、俺はあっさりと言った。


「溶岩を凍らせてちょっと経ったくらいの頃かな。ボスの撃破通知がカードに来てたから、たぶん溶岩の下にいたんじゃないか」

「え? え……?」


 さらに言うと、そのあとで使った範囲魔法で視界内の敵を一掃したら、全モンスター討伐の通知も来ていたので、ここで襲われる心配はもうないだろう。

 俺がそう告げると、彼女はどこかぼんやりとした顔をして、


「そ、そうです、か。すごい、ですね」


 とどこか無理のある表情で笑ったのだった。



 ※ ※ ※



 帰り道は、時折拾い損ねていたドロップアイテムを回収する程度で、特に何事もなく戻ることが出来た。

 冒険者協会でドロップの換金を頼んだ時、その量に宇津木さんが目を回すという一幕はあったものの、これで冒険の後処理も含めて全てが終わった。


 しかし、俺の、俺たちにとっての本番は、むしろこれからだった。


「宇津木さん!」


 どこか虚脱しているような宇津木さんに向き直り、俺は真剣な顔で声をかけた。


「今日一日パーティを組んでみて、思ったよ。俺は、今後も宇津木さんと一緒にパーティを組んでいきたい」


 彼女は冒険者養成学校に通っているだけあって俺の知らない知識をたくさん持っているし、彼女が持つ〈幸運〉スキルの俺との相性は最高だ。

 そして何より、「すごいです係」なんていう言い出した自分でもバカみたいだと思う役割を、一生懸命にこなしてくれた。


 正直に言えば、もうパーティメンバーは彼女以外考えられないというくらいに、俺は宇津木さんを気に入ってしまっていた。


「ほ、ほんとに、わたしでいいんですか? わたしは全然戦えないですし、一番得意な補助魔法だって……」

「パーティ募集にも書いたけど、戦闘力は求めてないんだ」


 今のところ、俺一人でも戦闘面で困っていることはない。

 少なくともCランクの魔物程度なら視界に入った瞬間に全滅させられる程度の強さはないと、一緒に戦っても余計に手間がかかってしまうだけだろう。


 その点、彼女が支援メインの補助魔法使いというのも俺にとっては理想的だ。

 補助魔法なら今後強くなれば俺の役に立ってくれるかもしれないし、パワーレベリングのせいで全く成長出来なかったとしても少なくとも邪魔にはならない。


「それで……どうかな?」


 とはいえそれは、こっちの都合だ。

 彼女が仲間になってくれるかは、彼女自身が決めること。


 俺が視線を向けると、彼女もまた、覚悟を決めたような真剣な顔で口を開いた。


「わたしは、ずっと、冒険者を目指してたんです。パーティの仲間を魔法で支えられるような、そんな冒険者になりたい、って。でも、『すごいです係』を引き受けてパワーレベリングをされたら、わたしはもう、ほかのパーティには入れなくなります。だから――」


 その言葉を聞いて、俺はうつむいた。


 やはり、虫がよすぎる提案だったか。

 残念だけど、仕方ない。


 俺が、そんな風に自分を納得させようとした時だった。



「――だから、責任取ってください!」



 彼女の口から、全く予想とは違った言葉が飛び出してきて、俺は戸惑った。


「え、責任……って」

「だ、だから、その、パーティを組むから、捨てないでください、というか、そういう……」


 照れたように顔を赤くする彼女を見て、ようやく俺の中に実感がやってくる。


「じゃ、じゃあ……」

「か、勘違いしないでください! パーティは組みますけど、別にあなたのためじゃないですから! ただ、わたしのことを必要だって言ってくれたから、ちょっと全力で支えてあげたいって思っただけなんですからね!」


 なぜ突然ツンデレ調になったのか、何が違うのかもよく分からないが、とにかくパーティを組んでくれるらしい。

 俺はいまだに錯乱した様子で何やらまくしたてる彼女に、手を差し出した。


「それじゃ、これからよろしく」


 宇津木さんは俺の顔と手をしばらく忙しそうに見ていたが、やがておずおずと手を伸ばして、



「……そ、その、こちらこそ。不束者ですが、どうかよろしくお願いします」



 ついに俺は、ぼっち冒険者を卒業したのだった。



 ※ ※ ※



(……本当に、よかったなぁ)


 彼女は俺と同じDランク。

「高ランク冒険者とパーティを組んで一気に高難易度ダンジョンに挑む」という初期の計画は完遂出来なくなったが、今となってはそこにこだわるつもりは全くなかった。


(冷静になってみると、別にダンジョン攻略を急ぐ理由なんてないもんな)


 世界を救うために必死になっていた勇者時代とは状況が違う。


 ドロップアイテムが落ちない問題ももう解決した。

 あとはのんびりと冒険者としてのランクを上げていけばいい。


 全てが順風満帆。

 そんな風に考えて、思わず笑みを浮かべた時だった。


「……ん?」


 机の上に置いた俺のスマホが、突然震え出した。


 着信の相手は……「宇津木 朔」。


 今日知ったばかりの連絡先からの通話。

 俺は嫌な予感を覚えながらも、すぐにボタンを押した。


「突然連絡してしまってごめんなさい! でも、大変! 大変なんです!」


 そこから聞こえた切羽詰まった声に、俺の中の不吉な予感が膨れ上がる。

 果たして、俺の予感を裏付けるかのように、通話口の向こうの彼女は泣きそうな声でこう叫んだ。



「――わたしのステータスカードが、壊れちゃったんです!!」



朔「何もしてないのに壊れた」





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みんなも買ってゲーム作ろうね!!!!!!!

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成長率底辺のゲームキャラになった主人公が、裏技を使って英雄になっていく話です
主人公じゃない!

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二巻
― 新着の感想 ―
あー補助魔法のせいかーw
[一言] それは正常だよ、正常なんだ、きっと。
[一言] ツンデレが可愛く思える日が来るなんて!? 初期のツンデレはよかったけど。最近のツンデレは理不尽すぎてイマイチだったのに。 こんなタイミングでまさかこのツンデレはいいなんて思う日が来るとはww…
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