49.天変地異
15日目余裕だぜ!って思った瞬間に前に出すぎて死んだので一日遅れの更新です!
「――オールアップ!」
長ったらしい詠唱のあと、風流が叫んだ。
本来であればここで光のエフェクトが舞い、対象者のステータスを強化するのだが、何も起こる様子はない。
「うーん。流石にぶっつけでは使えないか」
「それはそうです!! 〈オールアップ〉って初期の補助魔法の中でも結構高度な魔法なんですよ! 初見でそこまでやられたらわたしが困ります!」
ヒートアップする朔だったが、しばらくして興奮より疑問が勝ったようだ。
風流に向かって、おずおずと尋ねた。
「それより、どうしてわたしの補助魔法を受けただけでスキルを覚えたんでしょうか? も、もしかして、スキルを受けると使えるようになる技能を持っていたり……」
そう言いかける朔を、風流は首を振って止めた。
「あー、いや、たぶんそこまで無茶苦茶な話じゃない。きっと、俺が以前から補助魔法に馴染みがあったから、見ただけで覚えられたんだと思う」
「馴染みがあったのに、見たことがなかった、んですか?」
明らかに矛盾をはらんだ言葉に思わず突っ込むが、
「効果が同じでも、体系が違う技術を知ってるから、かな」
そんな、朔にとってはまるっきり理解出来ないことを言って、話を終わらせてしまった。
しかし、それでは朔が納得出来ないと気付いたのだろう。
困ったように一度考え込むと、謎の提案をしてきた。
「んー、そうだな。じゃあ試しに、ほかの魔法について話してくれないか?」
「ほかの魔法、ですか?」
「ああ。俺はまだ補助魔法以外にどんな魔法があるか、あんまり知らないからさ」
訝しげにしながらも、根が素直な朔は、彼に養成学校で習った各魔法の詳細について語り始めた。
そして、朔が一通りの魔法について話し終えた時、
「……あ、やっぱり」
風流は納得したように、自分のステータスカードを朔に突きつけてみせた。
「……へ?」
そんな軽い感じで見せられたステータスカード。
そこには、「光魔法 Lv1」「回復魔法 Lv1」の二つのスキルが新たに増えていた。
※ ※ ※
「すごいです! 確かにすごいですけど! でも、うぅぅぅ……」
固有スキルほどめずらしくはないとはいえ、汎用スキルも冒険者なら喉から手が出るほど欲しいものだ。
実際、朔は回復魔法を覚えようと年単位で努力しているが、いまだに習得が出来ていなかったりする。
(なのにまさか、話を聞いただけで覚えちゃうなんて……)
今までの常識が壊れるようなとんでもない現象に、朔は頭を抱えた。
「まあとりあえず、奥に進もうか」
だが、風流はそんな葛藤をすっ飛ばして、何もなかったかのようにダンジョン攻略を続けようとしていた。
「な、なんでそんな淡白なんですか? スキルが、スキルが増えたんですよ!」
「そうは言っても、今のところ必要なもんでもないしな」
「ひ、必要じゃないって……」
せっかくのスキルに対して、あんまりな言い種
だが、その言葉が真実だったと、風流はすぐに証明することになる。
※ ※ ※
「あれ、なんだか感じが変わったな」
風流たちが潜っているCランクダンジョンは、炎の属性を持つ。
熱波が吹きつけ、至るところから炎が噴き出す焦熱地獄のようなそのダンジョンの元の姿は、なんと「銭湯」。
あまりにも劇的なビフォーアフターではあるが、その真価はダンジョンの奥に潜ってから発揮された。
火山岩で出来たトンネルを抜けた風流たちを待ち受けていた光景、それは、
「――溶岩の、海!!」
視界一面に広がる、マグマの海だった。
(これが、Cランクダンジョン……)
あまりにもすさまじい光景に、朔は自分の身体が震えるのを止められなかった。
強いとか強くないとか、モンスターに勝てるだの勝てないだの、そんなことで競っている人間たちが、バカみたいに思えてしまう。
(これは、この光景は、そんなものを超越してる……)
ダンジョン化という現象は、言ってみればただお湯の入った大きな箱である銭湯を、「熱い液体が入っている」という共通点だけでマグマの海に変えてしまったのだ。
そんな神のごとき所業に、ただ戦闘力が高いとか低いとかいう次元で競っている人間が挑むなんて無謀としか言えないだろう。
(それに……)
現実的に考えても、このダンジョンの攻略は難しい。
よく見るとマグマの海には点々と浮島があり、それぞれの浮島はかろうじてジャンプして渡れそうな間隔の飛び石のようなものでつながっている。
そして、その一番奥、かろうじて見えるほど遠くには、ゴール地点のようなものも見えるが……。
(あそこまで辿り着くのに、どれだけの時間がかかるか)
いくつかの浮島にはモンスターの姿も見えるし、飛び石の間からは時折火柱や火の玉が飛び出し、その移動を阻害している。
足を滑らせて落ちたら終わりの状況で、あの不安定な飛び石の上で戦うことを考えると、心臓がキュッと縮まるような思いがした。
――ダンジョンというものを、甘く見ていた。
人は、自然には勝てない。
どんなに強い魔物を倒せる戦士でも、天才と呼ばれる魔法使いでも、天変地異の前には等しく無力だ。
人知を超えた存在であるダンジョンを攻略するためには、単なる力だけでは足りなかった。
どんな環境にも対応出来る知識や経験、それから地形や気候に対する備えが必要なのだ。
これは流石に無理だ。
朔は、風流に今回のダンジョンアタックはあきらめるように言おうと彼を振り向いて、
「――なんだ。これならすぐ終わりそうだな」
そこで初めて、風流が心底嬉しそうに、愉快そうに笑っているのを見た。
「あ、あの、何を……」
何やら嫌な予感を覚えた朔は思わず制止の言葉をかけようとしたが、それはわずかに遅かった。
風流は不敵な笑みを見せたまま、いつものように右腕を伸ばす。
そして……。
「――〈氷神覚醒〉!」
風流がそう口にした瞬間、マグマの海は瞬時に凍りつき、巨大なスケートリンクへと姿を変えたのだった。
多分これが一番……
あ、「Un〇il We Die」買おうか迷ってる人はまず7日目まで遊べる体験版落とすといいと思います
通常難易度なら多少適当でも何とかなりますし、今こっちがてこずってるのもぶっちゃけ下手なだけでそれ以上の難易度でも激ムズってほどでは(たぶん)ないです




