45.初めてのCランクダンジョン体験
早速気力が尽きました!(即落ち二コマ)
(ど、どうしよう……)
ずんずんとCランクダンジョンに向かって歩く風流の後ろで、朔は震えていた。
無事に風流と合流した朔はお互いに自己紹介をつつがなく済ませたのだが、実地でダンジョンに潜ってみなければ朔には風流の実力が分からないし、朔とパーティを組んだ時に本当にドロップアイテムが落ちるかどうかも分からない。
必然的に、「とりあえず二人でパーティを組んで、一度お試しでダンジョンに潜ってみよう」という話になったのだが……。
風流の、
「宇津木さんは支援職なんだよね。不安だったらまずは初心者ダンジョンで……」
という言葉につい、
「し、失礼なっ! わたし、こう見えてもDランクなんですけど! エリート冒険者を育てる学校? に通ってるんですけど!」
と言い返してしまったのだ。
すると当然、「そういうことならCランクのダンジョンでやってみようか」となる訳で、あれよあれよという間に朔はCランクダンジョンの入り口まで連れてこられてしまった、という流れだった。
(う、うぅ。支援職をバカにされた気がして反射的に……。ほんとはCランクのダンジョンなんて、来たことないのに……)
朔が所属していたパーティも、その平均レベルはせいぜいが二十五程度。
いまだ八レベルの朔よりは強いものの、Cランクのダンジョンに挑むにはいくらなんでもレベルが足りていなかった。
(Cランクのダンジョンって、レベル四十とかになって初めて行くか考えるような場所だよね? ど、どうしよう……)
足が震えるが、今更あとには引けない。
全く覚悟の出来ていないまま、朔は生涯初のCランクダンジョンアタックに参加することになってしまった。
そこで、朔はハッとした。
(も、もしかして、この人はここまで計算して? さ、誘い込まれちゃった!?)
朔の脳裏に、あんまり人には言えない漫画で見た、ヒロインがごにょごにょな目に遭うシーンが次々と浮かび上がる。
そのまま、怯えと警戒の混ざった瞳で風流の背中を眺めていると、
「ああ、そうだ」
「ひゃっ!?」
突然振り返った風流に朔は小さく悲鳴をあげたが、風流は特に気付かない様子で小さな石を差し出してきた。
「あの、これは……?」
「Cランクの脱出石だよ。ダンジョンに入る前に渡しておこうと思って」
その言葉に、朔はやっとパーティ募集の内容を思い出した。
(あ、そうか! すごいです係には安全のために脱出石を渡してくれるって……)
差し出された脱出石を、しっかりと両手で受け取る。
(ほ、ほんものだぁ!)
ひっくり返したり、触ったりして確かめてみるが、授業で習った通りの脱出石だった。
脱出石は使うと一気にダンジョンの外にまで脱出出来る便利なアイテムだが、非常に高価な代物だ。
脱出石にもランクがあって石のランク以下のダンジョンでしか使えないため、Cランクの脱出石となるとかなりの値段がする。
(い、意外とちゃんとしてる人、なのかな?)
命の危機で緊張していたところに救いの手を伸ばされ、朔は一瞬ほだされそうになる。
しかし、そこでハッと我に返って首を振った。
(だ、騙されちゃダメだよ、わたし! 「すごいです係」なんて募集する人がまともな人間なワケないんだから!)
朔は警戒のまなざしを忘れないまま、口を開く。
「い、いいんですか? 危ないと思ったら、本当に使っちゃいますよ? あとで請求なんてされても、は、払えませんからね!」
そんな風に確認してみるが、風流は笑って「当然だよ」と答えるだけ。
そして、ダンジョン前でパーティを組む瞬間、風流のカードを一瞬だけ目にした朔は、ひそかに目を見開いた。
(ほ、本当に、レベルが十五しかない……!)
朔が養成学校の授業で習ったところによると、ダンジョンによって幅はあるものの、Cランクダンジョンの適正レベルは一般に五十前後と言われている。
間違ってもレベル八とレベル十五で攻略するような場所ではない。
(だ、大丈夫なのかな、この人)
不安が募るが、しかし同時に、朔の胸には奇妙な義務感も生まれてきていた。
(うん! もしこの人が、単に自分の実力が分かってないだけなんだったら、わたしが助けてあげないと!)
脱出石は使った人間だけではなく、使った人間と接触している人間も同時に脱出させる力がある。
(この人が本当にこのダンジョンで戦っていけるのか、しっかり見極めよう。それでもし無理そうなら、わたしがこの脱出石を使って一緒に脱出させよう)
使命感に燃え、朔はギュッと脱出石を握りしめる。
そんな朔の決意に感化されたかのように、すぐにその機会は訪れた。
「……お客さん、かな」
静かに口にされた風流の言葉。
そこから時を置かず、ダンジョンの奥から数匹の犬型モンスターが駆け出してくる。
「ヘ、ヘルハウンド!!」
その姿は、朔も資料で見たことがあった。
――Cランクモンスター〈ヘルハウンド〉。
Cランクモンスターの中でも厄介な部類に入り、群れで襲われた場合、C級パーティでも被害が出る可能性が高いと言われる凶悪な魔物。
――あんなものに、自分たちが勝てるはずがない。
知識も理屈も、もはや不要だった。
その圧倒的な存在感に、肌で感じる力の差に、朔の足が恐怖にすくむ。
(わ、わたしが助けてあげないと!!)
それでもとっさに風流に手を伸ばし、一緒に脱出をしようと動いたのは、冒険者としての矜持ゆえか、はたまたその生来の気質ゆえか。
だが結論から言えば、その努力は無意味だった。
「――〈氷神覚醒〉」
風流が静かにそう口にした瞬間、全ては終わった。
「え……」
あれほど圧倒的に見えたヘルハウンドたちは一瞬のうちに氷の槍に貫かれ、断末魔の悲鳴を口にすることすら出来ずに地面に倒れる。
そして、倒れた彼らが起き出すことは、二度となかった。
あまりにも、朔の理解を超越した光景。
想像すらしていなかった結末を前にして、彼女は思わず、
「すごい……です」
とつぶやいたのだった。
記念すべきファーストすごいです!!
次回、第46話
「覚醒! 開花する秘められし才能!!」
は、たぶんきっとおそらく明日更新です!
色々お楽しみに!!