5.ジュライ
四連続目!
拉致されるように救助された俺は、安全な場所に護送されながらその救助隊(?)の人に話を聞くことが出来た。
「おっと、自己紹介を忘れてたな。オレはシンジュクダンジョン探索チームの伏見 寿来。ジュライって呼んでくれ。君の名前は?」
「あ、俺は篠塚 風流です」
慌てて名乗り返すと、ジュライさんは目を細めた。
「しのづき……フール?」
「あ、風に流れるって書いて、ふうるって読むんです」
「はー。オレも人のことはあんま言えないが、冗談みたいな名前だなぁ」
「あはは。よく言われます」
あけすけな言葉に、俺も苦笑いを返す。
割と失礼なことを言われているが、ここまであけっぴろげだと腹も立たなかった。
「しかし、無事な人間がいてくれてよかったよ。救援要請を受けてやってはきたものの、キャンプ地はあの有様だろう? 正直調査チームは全滅かと思っていたんだ。なのに、二人も生存者がいるなんて……」
「すみません!」
そこでたまらず、俺は口をはさんだ。
「俺、その調査チームとかいうのの一員じゃないんです! 信じてもらえないと思うんですが、気付いたらあそこに立っていて……」
勇者として召喚された、なんて与太話にもほどがある。
どうやって説明したものか、と俺が頭を悩ませていると、意外な反応があった。
「まさか君……ロストチャイルドか!?」
「ロスト、チャイルド?」
またも聞きなれない単語に首をかしげると、ジュライさんは首を振った。
「ああ、すまない。いわゆる〈ダンジョンインパクト〉……この世界にダンジョンが出来た時に、それに巻き込まれた人間のことだよ」
「ダンジョン……」
やはりこの世界には、そういう現実離れしたものがあるらしい。
「あぁ、悪いね。簡単に言うと、今から十年前。この世界に異次元からの侵略者が現れて、世界はゲームみたいに作り変えられてしまったんだ。世界各地には魔物がはびこるダンジョンが生まれ、人間にはそれに対抗出来る力として〈ステータスエフェクト〉が与えられた」
「は、はぁ……」
軽く言ってのけるジュライさんに、思考がついていかない。
「その、ダンジョン……は百歩譲っていいとして、いや、よくはないですけど置いておくとして。ステータスってなんなんですか? その、あんまりにもゲームっぽいというか」
「戸惑うのも分かるさ。ただ、これは人間が魔物に対抗するための手段として、『ゲームっぽく』することが最適解だと判断された結果らしい。君だって何も分からず魔物と戦うよりも、ダンジョン探索をする『冒険者』になって、自分の能力や技能をステータス画面で見ながら、レベルアップで強くなる、って方が馴染みがあって理解しやすいだろう?」
「それは……はい」
確かに俺が勇者をやっていたネクストマーチで苦労したことの一つに、自分の能力や敵の強さを体感でしか理解出来ないことがあった。
色んなものが数値化されてそれをゲーム感覚でやれるなら、確かにただ魔物と戦うよりは前向きにもなれるのかもしれない。
「話を戻すけど、世界各地にダンジョンが現れた時、ちょうどその場所にいた人間がダンジョンに取り込まれることがあったんだ。生存は絶望視されていたんだが、ダンジョンの攻略を進めるとその取り込まれた人間が見つかることがあってね。それが……」
「ロストチャイルド、ですか?」
「そう、その通り」
俺の言葉に、ジュライさんは大きくうなずいた。
「流石に最近はロストチャイルドが見つかることはほとんどなくなっていたんだが、何しろここは特異点。最初にダンジョンが出現した場所で、明らかに別の世界のものと思わしき遺物が転がってる特別な場所だ。今になって君のような人間が見つかってもおかしくはないのかもしれないね」
「特異点……」
やっぱり、この世界が俺が元いた世界と同じとは思えない。
もしかすると俺は、その特異点とやらの力でこの世界に引き寄せられてしまったんだろうか。
「しかし、それならなおさら無事でよかったね。ロストチャイルドはレベル一のままダンジョンに投げ出されることになるから、そのまま魔物に殺されてしまうことも多いんだ。魔物に襲われる前に見つけられて本当によかった」
「ああ、いえ。魔物には襲われましたよ。ただ、ステータスエフェクトっていうのをオンにしたらスキルが使えるようになったので……」
「まさか、ここの魔物を倒したのかい!?」
俺の言葉に、ジュライさんがこちらが驚くほどの大きな声を出した。
その声色には、明らかに今までとは質の違う驚きの響きが混じっていた。