38.選択
突然のブレイブ&ブレイド要素
――パーティメンバーは同程度の実力がないと強くなれない。
そんな衝撃的な事実をぶっ込んだあと、ジュンは困ったようにトラ耳をかいた。
「んー。まあ、その、クランならその辺りの調整もやってくれるかなーと思って薦めたんだけどな。簡単に言うと、この世界ではパワーレベリングをすると強くなれねえんだよ」
パワーレベリング、というのは俺もゲーム用語としてなら聞いたことがある。
要するに、強い人の力を借りて初心者が一気に強くなるみたいな意味だったはずだ。
「世界がこんなんなっても金持ちってのは当然いるからさ。昔はレベルの高い冒険者を金で雇って、楽に経験値を稼ぐ、みたいなのが流行った時期もあったらしいんだ」
「もしかして、それじゃあレベルが上がらなかったのか?」
俺が尋ねると、ジュンは首を横に振った。
「違う。けど、ある意味じゃもっと悪いかもな」
「もっと悪い?」
それ以上に悪いことなんてあるんだろうか?
俺が首をかしげていると、トラ耳の少女は深刻そうに告げた。
「そうやってパワーレベリングで経験値をもらった奴は、レベルだけが上がって、能力値がほとんど上がらなかったんだ」
「へ……?」
その言葉に、最初はあまりピンと来なかった。
だが、じわりじわりと理解が広がっていく。
「分かるか? この世界では、今のところレベルを下げる方法は見つかってない。だけど、高レベルになればなるほど次のレベルアップが大変になるってのは分かってるんだ」
「なら、レベルだけが高くて、能力値が低いというのは……」
俺の言葉に、ジュンはトラ耳フードの奥ではっきりとうなずいてみせた。
「ああ。単なる初心者よりも悪い。弱いのにレベルも上げにくい、最悪の状態。……はっきり言って、この状態になったら冒険者としては、詰み、だ」
とんでもないトラップもあったものだ。
何も知らなければ、当然強い人に頼ってレベル上げをしようとするだろう。
「レベルアップの時に上がる能力ってのは、本人の適性のほかに、それまでにどんな戦い方をしてたかで変わるらしい。だから、さっき言ってたパワーレベリングの場合は……」
「何もしていないのに経験値だけもらったせいで、全てが最低値になる?」
「ま、そういうことらしい。理由についちゃ、本当かどうかは確かめようもねーけどな」
そこまで話が進んだことで、俺はハッと気付いた。
「そういや初心者ダンジョンの時、ジュンも戦ってないのにレベルを……」
俺が言うと、それを予想してたようにジュンはパタパタと手を振った。
「あー、それについては大丈夫。強がりとかじゃなくて、本当にな。上がった能力も確かめてみたが、心持ち低めを引いたかなって程度でほとんど変わりはねえ。まあ、何年も戦ってきたあとで、ほんの二レベル分だけ楽したって、大きな差は出ないってことだ」
ジュンの様子を見る限り、どうやら嘘ではなさそうだ。
俺はホッと息をついた。
「ただまあ、それはあれが一回きりだったからだ。パーティを組んで何度も何度も戦ってたら……分かるよな?」
「……ああ」
実力差がある人間と組めば、相手の未来を潰してしまう。
たぶんそういうことなんだろう。
「かといって、今すぐフールと同じくらいのレベルのパーティを集めるなんてのも難しい。だから、アンタが今取れる道は二つだと思う」
それを踏まえた上で、トラ耳少女はこれからの俺が歩く道を示すように人差し指を立て、こう口にした。
「――まず一つは、パーティをあきらめて、ソロで少しずつランクを上げていく道」
つまりは、ある意味で現状維持。
今のダンジョン程度なら、一人でだって戦っていける。
時間経過を考えなければ、それだって有効な手段の一つだろう。
いや、それ以外にどんな手段があると言うのか。
俺が戸惑っていると、彼女はニヤリと笑ってもう一本の指を立てた。
「――そしてもう一つは、弱い冒険者と組んで、そいつらを育てていく道」
なる、ほど。
口にされた選択肢に、そういう方法もあるのかと納得した。
実力差があるとパーティメンバーが育たないのは、ほかの人間が戦わなくなってしまうから。
ならば逆に俺が自重して、パーティメンバーがちゃんと戦えるようにすれば、その問題も解決する。
ただしそうなれば、俺が高難易度ダンジョンに入る時期は、ソロの時よりもさらに遅くなってしまうかもしれない。
どちらも一長一短。
どっちを選んでも時間はかかる。
「――さぁ。フールは、どっちを選ぶ?」
ソロか、パーティか。
まるで小悪魔のように笑うトラ柄パジャマの少女によって、俺は究極の選択を迫られたのだった。
トラ耳フードのせいでシリアス感が出ない!!