37.白昼の恐怖! アパートに出没する人面トラ!!
「あ……」
今の住処である、冒険者向けのアパートに帰りつくと、冒険帰りだろうか。
ちょうどジュンが自分の部屋に入ろうとしているのが見えた。
それを見た俺の決断は早かった。
「――ジュンえもーん!!」
地面を蹴って飛び上がると、一気に階を飛び越えてジュンの隣へと着地する。
「お、おま!? ここ何階だと思ってんだよ! て、てか、寄るなって!」
しかし、ジュンの反応は冷たかった。
俺が近付こうとすると、慌てた様子でしっしと俺を追い払おうとしてきた。
「そ、そこまで嫌わなくても」
ネタ半分の行動ではあったが、あのジュンからそこまで嫌がられると少しこたえるものがある。
「ち、ちげえよ! ただ、その、アレだ。アタシは今、冒険帰りなんだよ」
「ええと、お疲れ様?」
「う、うん。ありがとう。……じゃなくて!」
ジュンはやはり俺を近付けないようにしながら、要領を得ないことを言う。
「だ、だからぁ! たくさん走ってたくさん戦ったから、その、汗のにおいとか、気にな……ああもう! いいからとっとと入って待ってろよ!」
唐突に逆ギレしたジュンに引きずり込まれ、俺は二度目のお宅訪問と洒落込んだのだった。
※ ※ ※
「――待たせたな」
家に引きずり込まれ、家主がシャワーを浴びるのを待つという微妙に居心地の悪い時間のあと、ようやくジュンがやってきた。
やってきた、のだが、
「おー。おか……え?」
風呂上がりのジュンは、猫耳フードのついた着ぐるみのようなパジャマを着ていた。
年齢を考えても小柄なジュンに猫耳パジャマはめちゃくちゃ似合っているのだが、普段の性格とのギャップでくらくらしそうになる。
「な、なあ、ジュン。その服……」
「へへ、お前も分かるか。これフードまでトラなんだぜ。カッコイイだろ!」
ノリノリで獲物に襲いかかるポーズまで取るジュン。
だが残念ながら、そこにはジュンが期待しているようなカッコよさは微塵もなく、もはや可愛いしかない。
「別のもの買いに行ったんだけど、このカッコイイフォルムに一目ぼれしちまってさぁー」
見せびらかすようにくるくると回る彼女に、「ジュンはしっかり者」というイメージがガラガラと崩れ去っていく。
それでも嬉々として話し出す彼女に真実を伝えることは出来ず、俺は急いで本題を切り出すことにした。
「そ、それで、相談なんだが……」
しかし、俺が話を切り出すと、トラ耳フードをかぶったまま、キリッとした顔で返してくれた。
「ま、用件は想像がつくぜ。パーティメンバーが欲しい、ってことだろ?」
「さ、流石だな」
俺が言うと、ジュンははぁ、とわざとらしくため息をついた。
「そりゃ、トライアルの噂はアタシも聞いたからな。おかげであそこは今、クランの副リーダーが追放されてごたごたしてるらしいぜ」
「え、えぇ? 大変そうだな」
あのハゲの試験官が勝手に希少モンスターを持ち出した、みたいな話は聞いていたが、それがそこまで大事になってしまったのだろうか。
「あー、まあ、責任を感じることはないんじゃねえか。あそこは武闘派な副リーダーが足を引っ張って統率が取れてないって話もあったし、遅かれ早かれって感じだろ。これからはダンジョン攻略よりももっと内政に力を入れる方針になるらしいぜ」
「なるほどなぁ」
きっと、あの試験官は副リーダー派のクラン員だったんだろう。
それが辞めさせられたことで、ギルド内の内部抗争が勃発して、みたいな話だろうか。
(クランってのも、なかなか大変なんだなぁ。だとすると、やっぱりクランよりパーティの方がいいか)
俺が勝手なクラン事情に思いを馳せていると、ゴホン、と咳ばらいをして、ジュンが話を再開させる。
「はじめに言っておくと、フールがパーティを組むのは難しいぞ。なぜなら……」
そして、
「――パーティメンバーは、全員同じくらいの実力がないと強くなれないからだ」
初っ端から絶望的な事実を突きつけてきたのだった。
なんでこの子出る度にヒロインムーブしていくんだろ