34.決闘
いまだに戸惑っている様子の少年に、「いやぁ、魔法禁止の決闘を認めてくれてよかったぜ!」と押し切って、練習用の木刀を押し付ける。
さわやかな擬態をしながらも、徳島は内心では邪悪な笑みを浮かべていた。
(オレはバカだったよなぁ! あいつに魔法を使わせないためには、こうやって最初からルールで封じておきゃあよかったのによ!!)
冒険者協会が黎明期に定めた決闘のルールは、非常に前時代的なものだ。
とにかく血の気の多い冒険者が命を落とすことがないように、と考えられたものだが、魔法を使えないようにしているのにスキルが使えるため、近接戦闘を得意とする者に圧倒的に有利だったり、武器の制限が刃の有無なので、鈍器を使う冒険者に有利だったりと、色々と不備がある。
(どっちにしろ、オレは破滅なんだ。だったらせめて、ムカつくこいつだけはぶん殴っておかねえとな)
あとは嵌められたことに気付いた少年が騒ぎ出す前に、決闘を始めればいい。
試合用の装置を作動させれば、会場は結界によって区切られ、中からは脱出出来るが外からは干渉出来ない空間となる。
そう思い、徳島は装置の方へ歩き出したのだが、
「……オイ、なんのつもりだ」
結界発生装置の前に、召喚士の女性が両手を広げて立ちふさがった。
「こ、こんな決闘、バカげてます! 今すぐ、中止してください」
だが、そう口にする女性の足は震えている。
それを見て、徳島は意地悪く唇を歪めた。
「はっ! いつもオレらの後ろで隠れて震えてた『泣き虫メイちゃん』が言うようになったな、オイ!」
「い、いくら相手が徳島さんでも、人が命を落とすかもしれないという場面で、止めない訳にはいきません!」
それでもあくまで立ち塞がろうとする女性に、徳島は苛立ったように舌打ちをすると、
「どけっ!」
乱暴に召喚士の女性の身体を押しのけ、装置を作動させた。
「待って! 待ってください、徳島さん!」
それでも召喚士の女性は食い下がろうとするが、発生した結界が彼女を押しのける。
こうなればもう、外からはどうすることも出来ない。
(さぁ、お楽しみタイムだ! これまで散々コケにされた借り、存分に返させてもらうぜぇ!!)
三、二、一、と試合までのカウントダウンが進む中、愛用のメイスを握りしめて、ウキウキと試合開始を待つ。
召喚士はまだ何かを言っているが、徳島はもうまともに聞いていなかった。
「資料を見てなかったんですか!? あなたは、勘違いしてるんです! 彼は……」
そして、試合開始の合図が鳴り、
「――彼は、魔法使いじゃない! 『魔法剣士』なんです!!」
その忠告が耳に届いた時には、全てが終わっていた。
試合開始と同時。
徳島が握っていたメイス、Aランクダンジョンのドロップ武器が、真っ二つになって落ちる。
「……ひょっ?」
それが、少年の持つただの木刀によって斬られたのだと理解した時、徳島はようやく悟った。
――自分は、この少年に絶対に勝てない。
なぜ、たかが魔法を封じたくらいで、有利になったと錯覚してしまったのか。
なぜ、これほどまでに格の違う相手に、張り合おうなんて気を起こしてしまったのか。
「あ、ぁ……っ」
走馬灯のように徳島の頭に後悔がよぎり、もつれる舌でなんとか降参の言葉を紡ごうとしたが、それは遅すぎた。
なぜなら、
「あ、ぎゃああああああああああああああ……へぶっ!?」
次の瞬間、徳島の身体は錐もみ回転をしながら飛んでいき、試合会場の結界を突き破って、管理ダンジョンの壁に頭から突き刺さっていたのだから。
そうして、徳島の意識と未来が深い深い闇に吞まれる、その直前に、
「よし! うまく手加減出来たな!」
という少年のはしゃいだ声が、追い打ちのように徳島の耳を打ったのだった。
成長していく主人公!
次回がトライアル編エピローグ
果たしてフールくんは無事にトライアルに合格することが出来るのか!?
次回、第35話
「お祈りメール」
ご期待ください!