33.男、徳島
(おわった……)
ガックリと、徳島はその場に崩れ落ちた。
自身の目でも確かめてみたが、徳島が部屋に持ち込んだモンスターは、確かに全滅していた。
探知しようとして全滅させた少年にももちろん責任はあるはずだが……。
「トライアルの際、挑戦者がクランの設備などを破壊してもお咎めがない代わりに、挑戦者がトライアル中に装備を破損したり怪我を負っても自己責任とする」
トライアル開始前に結んだこの契約が、徳島を責める。
そもそも、索敵試験に研究モンスターを持ち込む必要はなく、その全てが徳島の独断だ。
研究モンスターはどれも高価なもので、特に、Aクラスモンスターの〈ミスリルロック〉は、〈羽ばたきの大空〉の財政を支える柱の一つ。
あれ一つ失ったというだけで、徳島の責任問題は免れない。
(というかなんだよ! 探知魔法でAクラスモンスターを倒すってよお!)
などと思うが、実際にそうなってしまったものは仕方がない。
嘘をついて言い逃れしようにも目撃者が多すぎる。
――完全に、詰み。
追放か、賠償か、いや、それだけで済むかどうか。
(なんでオレは、こんなバカなことをしちまったんだっけ……)
徳島は、自らの行動を振り返る。
初めは、ダンジョンを知らない子供が舐めた態度をとっているのが気に食わなかっただけだった。
しかし、その子供が〈氷神覚醒〉という、誰にも真似出来ない力を見せたことに嫉妬して、何とかしてこいつを落としてやろうと躍起になって……。
(はは……。全部、オレの自業自得じゃねえか)
冷静になれば、自分がとても愚かなことをしていたのだと、徳島にも分かった。
クリアになった頭で、もう一度考える。
自分が、どうするべきだったのか。
自分が一体、何をしたいのか。
考えに考え、そして……。
「……まだだ。まだ、試験は終わってねえ!」
そして、徳島は顔を上げた。
彼はしっかりとした足取りで正面の前まで行くと、初めて少年の顔を正面から見つめ、言った。
「――少年。いや、篠塚くん。最後にオレと、一騎打ちをしてくれ」
……と。
「な、何を言ってるんですか、徳島さん! もう、試験は……」
「オレは!」
身勝手な徳島の言葉に、召喚士が激昂する。
しかし、
「オレは、もう終わりだ。勝手に持ち出した貴重なモンスターを全滅させちまったんだ。最低でもこのクランから追放。もしかすると、もう二度と冒険者をやれるかどうかも、分からない」
「徳島、さん……」
初めて見たかもしれない、先輩の弱気な姿に、召喚士の女性の勢いも弱った。
徳島は、今までの横柄な態度とは違う、気持ちのこもった真摯な声で、少年に訴えた。
「だから、最後に一度だけ。本当の『強者』と手合わせがしてみたいんだ!」
「え……」
戸惑う少年に、徳島は畳みかけた。
「これは、試験官としてじゃない。一人の冒険者として、いや、男としてのお願いだ! もちろん、君がオレよりも強いって、今ならオレにだって分かる! それに、この決闘が終わったら、結果にかかわらず篠塚くんの強さは包み隠さずクランに報告する! だから、だから……頼む!」
ガバッと、徳島は九十度まで頭を下げる。
召喚士の女性はクランの先輩の変わりように困惑しながらも、少年をかばうように声をかけた。
「篠塚くん。徳島さんはああ言ってるけど、これは受けなくても……」
「いえ。索敵試験で力加減を失敗したのはこちらですし、少しでも合格の可能性が上がるなら、やらせてください」
「っ!? あ、ありがとう!」
即断で応じた少年の手を、徳島が感極まったように握った。
そして、そっと涙を拭う仕種をすると、照れたように笑って、最初の会場まで歩き出す。
戦闘試験の会場まで戻ってきたところで、徳島がさわやかに問いかけた。
「改めて、最後の試験を受けてくれてありがとう。胸を借りるつもりで挑ませてもらおう。……ところでルールは、探索者手帳の決闘のガイドラインに書かれてる通りでいいかな?」
「え、ええっと、ガイドライン?」
「ああ。ダンジョン出現後の黎明期に探索者協会が定めたものでな。簡単に言うと、命を奪うような行為は基本禁止、刃を潰した武器で戦って、気絶か降参、定められたフィールドを出たら負け、ってところだ」
「なら、それでお願いします」
うなずいた少年を見て、徳島は我が意を得たり、とばかりに笑みを浮かべた。
そして、嬉しくてたまらないというように愛用のメイスを手に取ると、こう叫んだのだ。
「じゃあ、始めようか。――探索者協会の定めたルールに基づいた決闘、魔法禁止の真剣勝負を!!」
これが、徳島という男!!
次回、第34話
「大ピンチ!? 封じられた〈氷神覚醒〉!!」
を、お楽しみに!




