32.エコーロケーション
最近、作者名を「ウスバー(正直者)」にしたのは失敗だったような気がしてます
「そんなめちゃくちゃな! 部屋が見えない場所からだなんて、聞いたことが……」
「うるせえ、試験官はオレだ! オレがそうだって言ったらそうなんだよ!」
部屋の中を見ずに、部屋にいる敵の数を当てろ。
そんな索敵試験の内容に食ってかかる召喚士の女性だが、徳島は取り合わなかった。
「で、どうするんだ坊主。お前が嫌だって言うなら、試験放棄ってことで不合格にしてもかまわないんだぜ」
圧をかけるような徳島の言葉に、少年はわずかに迷っているようだった。
「魔法は、使ってもいいんですか?」
「ああ。その場所から動かないなら、な」
徳島がうなずくと、少年は「なら、やります」と言って、両手を前に出した。
もしかすると、少年は氷魔法だけでなく、探知の魔法が使えるのかもしれない。
浮かび上がったその可能性に、徳島はほんの少しだけ驚いたが、
(馬鹿が! 探知魔法くらい対策してねえと思ってたのかよ!)
それでも、その自信は微塵も揺らがなかった。
部屋に集めたのは〈羽ばたきの大空〉の研究したとっておきの魔物ばかりだ。
肉眼だけでも、魔法だけでも、その姿を暴くことは絶対に出来ない。
余裕の表情の徳島が見守る中で、少年はつぶやいた。
「――〈氷神覚醒〉」
目の前の光景に、徳島は思わず目を見開く。
だがそれは、少年がいつもの氷のスキルを使ったからではない。
むしろ、逆。
少年の手からあふれ出す氷の魔法が、過去のそれとはまったく違って見えたからだ。
「これは……」
ブリザードファングを氷漬けにした暴力的なそれとはまるで違う。
あくまで繊細で優しい波動が、薄いカーテンのように通路を駆け抜ける。
「一体、何をやって……」
全く状況を理解出来ない徳島の横で、
「エコー、ロケーション……」
呆然と、女性の召喚士がつぶやいた。
コウモリやクジラなどの動物は、自分が発した音の反響によって、物の位置を把握しているという。
自らも魔法を操る人間である召喚士の女性は、少年の放った魔法を見て、とっさにそれを思い出していた。
「熟練の魔法使いは、自分の魔法が当たったかどうか『魔力の手応え』で分かると言います。だから、理論上は幕のように魔力を放てば物の位置を把握することも不可能じゃない。でも……でも、そんなオカルトありえません! 仮に魔法が何かにぶつかったことが分かるとしても、それが生き物かを判別したり、数を把握するなんて、どこまで精密な魔力操作と鋭敏な感覚があれば……!」
氷の魔法による位置探知。
そんなものが実際に出来るとすれば、それはもうベテランとか新人とかそんなレベルを超えている。
もはや「神業」と言われる領域の技術。
しかし……。
「――分かりました」
少年は、篠塚風流というその規格外の少年は、そう言って徳島の方を向いた。
「十三体。あの部屋にいる魔物は、十三体です」
そうして、確信を持った口調で、そう告げたのだ。
まさか、という思いで、徳島は研究員に問いかける。
「お、おい! あの部屋の魔物は何体なんだ!?」
「そ、それは……直前に増やしたので数えてみないと」
「だったらさっさと行ってこい!!」
「は、はいぃ……!」
癇癪を起こした徳島に急かされ、研究員の男が部屋へと走る。
(魔法の手応えだけで魔物の数を数える? ありえねえ! 絶対、適当に言ってるだけに決まってる!!)
苛立った様子を隠しもしない徳島と、何かを恐れるように震える召喚士の女性。
二人が焦れ始めた頃、ようやく顔を真っ青にした研究員の男性が戻ってきた。
「おせぇ! 一体何匹だったんだ?」
「そ、それは、その……」
この期に及んで煮え切らない態度に、徳島が爆発する。
「さっさとしろ! 魔物は十三体だったのか!? そうじゃなかったのか!? 言え!」
「い、いえ! 十三体ではありませんでした!」
責め立てられ、研究員が口にした言葉。
それを聞いて徳島はにぃぃと笑顔を見せ、対照的に少年は驚きの表情を浮かべ、凍りついた。
(そうれみろ! やっぱりハッタリだったんじゃねえか!)
追い詰められていた徳島だったが、途端に余裕が戻ってくる。
目を丸くしている少年の顔を見て溜飲を下げながらも、現実的な思考も戻ってきた。
(チッ! 考えてみれば、こんなガキに研究中のモンスターまで当てる必要はなかったか。あそこにいる魔物は、どいつもこいつも高級なもんばっかりだ。独断で動かしちまったが、これで万が一、移動の時に一匹でもいなくなってみろ。オレもどやされる程度じゃ済まねえぞ)
とはいえ、今は勝利の時だ。
徳島はにまにまと笑顔を浮かべ、肩を落とす少年を慰めるというていで、いたぶってやることにした。
「で、結局は何体だったんだ? 十四か、十五か? それとも、もっとずっと多かったり……」
にやにやとしながら問いかける徳島だったが、
「ち、ちがい、ます」
研究員は、ふるふると首を横に振る。
そして、
「ゼロ、です」
「あ?」
何を言われたのか分からない。
そんな表情の徳島に、研究員は叫んだのだ。
「だから、ゼロ匹です! 部屋の中の魔物は、研究中の〈バブルバタフライ〉も、石に化ける〈ストーンミミック〉も、鋼鉄より硬いはずの〈ミスリルロック〉も、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ! 凍りついて、死んでいたんですよ!!」
「…………は?」
研究モンスターの全滅。
ありえない事態に、徳島と、召喚士の女性が図らずも同時に振り向く。
そして、今回の事件の戦犯。
あまりに強力な探知魔法でモンスターを全滅させてしまった少年は、「え? またオレ何かやっちゃいました?」という顔をしていたのだった。
【フール君メモ】
固有スキル:〈氷神覚醒〉
強力な氷の魔法が使えるようになるっぽい
長所 つよい
短所 つよすぎる
次回、第33話
「改心した徳島! 一人目の仲間はハゲのおっさん!!」
を、お楽しみに!
※次回予告の内容は開発中のものであり、実際の製品とは異なる場合があります




