30.魔王を倒して現代日本に戻ってからたくさんのスキルを覚えたけど、それ全部〈氷神覚醒〉で済むからもう遅い
ミスって変な区切りで投稿してしまった
「へぇぇ。召喚士って、そうやって新しい魔物を召喚出来るようになるんですね」
「そうそう。だから私は前線にはいるけど、パーティのみんなに助けてもらってる感じかなぁ。あんまり戦うのとか得意じゃないから、ほんとに召喚士になれてよかったよ」
和やかな声が、ダンジョンの通路に響き渡る。
「え、っと、篠塚くんのクラスは〈ブレイバー〉だったよね? 初めて聞いたけど、それってどんな職業なの?」
「あー、ステータスに目覚めてから日が浅いのでちゃんとは分からないんですが、たぶん氷の魔法と……」
少年と、それから同じクランに所属する召喚士の女性の和やかな話し声を背中に受けながら、
(あの女ぁ! 裏切りやがってぇ!!)
一人前を行く徳島は、ギリギリと歯を食いしばっていた。
(馬鹿野郎が、なんで分からねえんだ!)
この規格外の氷スキルを使う魔法使いの少年は、確かに強いのかもしれない。
だが、だからといって加入させれば必ずクランの秩序を乱す。
(この小僧は劇薬、いや、爆弾だ)
今まで徳島たちがコツコツと積みあげてきたものは、一瞬のうちに崩壊してしまう危険性すらある。
この力に惹かれ、クラン内では不和が生じて、内部分裂が起こる危険性すらあるかもしれない。
だからこの少年を合格にさせるワケにはいかない。
それは確定だ。
――なら、それを素直に話して帰ってもらうか?
(冗談じゃねえ!!)
その選択肢は徳島にとって、考慮するにも値しないものだった。
(オレたちはもう何年もの間、厳しいダンジョン探索と向き合ってここまで上り詰めたんだ。ただ才能に恵まれただけのガキに頭なんて下げられるもんかよ!)
激しい熱に浮かされるように、徳島は拳を握りしめる。
(それに、もしこのままこの小僧を帰したらどうなる? こいつは〈羽ばたきの大空〉のトライアルなど大したことなかった、と吹聴するだろう。そうなれば、〈羽ばたきの大空〉は終わりだ)
冒険者はなんだかんだ言っても腕っぷしが物を言う世界。
一度舐められたら、そこでおしまいだ。
少なくとも、徳島の常識ではそうだった。
だから、トライアルには挑んだけれども難しすぎた、という形で少年には不合格になってもらわないと困るのだ。
(クソ! だが、どうすりゃいい?)
今日のトライアルで残っているのは、「索敵試験」だけ。
これはそれこそオマケのようなもので、実力を見るというより、〈羽ばたきの大空〉が保有する様々なモンスターを新人に見せ、経験を積ませるオリエンテーションに近い試験だ。
もちろん身の危険はなく、裏切者の召喚士の女がもう試験は終わったかのような態度で少年と話しているのも、それが原因だろう。
しかし、
(……このままじゃ、終わらせねえ!)
徳島は一人、目をギラつかせて拳を握る。
〈盗賊の道〉と同じだ。
難易度が低いなら、高くしてしまえばいい。
(そうだ。このクランには、オレにはこれまで積み上げてきた「財産」がある)
それを総動員すれば、次の索敵試験を誰にも攻略出来ない難易度に変えることだって、不可能ではない。
何より……。
(――この試験なら、ご自慢の氷の魔法は絶対に役に立たねえだろ!)
得意の魔法が役に立たずに狼狽する少年の姿を思い描き、徳島は自覚なくいびつに唇を歪めた。
そして、次の試験の「準備」のため、こっそりと部下に連絡を取り始めたのだった。
次回、第31話
「大ピンチ!? 封じられた〈氷神覚醒〉!!」
を、お楽しみに!