28.探索試験
「あの、徳島さん」
戦闘試験が終わり、次の試験の会場に向かう途中。
召喚士の女性は、少年に聞こえないようにこっそり、徳島に耳打ちをする。
「もしかして、いえ、もしかしなくても、この子、私たちの手には負えないんじゃ……。落とすにしろ、入れるにしろ、まずリーダーに相談して……」
少年、風流の強さが尋常じゃないと分かった以上、これ以上の独断での決断は危険。
彼女は、そう判断したのだが……。
「必要ない!」
徳島は、語気を荒らげて突っぱねた。
「で、ですが……」
「問題ない。どっちみち、あいつは次の試験で落とす」
「え……」
本来なら、ここからの試験は戦闘試験で満足に見られなかった技能を追加で診断する、いわばプラスアルファを見る試験。
戦闘試験の結果がよければ、なくてもいいようなもののはずだ。
それに、次の「探索試験」の難易度はそう高くはない。
少年がよっぽどのミスをしない限り、不合格の口実を作ることも……。
「こっちだ」
そんな風に混乱する女性を無視して、徳島は少年を脇道へと誘導する。
だが、その行先を知って、女性は目を見開いた。
「ま、待ってください! こっちは……」
「ああ。〈盗賊の道〉、だ」
にやりと答えた徳島に、女性は戦慄する。
――〈盗賊の道〉。
それは、クランにいるベテランが、盗賊技能を磨くためにと作り上げたトラップゾーン。
一つ一つの罠が最大級の悪意を持って挑戦者に襲いかかる、「殺し間」だ。
「ま、まさか……」
「ああ。あいつに突破してもらうのは、入団試験向けのお遊びコースじゃねえ。あの〈盗賊の道〉だよ」
徳島の浮かべる黒い笑みを見て、女性は悟る。
彼は、クラン試験に使うはずもないベテラン盗賊向けのトラップを試験と偽って、少年にぶつけようと言うのだ。
「そ、そんな! 相手はレベル十四の魔法使いですよ! いくら殺傷力を抑えているとは言っても……」
「ま、罠の当たり所が悪ければ骨くらいは折れるかもしれねぇな。だが、忘れたか? この試験は全部『自己責任』なんだよ」
トライアルの際、挑戦者がクランの設備などを破壊してもお咎めがない代わりに、挑戦者がトライアル中に装備を破損したり怪我を負っても自己責任とする。
そんな契約を、トライアル参加者は試験が始まる前にすでに結んでいるのだ。
「で、ですが、そんな騙し討ちのような……」
「そうは言っても、普通の試験じゃあいつの力なんて見れねえだろ。大丈夫だ。もちろん、危なくなったらオレが助ける。それとも、オレが信用できねえって言うのか?」
「そ、そんなことは……」
内心で舌打ちしながらも、徳島が力強く救助を約束すると、気の弱い召喚士の女性はすぐに押し切れた。
少年と、無言になった女性を連れ、徳島が戦闘試験の会場から離れ、完全に洞窟と化した管理ダンジョンを進んでいくと、「その場所」はすぐに姿を現した。
――直径三メートル、長さ三十メートルほどの、直線の道。
一見何の変哲もないこの小道こそが、数多の冒険者を絶望に叩き落とした「殺し間」なのだ。
自らもこの道に挑み、そして一度も突破出来なかった徳島は、唇をいびつに歪ませる。
(せいぜいあがいてみせろよ、坊主! ま、この〈盗賊の道〉を突破することは、絶対に不可能だけどな!)
待ち受ける絶望の未来!!