3.新たなる力
本日二話目の更新です!
「……く、そ」
巨人のこん棒の直撃を受けた俺は為す術もなく地面を転がり、建物にぶつかって止まった。
よろよろと身体を起こすが、思ったよりもダメージが大きい。
(……魔力がない、のか)
前の世界では大気に満ち溢れていた魔力が、この世界では全く感じられない。
(まずい、ぞ。これは……)
勇者としての力を失った俺に、怪物に渡り合う力なんてない。
ズン、ズンと地を揺らしながら近付いてくる一つ目の巨人。
奴がここまでたどり着いたら、その時は終わりだ。
(……まさか、ここで死ぬのか?)
魔王を倒して、やっと日本に帰ってきたのに。
こんな訳も分からず、何の意味もない戦いで、あっけなく殺されるのか?
だが、その時……。
――《ステータスエフェクト アクティベート》。
唐突に。
何の前触れもなく、脳裏にそんな単語が浮かんでくる。
「ステータス……エフェクト?」
状況も忘れ、思わず呟いた刹那。
「……は?」
――――――――――――――
【篠塚 風流】
クラス:ブレイバー
LV:1
HP:325/325
MP:495/495
STR:220
MAG:375
CON:115
MND:135
SPD:185
【汎用スキル】
剣技 Lv3
炎魔法 Lv5
氷魔法 Lv1
【固有スキル】
奇運
超成長
炎陣乱舞
魔纏練装
氷神覚醒
――――――――――――――
視界に浮かび上がったのは、まるでゲームみたいなステータス画面。
一番上に表示された自分の名前に、どこか納得の出来るパラメータ傾向。
だが、一番目を引いたのはその最後。
「固有スキル」と記されたその最後尾にあった文字列が、不思議と俺の目を引き付けた。
「……氷神、覚醒」
ぼそりと、つぶやく。
その瞬間、俺は自分の体内に渦巻く新たな力に気付いた。
「そう、か」
かつて、俺の召喚者であるフォルス・A・プリルは言った。
――「あなたの中には、二つの相反する大きな力が見えます」、と。
その一つが炎。
全てを燃やす力であり、活力の象徴。
そして、もう一つが……。
「――〈氷〉の力」
全てを凍らせる力であり、停滞の象徴。
それは、選ばれることのなかった選択肢。
俺の中に眠っていた、もう一つの可能性。
「グオオオオオオオオ!!」
巨大な一つ目が、迫る。
だが、その姿に俺は、もはや脅威を感じていなかった。
二者択一の選択で、フォルスは「炎」を選んだ。
勇者召喚によって励起出来る力は一種類だけ。
それなら、魔物を倒すという目的の上では「氷」より「炎」の方が効率的だと考えたからだ。
だが、今なら分かる。
その「力」の強さは、決して炎に劣らない!
「――〈氷神覚醒〉」
今度は確信をもって、そう口にする。
体内で渦巻く力が、指向性を与えられて動き出す。
勇者の力を得ていたからだろうか。
その力の使い方は、自然と理解出来ていた。
「――凍れ」
たったの一言。
静かなその一言が、全てを変えた。
「ガアアア、ア、ガ……?」
哀れな獲物に向かって意気揚々と向かってきていた巨人の足が、止まる。
その時になってようやく、巨人は自分の足が地面に縫い付けられるように凍らされていることに気付いたが、もはや遅い。
「ア、ガ、グ……」
凍結は足から膝へ。
膝から腰へ。
腰から胴体や腕へと、急速に広がっていく。
そして、もはや顔だけを残して身体の全てが凍りついた巨人に向かい、俺は手のひらを差し出した。
生み出すのは、氷の槍。
どんな硬い皮膚も、怪物も、一刺しに貫く鋭利な刃。
「ガ、ガアアアアアアアアアアアアアア!!」
自分の運命を悟った巨人が、氷から逃れようともがく。
だが、それも無駄な抵抗だ。
「――終わりだ。〈氷神槍〉!!」
突き出した手のひらから、氷の槍が飛ぶ。
それは目にもとまらぬほどの速さで突き進み、見事に巨人の胸の中心を貫いたのだった。