27.タイミング
ブリザードファングの霊圧が……消えた……?
(――ありえねえ! どういうことだ、こりゃ?)
徳島は、氷の彫像と化したブリザードファングを前に、狼狽していた。
氷属性が全く効かないはずのモンスターを、まさか氷の魔法で凍らせてしまうなんて事態は、完全に徳島の想像の範疇を超えていた。
混乱する頭で、必死に考える。
(氷の魔法そのものは効かないが、魔法で生み出した氷に閉じ込めることでその動きを封じた、ってことか? だが、仮にもBランクにも至るような魔物が、魔法の氷程度を破れないなんてことがあるのか)
徳島は恐る恐る氷漬けのブリザードファングに近付くと、手にしたメイスの柄でその氷を叩いた。
(か、かてえ!)
本気で叩いても、まるでビクともしないどころか、傷すらつかない。
その事実は、彼をさらに戦慄させる。
「氷魔法がブリザードファングに効いた」という事実のあまりの衝撃に、徳島は最初、そればかりに気を取られてしまった。
だが、ブリザードファングが氷漬けになってから数十秒経っても、氷の獣が動き出す気配がない。
(仮にもBランクの魔物を、数十秒にもわたって拘束する、だと!? そんなもん、レベル十四のヒヨッコが使えていいもんじゃねえぞ!!)
効果も、その強さも、規格外。
徳島は氷漬けの魔物を見上げたまま、つかの間呆けていた。
「あの!」
だが、そんな徳島に、少年から声がかけられる。
「これで、戦闘試験は合格、ってことでいいですよね?」
自分が合格をすると疑っていない、そんな表情。
それを見て、徳島の中の負けん気がふたたび燃え出すのが分かった。
(ふざけんなよ! オレたちは、シンジュクでも名の知れたクラン〈羽ばたきの大空〉だぞ! こんなろくにダンジョンに潜ったこともねえガキに、舐められるワケにゃあいかねえ!!)
徳島はとっさに威厳ある表情を取り繕うと、もっともらしい顔でうなずいた。
「……そう、だな。まあ、ギリギリ及第点、ってとこか」
「え?」
「えっ!?」
少年と、そして隣に立っていた召喚士の女性までがギョッとして徳島を見たのを意識しながらも、彼は止まらなかった。
「いいか? 冒険者ってのは魔物を倒せて一人前だ! いくら氷魔法が拘束が得意だからって、こんな風にただ動けなくしただけじゃ……」
そう言って、徳島が大げさに手を振って氷漬けのブリザードファングを示した瞬間だった。
「あ……っ」
氷像と化したブリザードファングの巨体がぐらりと揺れ、そのまま地面に倒れ込んで砕け散る。
魔物の身体は瞬きの間に光の粒子となって消滅し、あとに残るのはただ静寂だけ。
「え、と……」
魔物がいた場所を指したまま固まった徳島と、それを気まずそうに見守る少年と召喚士。
その場を、ただ居心地の悪い沈黙だけが支配する。
「……あの、徳島さん?」
見かねた召喚士が彼に声をかけると、徳島はゴホン、と大きな咳ばらいをしてから口を開き、
「ご、合格だ。……だが、勘違いするなよ! まだまだトライアルは始まったばかりだ! 次の試験はただ腕っぷしが強いだけじゃどうにもならねえから、覚悟しておくんだな!」
真っ赤な顔で叫ぶと、逃げるように試験場の奥に駆け出していったのだった。
最後の徳島の台詞をちょっとツンデレ風にしようかとも思いましたが、どこに需要があるのか分からないのでやめました