25.無謀すぎる挑戦
ラーヴァゴーレムに手も足も出ずに敗れた魔術師の男がとぼとぼと帰っていくのを見守りながら、徳島もまた、苦い顔を隠さなかった。
(今回のトライアルは、完全に不作だな)
合格者も何人か出ているものの、総じて小粒な印象が強い。
もちろんすぐにクランの危機には直結しないものの、この状態が何年も続けば〈羽ばたきの大空〉の勢いにも衰えが出てしまうだろう。
原因は分かっている。
超大規模クラン〈輝きの聖剣〉がさらにその力を伸ばし、優秀な人材が軒並みそこに吸われていってしまっているからだ。
(チッ。業腹だが、あの小僧に期待するしかねえかもしれねえなぁ)
そこで徳島が思い浮かべたのは、クランの後輩だ。
スカウトを主に担当しているその男が、朝から「すごい新人がいるかもしれない」と言って外に出ているのだ。
その後輩はネットの怪しげな掲示板とやらを情報源としているらしく、昔気質の徳島としては正直あまり気に入らない。
実際、情報を基に行動してみたものの、全くの無駄足だったり見当違いだったりということは多々あった。
しかし一方、そのネット情報を基にした勧誘で、彼が主力級の人材を何人も引っ張ってきているのも事実。
気に食わないとは思っていても、それで上げた成果については素直に称賛する。
頑固者の徳島ではあったが、その程度の器量は持ち合わせていた。
とはいえ、まずは自分に出来ることをしなくてはならない。
「で、今日のトライアル参加者はあと何人だ?」
気を取り直した徳島が隣の女性に話しかけると、女性は資料に目を落としながら答えた。
「今日は次で最後みたいですね。今日申し込みをしてきた飛び入りです」
「飛び入り、ねぇ」
嫌な話を聞いた、と徳島は顔を歪めた。
(記念受験か、単にこのトライアルを舐めてるか。どちらにせよ、期待はできねえな)
準備の期間が実力に比例するとは限らないが、経験上、飛び入りの参加者のレベルは総じて低い。
徳島はすでに、最後の一人が合格する可能性をほぼ捨てていた。
「どうぞ!」
そうして、女性の呼びかけに応えてやってきた少年を見て、徳島は、
(こいつ、ふざけてんのか?)
ギリ、と歯を食いしばった。
トライアルに飛び入りで申し込みをしてきたというその少年は、防具らしい防具を身に着けておらず、それどころか武器すら何一つ持っていなかったのだ。
剣士であれば剣は必須、魔法使いであっても、魔法の威力を高めるために杖は必要だろう。
想定した以上の意識の低さにめまいを覚えながらも、徳島はやってきた少年の資料を読む。
(しのづか、ふうりゅう? ずいぶんけったいな名前だな。年は十八で……ダンジョンアタック回数、一回!?)
徳島は思わず目をむいた。
ほぼ完全なダンジョン初心者。
(それにしてはレベルは十四と高い。得意なことは……ははぁ、氷魔法、か)
そういうことか、と徳島は内心でうなずいた。
初めて行ったダンジョンで優秀なスキルを使って無双するうちに、勘違いしてしまう輩は一定数いる。
優れた固有スキルを持っている若者にはありがちなことだ。
そして……。
――そういう増長した若者に、「現実」を教えてやるのが、大人の務めという奴だ。
徳島は歪んだ笑みを浮かべると、内心を隠しながら親し気な様子で少年に話しかけた。
「ようこそ、〈羽ばたきの大空〉へ。さあ、楽しい楽しいトライアルを始めようか!」