1.勇者の帰還
いよいよ新連載始めます!
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「バカな、わたしが……人間ごときにぃいいいい!!」
今出せる力を全て出し切った、正真正銘の渾身の一撃が魔王に突き刺さる。
魔王は断末魔の叫びを残し、ついに消滅した。
「へへ……。ざまあ、みろ……!」
魔王が消えたのを確認して、俺はドサリとその場に倒れこんだ。
(長かった……)
この世界に勇者として召喚されてから二年。
血を吐くような鍛錬と無限に続くかのような魔族との戦いの日々は、この瞬間、とうとう終わりを迎えたのだ。
だがその時、
「――誰だ!」
背後から聞こえた足音に、俺はすぐに立ち上がって振り返った。
「――あら? 勇者様は、私の顔を忘れてしまったんですか?」
魔族の残党か、と思いきや、聞こえてきたのは聞きなれた涼やかな声。
俺は一気に脱力し、思わずその場に座り込みそうになった。
「お、脅かさないでくれ。心臓に悪い」
「ふふ、魔王を倒した勇者様が、ずいぶんと弱気ですね」
澄ました顔でそう言い放つのは、フォルス・A・プリル。
大国の王女にして、俺を召喚した張本人だ。
「む、無茶言うなよ。瀕死なのは見て分かるだろ」
魔王との戦いは、まさに死闘だった。
勇者の力も魔法も全て使い果たして、身体強化に使う魔力すらもう残ってない。
「冗談ですよ。……本当に、お疲れ様でした。あなたのおかげで、この世界は救われました」
「フォルス……」
そう言って、彼女は深々と頭を下げる。
ただ、湿っぽくなったのも一瞬だけ。
「さ、じっとしていてくださいね。すぐに私が治してしまいますから……」
すぐに楽しそうな笑みを浮かべると、俺の方に駆け寄ってくる。
しかし……。
「ありがたいけど、その必要はなさそうだ」
「え……?」
きょとんとするフォルスに、俺は地面を指さした。
「もう、時間みたいだな」
足元を見れば、いつのまにか俺を中心とした魔法陣が出現していた。
忘れもしない。
これは、この世界に呼ばれる時に出てきたのと全く同じ魔法陣だ。
(ああ……。ようやく、日本に帰れるのか)
魔王を倒したばかりでせっかちだな、とは思うが、もともと俺が召喚されたのは「魔王を倒す」ため。
役目を終えたなら、元の世界に戻るのが道理ってもんだろう。
「待って! 待ってください! 私、まだあなたに何も……!」
かつて一度も見たことのないほどに必死な様子で、フォルスが俺に手を伸ばす。
だが、その手が届くことはなく……。
「――じゃあな。フォルスも、元気で」
その言葉が彼女に届いたか確かめる間もないまま、俺は異世界ネクストマーチから旅立った。