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満月の日に、秘密を。  作者: 彩夏
第1章 強がり少女とホットココア
3/3

過去

「ね、早く~!石焼き芋の車、遠ざかっちゃう!ほらみんな、走って走って!!」

「もう、サツキ。そんなに焦らなくても追い付けるよ。それに、あの石焼き芋屋さん、いつも広場に停まってるし。ね、アキ、ハル。・・・それとナツ」

「ちょーっと待って!今、あたしの存在忘れかけてたよね!?フユ、あたしの名前だけ付け足したじゃん!焦らなくてもいいのには同意見だけど!疲れた!」

「まぁまぁナツ、そんなに怒らない。――あ、私も同意見。もう疲れたっ!サツキ、休憩ぷりーず?」

「ハル・・・なにふざけてるの。そんなこと言っても、サツキは休憩させてくれないって。鬼だもん、鬼」

「こらー!アキ、鬼ってなんだ~!?」


 その頃、サツキには沢山の友達、そして大事な親友4人がいた。冬梛(ふゆな)夏実(なつみ)美春(みはる)明希(あき)。その親友達と、毎日のようにくだらない話で笑いあい、遊んでいた。サツキは、みんなと馬鹿騒ぎするのが凄く楽しかった。


 状況が変わったのは、3年生に進級し、クラス替えがあった4月。

 サツキの通っていた学校は一学年に5クラスあり、親友達とは全員と離れてしまった。それでもサツキは持ち前の明るい性格で新しいクラスでも友達を増やし、クラスの中で中心的な人物になっていた。


 みんながクラスに慣れた2学期、いじめに近い"ゲーム"が始まった。それはどこの学校でも起こりうるような、あるひとりを無視するという残酷なゲームだった。助けを求める声にも耳を貸さず、悪口を言って意地悪をしてターゲットを傷付ける。

 どうしてこんな"ゲーム"が流行ったのか、行われたのか、今ではもう想像がつかない。こんなの、悪に決まっているのに。

 最初のターゲットになったのは、クラス内で一番かわいいと噂の内気な少女だった。

 サツキの周りの人達は、みんな彼女を無視した。普通はそうだ。そんなゲームに巻き込まれたくないのはみんな同じ。

 だから、胸にモヤモヤとしたものを感じながらも、サツキはみんなと同じように無視するしかなかった。


 そのゲームが始まってから2ヶ月が経過したある日、サツキは彼女の机に心無い落書きがしてあるのを見つけた。彼女は我慢するように俯き、静かに涙をこぼしていた。

 その姿を見ても、誰も心配することはない。逆に、いいネタができた、とでもいうようにおかしそうに楽しそうにいじめの"仲間"と、"共犯者"と話すだけだ。クスクスと嘲笑しながら。

 それを見て、サツキはこれまで押さえ込んでいた気持ちがあふれるのを感じた。どうして、彼女のことを誰も心配しないの?どうして、みんな当たり前のような、これが日常のような顔をしているの?


「あの子、ちょっとかわいいからって調子に乗ってるからああなるんだよ。いい気味ー。ね、サツキもそう思うでしょ?」


 "仲間"からそう話しかけられたけれど、サツキは返事をせずに彼女の元に歩きだした。クラスの全員が、サツキの行動を唖然としながら見守る。


「え、サツキ、どうしたの?・・・あ、その子に思い知らせてやるの?いいじゃん」


 ふざけたことをほざく"仲間"を軽く軽蔑したように睨む。そして、サツキは泣いている彼女に優しく声をかけた。


「・・・大丈夫?」


 彼女がパッと顔を上げる。煌めく涙がこぼれる頬は強ばり、顔には恐怖と絶望、それに驚き。そして、少しだけの期待が張り付いていた。


「な、なんで・・・?」


 彼女が唇を震わせ、サツキに尋ねる。こぼれたのは、なぜかと問う言葉。そんなのは簡単だ。不安そうにしている彼女に、サツキはこう答えた。


「心配だったからだよ。辛かったよね。苦しかったよね。・・・大丈夫、私は味方だよ。こんなくだらないゲーム、もう終わらせよう?」


 その言葉を聞いて、彼女は嬉し涙を流しながらコクコクと必死に頷いた。その日の帰り道、サツキはこれでいじめがなくなる、もうあんなくだらないゲームをしなくていい、と本気で信じていた。こんな残酷なゲームをする彼女達が、これで終わらせるはずがないのに・・・

 そして、それは予想通りだった。

―――次の日、サツキはクラス全員に無視されていたのだ。


「おはよう!」

「・・・」

「え、ま、真理・・・?みんなも、どうしたの??」


 次の日学校に行ったサツキは、彼女がみんなと普通に話しているのを見て安心した。しかも楽しそうに笑っていて、もう大丈夫だと思ったのだ。

 けれど、今度は代わりのようにサツキが無視されていた。仲のいい"仲間"に話しかけても、気まずそうな顔をして離れていく。無視される。それは、まるで。

―――なくなったはずの、あのゲームで。


 ああ、そういうことか。サツキは漠然と理解した。自分が、次のターゲットなのだと。

 それが分かったとき、元"仲間"を恨むことも憎むこともなかった。ただ、「やっぱりダメだったんだ」とクラスのみんなと自分に失望感を抱いただけだった。

 それからサツキは、卒業までひとりぼっちで過ごした。誰かに話しかけることもなく、持ち前の明るい性格は息を潜めた。そうすると自然に猫背になり、声が小さくなり、性格も暗くなった。

 そして、中学の同級生が誰も進学していない遠方の高校を選んだ。


 高校に入ってからのサツキは、まるで別人のようだった。短いボブだった髪は伸びてロングになり、家で暗い表情を浮かべるようになり、みんなの聞き役に回った。軽いいじめが起こったときも、知らないフリをして顔を背けた。

 それで、学校生活が平穏に過ごせると知ったから。知ってしまった、から。

 そんな『優しい』サツキは彼女クラスメイト全員に好かれていった。自然と友達ができたけれど、サツキは全く嬉しくなかった。

 もう、放っておいてほしかった。それでも偽物の自分を取り繕って、ハリボテの微笑を浮かべた。そうしている内に、サツキは自分が空っぽになっていく気がした。


―――裏切り者。

 時々、頭の中にこんな声が響く。それは紛れもなく自分の声で、サツキはますます暗い表情をするようになった。

 心は、もうボロボロだった。何が正解なのかも分からず、空っぽの学校生活を過ごしていた。


『・・・大丈夫?』


 あのとき、彼女に声をかけなければこんなことにならなかったのかな?もっと、素のままで学校生活を楽しめてたのかな?

 あのときのことを後悔していなかったはずなのに、そんなことを考えるようにまでなった。サツキは何もかもが楽しくなくて、頬に涙が伝っていたことにも気付いていなかった。

 そんなサツキを周りは心配した。でも、サツキは何かを堪えるような弱々しい笑みで「大丈夫だから」と応えるだけだった。


 楽しくない偽物・紛い物の生活にも慣れ、サツキはいつの間にか高校3年生になっていた。

 勉強はできたから、進学には困らなかった。サツキは有名な最難関大学を受け、受かっていた。生徒数が多いそこなら、自分と同じような思いの人もいるのかな、と考えながら―――

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