《プロローグ》開店準備
月宮 ホシノ。クラスメイトに聞くと、10人に9人がこう答えるだろう。『地味で、目立たない』と。
それほど、ホシノは存在感の薄い女の子だった。髪は後ろでひとつに編んだだけ。長い前髪が、彼女の表情を隠している。
そんなホシノには、ある秘密があった。
「ただいま・・・」
家に帰ってきたホシノは、家の離れの前に看板を出した。そこには『open・heart 心のひとりごと、お聞きいたします』と書かれている。
ホシノは離れの中に入った。中はアンティーク調の家具で統一されており、どこか安心できる雰囲気がある。
奥にあるテーブルに座ると、ホシノは編んでいた色素の薄い茶髪をほどき、前髪をピンでとめた。綺麗な琥珀色の瞳は優しげな光を纏い、唇はふんわりと笑みを浮かべる。ベージュのワンピースを着ると、最後にお守りのように星の形をした鍵を首にかけた。
ここは『open・heart』。美味しい飲み物と共に、どんな話でも聞いてくれる"魔女"の店だ。
――――そう。ホシノは魔女だった。
とはいっても、満月の日限定の魔女。まだ未熟なため、不思議な力が満ちる満月の日にしか力が使えないからだ。
そして、ホシノが魔女になる満月の日。月に2日あるこの日に、『open・heart』は開店する。話を聞いてほしい人や悩んでいる人、時には精霊もこの店を訪れる。それは、今日も―――
夕方になり、もうすぐで日が落ちる、という頃。店のドアがノックされた。「どうぞ」とホシノが声をかけると、大学生ぐらいの少女が顔を覗かせる。
今宵も、お客様がやって来た。