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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第九章 失われた笑顔
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97 捕らわれた者達

「ここがあなたの部屋です」

「これはまた……」


 屋敷に戻ると、レトに連れられて、宛がわれた自室にやって来た。

 元町長の屋敷だけあって、立派な作りで綺麗な部屋だった。


「食事は食堂で1日3食。時間は――」

「はい」

「入浴時間は男女別です。女性は――」

「分かりました」

「これは1階の見取り図です。何かあれば使用人にお声がけください」

「ありがとうございます」


 一通り説明を終えると、レトは立ち去って行った。

 外出は出来ないが、屋敷内で生活する分には至れり尽くせりだ。


(……イザールの目的がいまいち分からん。反抗的な人達の心を折るなら、もっと効率的な方法があるだろ。ってか、魔人がこんな所で何やってるんだ?)


 一般市民や部下には恐怖政治を強いり、奴隷を手厚くもてなす。

 かと思えば、気まぐれに命を奪うこともあるとの話だ。

 イザールが最終的にどうありたいのかが、全く読めなかった。


 あれこれ悩んでいると、部屋のドアが叩かれた。

 ペイトーだ。


「モトキちゃんにお客さんだぜ」

「俺に?」


 この街にモトキの知り合いは少ない。

 わざわざ会いに来てくれるような相手は、息子を助けられたオルガくらいだろう。

 あまり迷惑を掛けたくない相手なので、モトキは申し訳なさそうに玄関に向かった。


「何やってるんだお前は!?」

「え?」


 やって来たのはハゲ達3人だった。

 ハゲは会うなり、モトキに詰め寄る。


「お前ならもっと上手く立ち回れただろ! 俺達はお前の準優勝に賭けてたんだぞ!」

「見るからに弱そうで、無茶苦茶オッズが高かったんだよ……」

「これで大金が貰えるなんて、チョロい話――と思ったんだけどなぁ……」

「ペイトー、こいつら殴ってもいいの?」

「奴隷魔術が起動するから駄目だ」

「そうか……」


 魔術師を殺しても、既に刻まれた術式は消えない。

 つまり殴るなら相打ちを覚悟しなければならないのだ。


「なあハゲ。次は死ぬ気で準優勝するから、協力してくれない?」

「……正気か? 俺達は因縁の相手だぞ?」

「ソフィアとアンネの事は許さない。けど俺とエドブルガの事は水に流す。今は一刻も早く、白の国に戻りたいんだ」


 その為なら私怨などどうでもよかった。


「……俺達はイザール様を裏切らない。その範囲なら考えてやる」

「いいんですかアニキ!」

「こいつには散々苦汁を舐めさせられて――」

「ただし報酬先払いだ。次に準優勝したら、俺達の出来る範囲で協力する。それでどうだ?」

「分かった。よろしく頼む」


 アゴとハコは納得していない様子だが、ハゲと共に屋敷から出て行った。

 次の闘技場は2日後だ。

 モトキとしては、すぐにでも行動を起こしたかったが、そこは妥協した。

 この状況で急げば事を仕損じてしまう。


「モトキちゃんは諦めてないんだな」

「ペイトーだって。ここのみんなも全員、最初は諦めてなんかいなかっただろ? 折れるまでは足掻き続けるさ。よし、お昼にするか」

「案内するぜ」


 食堂に行くと何人かの男達が詰め寄ってきた。

 共に今日の闘技場に参加していた人達だ。

 何人かは怪我を負って、包帯を巻いていた。


「モトキだっけ? お前、マジ勘弁してくれよ」

「もう無駄にイザールを煽る様なことはしないでくれよな」

「命が幾つあっても足りないぜ」

「申し訳ありません」

「おう、気を付けろよ」


 モトキとの闘い気に入らなかったイザールの、八つ当たりを受けた面々だ。

 一同は随分とご立腹の様子だったが、モトキが謝るとすぐに許してくれた。


「しかしお前の闘いっぷりは中々だったぞ」

「ああ、イザールの仮面の下。絶対顔真っ赤だったぜ」

「ざまあみろってんだ」


 男達は一転、イザールの事を扱き下ろす。

 元からイザールに反抗的な行動をとった者達であった為、モトキの行動は爽快だったのだ。

 男達に気に入られたモトキは、一緒の席で食事をすることになった。

 城の食事と比べると流石に劣るが、味も量も栄養バランスも十分な料理だ。


「俺は街の自警団で、最初にイザールが来た時に戦った1人だ。あっと言う間にボコボコにされてこの様だがな」

「俺はイザールに街から出て行くようにデモを起こしたんだ。他の奴等は殆ど殺されちまったが、俺は体格に優れているって理由でここに連れて来られたんだ」

「母が病気にかかって、隣町の大きな病院に連れて行きたかったんだが、街から出る許可が下りなくてな。結局母は亡くなって、敵討ちに殴り込みに行ったら――って感じだ」

「酔っぱらった勢いでイザールの悪口を言ってるところを、部下に見つかてな……」


 三者三様の理由で、ここに連れて来られた者達。

 前提の通り、闘技場で死んだ者も少なくない。

 普段は心を折られてしまた為、もっとコソコソ話しているそうだが、モトキに触発されて、かなり大っぴらだ。

 今日の闘技場に参加でなかった者達も、モトキの武勇伝を聞いて輪に加わる。

 貴重な女性であることと、本来は男であるコミュニケーション能力も合わさって、モトキはあっと言う間に溶け込んでいた。


 ただ1人、アグラヤを除いて。


「あの99勝の人、アグラヤさんだっけ? 隅っこで1人だけど、いつもあんな感じ?」

「最近はな。勝ち続けるってのは、誰か負けるってことでな。もちろんあいつ1人の責任じゃないんだが、そういうのを気にする奴なんだよ」

「……」


 100回の準優勝には100回の最下位が必要だ。

 1人がここから抜け出すには、10人を殺すだけの敗北が付きまとう。

 あの時自分が最下位になれば、彼を死なせずに済んだだろう。

 そんなことを考えたら、人は心を壊してしまうだろう。

 それが仲の良い相手なら尚更だ。


(なるほど。居心地のいい環境に共通の敵。そこから生まれる一体感に仲間意識。自分の命を護る為の闘い。敵と味方の両方から心を折ろうとしているのか……)


 モトキはより深く、イザールに対する敵意を抱く。

 しかしそれを無理やり心の奥に仕舞い込んだ。

 それはモトキが優先すべき目的の妨げになる感情だったからだ。


                    ・

                    ・

                    ・


 それから共にトレーニングを積み、夕食を食べ、入浴を済ませた。

 浴場は共用のもので、レト達使用人と一緒に入ることになる。


「何故目を瞑っているのですか?」

「俺の目は湯気に弱いんです。気配で大体の位置は分かるので、お気になさらず」


 精神は肉体に影響されるというが、モトキはセラフィナと共同で生活している為か、その精神は7年経っても男のままである。

 そう言ったことを一切気にせず、本人から許可が出ているセラフィナの体ならともかく、それ以外の女性の体を見る訳にはいかないのだ。


「あなたも大変ね。女なのに使用人じゃなくて選手だなんて」

「物理的にイザールに反抗しちゃったので」

「まだこんなに小さいのに可哀そうよねぇ」

「でも胸は小さくないわよ」

「ちょっ! やめてください!」


 モトキは背後から胸を揉まれた。

 振り解こうにも、周りは裸の女性ばかりで、下手に動くことが出来ない。

 動けば間違いなく触れてしまう。

 セラフィナの体を悪用する様な真似は、モトキにとって禁忌だった。


「大丈夫? 男達にセクハラとかされてない?」

「現在進行形で、女性にされてます! やめっ――」

「気にしない気にしない。あたしのも揉んでいいから」

「結構です!」

「これから一緒に暮らすんだから、スキンシップは大事よ」

(助けてセラフィナ!)


 セラフィナは応えない。

 それからモトキは為す術なく、女性陣の玩具にされた。


 モトキは初めて、女性の体に転生したことを後悔した。

 セラフィナが男であれば良かったと。


(……いや、セラフィナは女の子の方がいいな)


 すぐに思い直した。

 風呂で疲れを取るはずが、闘技場やトレーニング以上に疲労しながら、モトキは自室に戻っていった。


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