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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第九章 失われた笑顔
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96 闘技場

「これより本日の闘技場参加者の抽選を行います! 全員集合!」

「もう!?」


 モトキとクリオが武器庫から出てくると、ホールには先程まで居なかった女性が来ていた。

 腰の高さまである台車を押し、その上にはガラガラ回すタイプのクジ引きが乗っている。


「おいおい、レト。今日は闘技場が開かれる日じゃないだろ。ボケたか?」

「イザール様が突然これからやると言い出したのです。新入りが増えたからだと」

(俺が原因か……)


 男達は一斉にモトキの方を見る。

 どう見ても歓迎している様子はない。


 レトと呼ばれた女性がモトキを手招きする。

 モトキはバツが悪そうにレトの下に向かう。

 するとレトから、クジの赤玉を渡された。


「あなたは本日強制参加です」

「そうなりますよね」


 男達はモトキの事を観察するように見る。

 準優勝100回で解放、最下位10回で処刑の闘技場では、全員が本気で勝ちに来ているのだ。


「あのガキがいるなら、最下位になる心配はないな」

「片腕で、得物が木剣とか、楽勝だろ」

「近くで見ると、凄い可愛いな」

「お前、ロリコンかよ」


 いつもの事だが、外見で舐められている。

 しかしセラフィナの容姿を褒められた為、ちょっとご満悦だ。


「それではさっさとクジを引いてください。いつ引いても確率は変わりませんよ」

「なら俺から引かせてもらう」

「先を越されてしまったのう。なら次はワシじゃ」


 落ち着いた雰囲気の中年男性に続き、クリオがガラガラを回す。

 すると2人とも赤玉を出した。


「アグラヤにクリオ爺さんが出るのかよ!」

「早くも準優勝の可能性が消えちまった!」

「今日は絶対参加したくねぇ……」


 どうやら2人ともかなりの強者の様だ。

 残り6つの赤玉を引いた者達は、もれなく落胆している。


「お嬢ちゃん、悪いが闘技場では手加減できん。相応の覚悟を持って挑むことじゃ」

「はい、全力で挑ませて頂きます」

「それでは赤玉を引いた9人は闘技場に移動しますよ」

「「「ういーす……」」」

「はーい」


 1人明るく返事をするモトキを、選ばれた6人が一斉に見る。

 そのうちの5人は、真っ先にモトキを倒そうと狙いを定めていた。


「安心してくれ、モトキちゃん! 君の事はこのペイトーが護るよ!」

「ど、どうも……」


 残り1人はさっきのロリコン発言の人物だ。

 容姿を褒められるのは良いが、セラフィナに言い寄るのは勘弁してほしかった。


 レトを先頭に、屋敷の入り口に連れて行かれる一行。

 そこに置いてある馬車の中では、奴隷魔術は起動しないとのことだ。

 しかし屋敷と闘技場以外の場所で外に出ると、即座に起動するペイトーに釘を刺された。

 過去に何人もが脱走を試みて、もれなく酷い目に遭ったそうだ。


 馬車がしばらく走ると、街の中心にある闘技場に辿り着いた。

 アステロセンターホールを小さくしたような建物で、中々に立派な作りをしている。

 中央には広いステージがあり、それを囲むようにある観客席。

 観客の数も中々のものだ。


「おっ、準優勝数98回のアグラヤじゃねぇか! こりゃアグラヤ一点賭けだな!」

「わ、私もアグラヤっす!」

「俺は大穴のペイトーに賭けるぜ!」

「新人は女の子!? こりゃ賭けるっきゃない!」


 闘技場では、賭けが行われていた。

 優勝はイザールで決定している為、準優勝を当てるものだ。


「あの人、あと2回で解放なんだ」

「ああ、アグラヤは別格だからな。モトキちゃんもアグラヤには近付かない方がいいよ」

「分かった」


 強者と聞いて、是非とも挑みたくなるモトキだが、今回ばかりはスルーだ。

 今日の狙いは別にある。


(俺はイザール一点狙い! あの感触の正体を確認する! ついでにあの仮面を剥ぐ! それに――)


 よほど自信があるのか、イザールは闘技場の中心に立っている。

 武器は所持しておらず素手だ。

 他の9人は、イザールを取り囲むように立っている。


 ルールは、時間無制限のバトルロイヤル。

 気絶するか場外、そして死亡すると負けになる。

 ギブアップは受け付けない。


 死んだふりや、わざと場外に出ると、イザールが止めを刺しに来ることがあるので、絶対にしてはいけないと注意された。

 もっともモトキに、そんな選択肢は最初からない。


(こいつを倒せば、即解放だ!)

「試合開始!」


 カーンと、試合開始のゴングが鳴る。

 闘技場のセオリーは、いかにイザールから逃げ、最初に脱落しないように努めることだ。

 その為、腕に自身の無い5人は、真っ先にモトキに向かう。

 そのモトキがイザールに向かって一直線の為、5人は急ブレーキをかける。


「モトキちゃん!?」

「あいつ、正気か!?」

「さっきのリベンジだ! イザール!」

「来い、金色の瞳! その心をへし折ってくれる!」


 モトキは木剣の軽さを活かした、素早い斬撃の嵐をイザールに浴びせる。

 イザールは、右腕で仮面を護るが、それ以外はノーガードだ。

 しかしいくら木剣を打ち込んでも、イザールは一切怯まない。


「無駄だ! お前の攻撃は俺には効かん!」

(それでも顔は防御している。あの仮面の下に何か秘密が――)


 イザールは斬撃を強引に突き進み、モトキに左手を打ち込む。

 モトキは体を捻り、攻撃を回避すると同時にカウンターを仕掛ける。

 側面の防御の隙間から、遠心力を乗せた一撃を仮面に叩き込む。


「ちぃっ!」


 イザールはバックステップで、大きく距離を取る。

 それと同時にモトキが木剣を投げると、イザール仮面に当たった。


 モトキは跳ね返った木剣を、空中で掴んで再び構える。

 イザールの仮面には小さな凹みが出来たが、剥ぐことは出来なかった。


「あのガキ、見かけによらず強いぞ!」

「こりゃ大穴あるぞ!」

「素敵だ! モトキちゃん!」


 イザールが攻撃を避けることなど滅多にない為、観客は沸き上がった。

 仮面で表情は分からないが、イザールが苛立っているのが分かる。


「俺の心を折るつもりが、いらない恥をかくことになったな、イザール」

「金色の瞳が!」


 イザールは激昂して声を荒げる。

 モトキに両手を向けると、そこに赤い魔力が集まる。

 すると闘技場全体の気温が、どんどん上がりだした。


「本性を現したな! お前は――」

「燃え尽きろ!」

「魔人イザール!」


 それは魔術ではありえない、圧倒的火力。

 魔人化したアラビスと同等の炎だった。


 木剣による箒星では、火属性を逸らすことは出来ない。

 その為モトキは全速力で後退し、ステージの側面に隠れることで回避した。


「モトキ場外!」

「ちっ!」


 それは本日最初の脱落者。

 つまりは最下位である。


 モトキは自主的に場外に出た為、イザールからの追撃を警戒して、すぐさま剣を構える。

 しかしイザールからの追撃はなく、ステージの中央に戻っていった。


(四色王国のそれぞれに魔人が3体ずつ……。今更1体増えても驚かないけど、多すぎだろ……)


 数百年おきに現れる人類の天敵と言う触れ込みは何だったのだろうか。


 その日の闘技場は、アグラヤの99回目の準優勝で幕を閉じた。

 選手の多くは、苛立ったイザールの八つ当たりにより満身創痍だったが、死傷者は1人も出ていない。


 選手達は馬車で屋敷まで戻っていく。

 その道中、イザールを怒らせた原因であるモトキは、一部の選手に嫌味を言われまくった。


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