94 誘拐フォース
モトキは周囲に意識を張り巡らせ、背後や建物の陰に潜んでいる者達の人数を確認する。
(強行突破なら建物の間を抜けてくのが楽だけど……)
なるべくなら戦闘は避けたかった。
戦えば勝つ自信はあるが、確実に体力を消耗する。
不意な行動で、怪我を追う可能性もある。
もちろん子供を売買するような悪党を野放しにするのは心苦しいが、他国の治安に介入するほどお人好しでもないし、そんな余裕もない。
モトキが最優先すべきは、白の国に帰還することなのだ。
その妨げになるような行動は避けたかった。
(背後に隠れてるのは10人程度。だけど待ち構えていると分かっている待ち伏せは怖くない)
モトキは踵を返し、全速力で走る。
男達にとってその行動は想定内のことで、隠れていた者達とモトキを挟み撃ちにした。
「はっ! 残念だったな! 逃げ場なんてないぜ!」
「そんなことはない」
モトキは襲い掛かる男達から、体を回転させながら身をかわす。
足を引っかけて転ばせると、追ってくる男達の障害物へと姿を変える。
「ごめんね」
(上手いっす! ……いやいや、何感心してるっすか!)
「くそっ! お前等じゃまだ!」
モトキは瞬発力と気配を読むことに長けている為、捉えることは困難だ。
しかし身体能力には難がある為、単純な追いかけっこになれば不利である。
この隙に距離を稼ぎ、男達を巻かなくてはならない。
だが隠れていた男の顔を見ると、モトキは足を止めてしまう。
「お前等は!」
「げっ! 白の国の姫!」
それはセラフィナを誘拐しようとし、エドブルガを誘拐し、ソフィアを誘拐し、アンネの誘拐に加担した、誘拐の常習犯。
セラフィナとモトキの因縁の相手。
「アゴ! ハコ! ハゲ!」
「その呼び方止めろ!」
「いや、本名知らないから……。何でこんな所にいるんだよ……」
6年の間に、アゴとハコの髪はすっかり伸びていたが、ハゲは相変わらずだ。
まさかの3人との遭遇に足止めを喰らっているうちに、モトキは囲まれてしまった。
その中でリーダー格の男が、一歩前に出る。
「ん? お前等、そのガキを知ってるのか?」
「ああ、地元じゃ酷い目に遭わされてな」
「因果応報だろ」
「俺達に任せてくれ! 今までの雪辱を晴らしてくれる!」
「顔は傷付けるなよ」
「おう!」
ハゲ達はモトキを取り囲み、その周りを更に男達が取り囲んでいる。
もはや逃げることは叶わない状況だ。
モトキは仕方なく、剣に見立てた木材を構える。
「言っておくけど、お前等の知ってる俺より、だいぶ強いからな」
「お前こそ、俺達を6年前と同じと思ったら痛い目を見るぞ」
「やっちまいましょう、アニキ!」
「パワーアップした俺達なら、チョロい話ですね」
3人と敵対するのは5度目だが、まともに戦うのは3度目だ。
セラフィナ誘拐の時は、筋肉が殆どない頃。
ソフィア誘拐の時は、セラフィナが1人で戦った。
十全に動けるモトキと戦うのは初めてなのだ。
当然、3人が想定しているより、モトキは圧倒的に強い。
「馬鹿な……見た目は殆ど変わってないのに……」
「お前の髪と違って、少しは伸びてる」
結果、瞬殺だった。
自信満々だったのにこの有様で、男達は唖然としている。
「お前等……こんなガキ1人に……」
「違うんだ! こう見えてこいつ15くらいなんだよ! ガキじゃねぇ!」
「どんな言い訳だ!」
(あー、随分と大人びた性格だと思ったら……)
本当に15歳なのだが、テティス以外誰も信じていない。
そもそも大の男が3人がかりで、1人の少女に負けた時点で相当なものだ。
モトキはリーダー格の男の方に向き直る。
「あの、この通り俺ってそこそこ強いんで、本気でやりあったらお互いに怪我をすると思うんです。だからここは話し合いで平和的解決といきませんか?」
「話し合ったら大人しく売られるのか?」
「そもそも売られる筋合いがありません。それにメンツと言ってましたが、女の子1人にこの人数を出した時点で、回復不可能でしょ」
「よし、殺れ」
交渉は決裂した。
どうやら逆鱗に触れたようで、顔を傷付けるなと念を押さなくなっている。
男の1人が両手持ちの剣をモトキに振り下ろす。
モトキはそれを最小限の動きで避けると、木材で男の顎を撃ち抜く。
脳震盪を起こして、倒れそうになる男を踏み台にして、モトキは高く跳躍する。
「姫剣、流れ星!」
落下の力を利用し、木材から衝撃波を飛ばす。
男達は見えない一撃に対応することが出来ず、5人ほどが吹き飛ばされた。
(やっぱり木材じゃ強度が足りないな。2発目は折れる)
木材からはミシミシと負荷のかかる音が聞こえた。
男達はモトキの着地を狙おうと迫りくる。
モトキは虚空を蹴って加速することで、男達が接近するより早く着地した。
モトキは近付いてくる男達の首や顎を、次々と撃ち抜いて行く。
それはどれも正確な狙いと、完璧な力加減によるものだったが、1度気絶させるところを見られてしまった為、倒せたのは3割にも満たない。
「もうこの辺で終わりにしましょう! 全滅させられたら、メンツ完全崩壊ですよ!」
「ふざけんな! このまま引き下がったら、イザール様に殺される!」
「呼んだか?」
リーダー格の男の背後には、先程までは居なかった人物がいた。
モトキは少し離れたところにある気配に気付いてはいたが、その接近には対応できなかった。
「イ、イザール様!」
(こいつがオルガさんの言っていた、この街の支配者か……)
「随分と騒がしいと思ったら……これは何の騒ぎだ、ヘクバ」
「はい! このガキがイザール様の部下である我々に楯突いたので、仕置きをしていたところです!」
リーダー格の男、改めヘクバは、かなり動揺している。
テティスや3人組、他の男達も顔色が悪い。
イザールはセラフィナの方を見る。
「金色の瞳か……。どこの国でも厄介事の種だ。イラつく」
(こいつ……四色王国の出身か?)
モトキもイザールの事を観察する
仮面を被っているが、声の低さから男性だと分かる。
そしてその身長は、セラフィナ程ではないが小柄だ。
「お前等、こいつ1人にこの様か?」
「申し訳ありません!」
「役に立たないクズ共が」
必死に頭を下げるヘクバ達を、イザールは吐き捨てる。
「女、こいつ等はクズだが、一応俺の部下だ。それに楯突いて覚悟は出来てるのか?」
イザールは再びモトキの方を向くと、首を掴もうと手を伸ばした。
モトキはとっさに反撃するが、イザールの腕を切った木材は、逆に砕けてしまう。
(この感触――がっ!)
イザールに首を掴まれ、持ち上げられ、モトキの足が浮く。
必死に振りほどこうとするが、イザールの力は凄まじくビクともしない。
それでもモトキは、必死にイザールを睨みつける。
「ちっ、まだそんな目をするか。これだから金色の瞳は」
イザールはモトキを壁に向かって投げつける。
モトキはバランスを取ろうとするが、投げる力が強すぎて叶わなかった。
壁に激突すると、肺の空気が押し出される。
「ぐぁ……このくらいで……」
「おい、その女を俺の屋敷に連れていけ。ただでは殺さん」
「はっ!」
イザールが立ち去ると、ヘクバ達がモトキを取り押さえる。
モトキは必死に抵抗するが、体が上手く動かない。
ヘクバ達がモトキを縛り上げようとすると、男の指に何かが引っ掛かる。
首から下げていたペンダントだ。
「なんだ? おっ、宝石じゃねぇか」
「っ! 返せ!」
「はっ! こいつはもう俺のもんだ!」
「ふざけんな! そこは山分けだろ!」
「早いもん勝ちに決まってるだろ!」
「やめろ! それは大事な――」
男達がペンダントを力尽くで取り合う。
ペンダントの鎖を引きちぎり、宝石とロケットが地面に散らばる。
「くそぉおおおおおお!」
モトキは激昂し、脳のリミッターを外す。
限界の力で脱出しようとするが、拘束を解くことは出来ない。
「どこ行った! 探せ探せ!」
「いい加減にしろ! イザール様の命令を忘れたか!」
エクバの一喝で男達は渋々大人しくなる。
彼等にとってイザールの存在は絶対なのだ。
「お前等、覚えてろ! 次会ったら手加減なしでコテンパンにしてやるからな!」
「次なんてねぇよ……」
モトキはエクバに担がれて、イザールの屋敷に運ばれて行く。
テティスとハゲ達は、それを少し離れたところから見ていた。




