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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第八章 明日もきっと笑ってる
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89 イオランダ

「セラフィナ様! ご無事ですか!」


 ラサルハグェの電撃により、体が痺れて動けないセラフィナの下に、他の兵士達が駆け付ける。

 剣を突き刺したことで出血している右肩を、素早く手当てしていく。

 幸いなことに、電撃による火傷は、大したことはなかった。


「私は大丈夫。それよりあそこの割れた窓のところにララージュがいるわ。気絶して動けないでいるから、魔獣に襲われる前に助けに行って」

「お任せを!」


 セラフィナを開放する兵士が1人だけ残り、残りはララージュの下に向かった。

 どのみち魔人との闘いでは、戦力にならないのだ。


 セラフィナを護る様に、ラサルハグェの前に立つイオランダ。

 ラサルハグェは、モトキと戦っているときより、更にはっきりとイオランダを認識している。


「白の国の王……魔人殺しの神器……」

「よくも私の愛する国を! 民を! そして家族を傷付けてくれたな!」

「家族……」

「その罪! 貴様の命で償ってもらうぞ!」


 イオランダの全身に、術式が浮かび上がる。

 風属性魔術「クイックウインド」。

 風により自身の動きを機敏にする魔術だ。

 セラフィナ程ではないが、余剰魔力量の多くないイオランダが、唯一刻んである術式だ。

 しかし魔人殺しの秘術以外では、有効打を与えることの出来ない魔人には、これ以上なく有効な魔術だった。


「お父様、気を付けてください! 奴は精神に作用する魔法を使います! 眼に見えるもの、感じるものが全てとは限りません!」

「気を付けよう!」


 イオランダが光の剣を振るう。

 刀身から放たれた白い光を、ラサルハグェは大きく避ける。

 それは当たれば切れるという証拠に他ならない。


「その力……見極めさせてもらう」


 ラサルハグェは宙に浮き、イオランダと距離を取ると、両手から電撃を放った。


『俺達以外にも電撃を打てるのか!?』

「その攻撃を防ぐのは危険です」

「分かった!」


 イオランダは走って電撃を避ける。

 その勢いで城の壁を踏み台にし、ラサルハグェのいる高さまで飛ぶ。

 飛ばした光で逃げ場を奪い、本命の斬撃を浴びせる。


「くっ!」

「浅いか!」


 ラサルハグェは、腕でイオランダの一撃をガードする。

 しかしその一撃は、骨を絶つまでは至らなかったが、肉を切り裂き、血を流させた。

 初めて明確なダメージを与えたのだ。


 ラサルハグェは、落下するイオランダに、電撃で追撃する。

 しかしイオランダの飛ばした光は、電撃を切り払い、ラサルハグェの肩を切り裂く。

 たまらずラサルハグェも高度を落とした。


「これが魔人殺しの秘術の力!」

「そしてお父様の力よ!」

『……』


 フラフラと浮遊しているラサルハグェに、イオランダは容赦なく光を飛ばす。

 魔人との闘いに備えてトレーニングをしていたイオランダ。

 対するラサルハグェは、明らかに戦い慣れしていない。

 戦況は、圧倒的にイオランダが優勢に見えた。


『イオさんの呼吸が荒い。スタミナが切れかかてる』

(もう!? そうか、精神攻撃の魔法!)


 イオランダがモトキ同様に、ラサルハグェへ攻撃することに拒否感を覚えている可能性があった。

 だとすれば切っただけで傷付けることの出来なかったモトキより、傷を負わせたイオランダの方が、精神的負担は大きいはずだ。

 そういう前提で戦況を見ると、イオランダが攻め立てていると言うより、焦っているように見えてしまう。


 イオランダが接近して、途切れなく攻撃を仕掛けることで、ラサルハグェは防御に手一杯になり、飛んで距離を取ることが出来なくなった。

 その防御も、体に電撃を纏わせてダメージを軽減する強力なものだったが、イオランダの剣を完全に受け切ることは出来ず、無数の切り傷を負っていく。


(この調子なら、イオさんのスタミナが切れる前に押し切れる。なのに何でこんなに心がざわつくんだ……)

「これで止めだ!」


 イオランダの横薙ぎを受けて、ラサルハグェはバランスを崩す。

 その隙にイオランダは、ラサルハグェの防御ごと切り裂く、渾身の一撃を叩き込む。

 白の国の王族が習得する剣技。

 その奥義とも言える一撃を。


「ホワイトアウト!」


 イオランダは、更に輝きを増した剣を振り抜く。

 一帯を白く染める一撃は、まさしく白の国の王の光だった。


「なっ……」

「お父様!」

『イオさん!』


 剣を振り抜いたイオランダの右腕は、肘から先がなくなっていた。

 代わりにイオランダとラサルハグェの間には、黒い結膜と鳥の様な羽が生えた少年が立っていた。

 それから程なくして、イオランダの右腕が地に落ち、握られた光の剣はペンダントに戻る。


「くっ!」

「させるかよ」


 イオランダがペンダントを拾おうとすると、少年はイオランダの胴を蹴り飛ばす。

 イオランダは体を回転させながら、城の壁に叩き付けられた。


「おのれ! よくも陛下を!」


 セラフィナを開放していた兵士が、槍を持って少年に立ち向かう。

 しかし兵士は、一瞬のうちに殺されてしまった。


「危なかった。あまり無理はしないでくれよ、母さん」

「ありがとう、アルタイル……」

「アルタイル……トライホーク!」

『こいつがアラビスを魔人化させた!』


 少年はアンネリーゼから聞いていた、魔人アルタイルの特徴と一致していた。

 アルタイルは、名前を呼ばれて一瞬だけセラフィナの方を見るが、すぐにラサルハグェの方に向き直る。

 その手には、見覚えのある髪飾りが握られていた。


「黒の国の神器は回収したよ」

「早かったわね……」

「王は見所があったけど、歳を取りすぎだ。もう1人の金色の瞳は凡人。2人の所と比べたら楽なものだよ」

「その髪飾り……ツルギサン王の……。それに2人の所って……」

『まさか!』


 アルタイルは、切断されたイオランダの右腕からペンダントを奪い取ると、セラフィナの下に歩み寄ってきた。

 体制を低くして、セラフィナの顔を覗き込む。


「この子も金色の瞳か。母さん、どうだった」

「……まあまあ」

「まあまあか。なら僕が自由にして問題ないな」

「ええ……」

「あなた達は……他の国にも侵攻していたの?」

「ああ、4つの国にそれぞれ3人の魔人を送り込んだ」

「魔人が12体!?」

『それに白の国にもまだ2体って……それじゃあみんなは……』


 絶望的な情報だ。

 イオランダが他の魔人と戦った様子はなかった。

 ならば今でもイオランダが来るのを信じて、魔人と戦い続けているという事だ。


 モトキはセラフィナと入れ替わり、何とか立ち上がろうとする。

 しかし体の痺れは完全には取れておらず、動きはたどたどしい。


「母さんの電撃を受けて立ち上がるか……悪くない。僕の実験に付き合ってくれるなら、生かしておいてもいい」


 そう言うとアルタイルは、黒い穴から黒い半透明の結晶を取り出した。


『それはアラビスが使った結晶!』

「実験って……俺を魔人化させる気か?」

「話が早いな。それでどうする?」


 モトキは拒否したかったが、その言葉が出なかった。

 この話を受ければ、とりあえずセラフィナの命だけは護ることが出来るからだ。

 そしてセラフィナも、モトキを死なせたくはなかった。


『私は……モトキ……』

「俺は……っ!」


 2人が悩んでいる間に、ラサルハグェはイオランダに近付く。

 イオランダは意識こそあるが、腰の骨を粉砕されてしまった為、起き上がることが出来ない。

 そんなイオランダに、ラサルハグェは電撃を纏った右腕を向ける。


『駄目! お父様!』

「やめろ! やめてくれ! 俺なら好きにしていい! だから!」

「いや、そういう選択肢はない。王の死は絶対だ!」


 ラサルハグェの手が、イオランダの体を貫く。


「お父様ぁあああああ!」

『イオさん!』


 ラサルハグェが手を引き抜くと、イオランダは地面に倒れ込んだ。

 そして最後の力を振り絞り、セラフィナの方を向く。

 セラフィナも、無理やり体を動かし、涙を流し、地面を這いながら必死にイオランダの下に向かった。


「お父様! お父様!」

『くそっ! イオさん!』

「セラ……フィナ……」


 イオランダはセラフィナに向かって手を伸ばすが、まるで届かない距離だ。


「セラフィナ……愛して……る……」

「私も! 愛しています、お父様!」

「娘を……頼む……」

『っ!』


 イオランダは力尽き、伸ばした手が地に落ちる。

 その最後の言葉は、セラフィナに向けた言葉ではなかった。

 誰かに、セラフィナを託した言葉だ。


「嫌! お父様! お父様!」

『イオさん……分かってるよ!』


 セラフィナの右目から銀色の光が溢れる。

 体の痺れは消え、その場で立ち上がった。


「これは……」

「この光は何だ?」


 溢れた光は、空中に魔法陣を描くと、再び光となってセラフィナの右目に吸い込まれていく。

 そして右目の虹彩を銀色に染めた。


「「来い!」」


 セラフィナがアルタイルの方に手を伸ばすと、握っていたペンダントが光を放ち、セラフィナの左手に飛んでいく。

 それを握ると、ペンダントは白い光の剣に形を変えた。


「「お前は! お前等は! 消えて無くなれ!」」


 セラフィナが剣を振るうと、そこから放たれた白い光がラサルハグェを飲み込む。

 するとセラフィナの右目は金色に戻り、光の剣はペンダントに戻る。

 セラフィナは気が遠くなり、うつ伏せに倒れた。


「母さん! 大丈夫か! 母さん!」


 アルタイルはラサルハグェがいた場所に駆け寄る。

 ラサルハグェは下半身が消滅したものの、辛うじて生きていた。


「よかった、これなら……。人間め、よくも!」

「あはっ……あははははっ」


 アルタイルがセラフィナを殺そうとすると、ラサルハグェは笑い出した。


「か、母さん?」

「見つけたわ……」

「ならこいつを?」

「ええ」


 ラサルハグェは浮き上がると、セラフィナの下に近付いた。


「私は魔王トラック・プレアデスの側近、ラサルハグェ・トライホーク。忘れないで……」


 意識が遠のく中で聞いたその言葉は、2人の心に朧気ながら刻み付けられた。

 そして2人は意識を失った。


第八章はこれで終わりとなります

セラフィナとモトキの物語はまだまだ続きます

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