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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第八章 明日もきっと笑ってる
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84 ララージュの1日

 幼くも王族であるララージュは、規則正しい生活を義務付けられていた。

 毎日同じ時間に起床し、同じ時間に食事をとり、同じ時間に習い事をする。


 その日も様々な科目を学び、国の伝統である剣を振るう。

 ララージュは要領がいい子な為、どちらも卒なくこなしている。


 剣の腕では、既にセラフィナを追い抜くほどだ。

 もちろんモトキには勝てないが。


 ララージュが自由に出来る時間は、夕方頃となる。

 ララージュは自由時間になると、すぐさまセラフィナを探し始めた。

 後ろからはルツと言うメイドが付いて来ている。


「お姉さま、ララージュです。いらっしゃいますか?」


 セラフィナの部屋をノックするが返事はない。

 この時間にセラフィナがいる場所は、大体3か所の何れかである。


 1番多いのは自室、2番目は書庫、3番目は魔術騎士団の詰め所だ。

 自室にはいなかった為、2番目の書庫に向かうララージュ。

 すると机の上に大量の本を置き、調べ物をしているセラフィナがいた。


(お姉さま、発見!)

(んー、これも違うわね)


 調べているのは、夢の中で見た魔導書に書かれた術式らしきものに付いてである。

 それが魔人との闘いで役に立つかは分からないが、少なくとも無関係ではないと、セラフィナは考えていた。


 しかし術式に近いと言っても、それは現代のものではなく、魔術創成期のものだった。

 流石のセラフィナでも、歴史としての知識しか持ち合わせていなかった為、解読できなかったのだ

 オルキスとソフィアにも見てもらったが同様だった。


(フリージアさんなら、何か分かったのかしら……)


 セラフィナは魔術コンテストで優勝こそしたが、フリージアの氷属性魔術に追い付けたとは思えなかった。

 今でもフリージアは、セラフィナにとっての憧れで、格上の存在なのだ。


(……これは良くないわね。尊敬するのはいいけど、いつまでも自分を下に見ていたら、追い抜けなくなるわ。私は現時点では、魔術研究者の最高峰。好敵手だと思わないと)


 フリージアに解読できるのなら、自分にも解読できる。

 セラフィナはそう思いながら調べ物を進めた。

 机を挟んで向かい側に座ったララージュの存在に気付かず。


(集中してますね。邪魔しないようにしないと)


 以前はセラフィナに構ってほしいと駄々をこねたものだが、セラフィナは魔術の研究に没頭すると、周りの声が聞こえなくなる。

 その内ララージュは構ってもらうことを諦め、セラフィナの真似をして本を読むようになったのだ。

 まだ6歳故に難しい本は読めないが、かなりの読書家である。


 それから2人は、夕食の時間になるまで本を読み続けていた。

 2人の事を見守っていたメイドのルツは、時計を確認すると声をかける。


「ラ――」

「姫様、妹姫様、夕食の時間です」

「あっ、キテラ」


 どこからともなく表れたキテラが、ルツの声を遮る。


「キテラ先輩! それは私の仕事ですよ!」

「あなたは妹姫様の担当です。私は姫様を呼びに来ただけです。お二人が揃っていらっしゃったので同時に呼ぶことになりましたが、それはあくまで不可抗力です」

「ぐぅ……」


 セラフィナの傍付きではなくなったが、キテラは隙を見つけては、勝手にメイド業務を行っていた。

 魔術騎士団の仕事をちゃんと終わらせた後なので、誰も文句は言えない。


「お姉さま、夕食の時間ですよー」

「んー」


 ララージュとキテラに呼びかけられるが、集中しているセラフィナの脳まで届いておらず、生返事しか返ってこなかった。

 軽く揺さぶってみても、頬を突いてみても、まるで気にしていない。


「だーれだ」

「え? ラ、ララージュ?」

「正解です」


 セラフィナは視界を遮られることで、ようやくララージュの存在を認識した。


「お姉さま、夕食の時間です。一緒に行きましょう」

「もうそんな時間?」

「本は私が片付けておきますので」

「ありがとうキテラ」

「あっ! またキテラ先輩だけ抜け駆けを! 私も手伝います!」

「お願い、ルツ」


 キテラとルツに後片付けを任せて、食卓へ向かう2人。

 セラフィナはララ―ジュが伸ばしてきた手を握り、仲良く城の廊下を歩いて行く。


「それでね、お姫様のピンチに、勇者様が颯爽と駆けつけるの」

「ええ、そこは胸が躍る場面だったわね」


 道中に先程読んだ小説の感想を話すララージュ。

 セラフィナは病弱だった頃に、城の書庫の小説の大半を読んでいる為、ララージュと感想を共有することが出来るのだ。


 王族の食卓に集まる、ホワイトボードの家族達。

 それぞれ忙しい立場になっても、夕食だけは全員揃って食べている。


「数多の命が我々の血肉になることに感謝を」


 ララージュ達は目を瞑り、両手の指を組んで祈るように感謝の言葉を唱えてから、食べ始める。

 セラフィナは、チラリとエドブルガの方に視線を向ける。

 エドブルガは、何事もなかったように、普段通りの表情と態度で食べていた。

 魔人にあった事を、3年間誰にも悟られなかったのだから当然である。


 エドブルガが3年前に魔人と会ったという話を、セラフィナは誰にも話してはいない。

 話しても混乱を招くだけと言う、エドブルガの判断に一理あると思ったからだ。

 しかし一理あるだけで、完全に納得した訳でもなかった。


(エドブルガにとって、魔人に会ったことは負担にならないのかしら。皆に話せば少しは楽になれると思うけど……)


 それでもエドブルガが話さないのなら、セラフィナも話す気はなかった。


 食後、セラフィナはララージュと過ごしていた。

 書庫では構ってあげられなかった分のお詫びだ。


 入浴時には、ララージュの髪を洗ってあげるセラフィナ。

 ララージュの髪はセラフィナより長く、片腕の事もあり、最初の頃は悪戦苦闘していた。

 しかしモトキの徹底指導により、今では完璧な洗髪が出来るようになったのだ。


 それから2人は、同じベッドで横になり、ララージュが眠くなるまでお喋りをしていた。


「ねえ、お姉さま」

「ん? なに?」

「私もいっぱい勉強したら、魔術研究者になれるでしょうか?」

「あら、魔術に興味が?」


 それは少し意外な話だった。

 ララージュには余剰魔力がない為、魔術を使うことは出来ない。

 魔術を使えない魔術研究者は、いない訳ではないが稀な方だ。

 加えてララージュも、今まで魔術にそれ程関心があるようには見えなかった。


「私が魔術研究者になれば、お姉さまのお手伝いが出来ると思って。そしたらもっと一緒にいられるし」

「そういうこと」


 セラフィナは少し残念に思った。

 自分の力になりたいと思ってくれることは嬉しかったが、魔術が好きと言う訳ではないからだ。


「ありがとう、ララージュ。でも私は、ララージュが好きなことで頑張ってくれた方が嬉しいわ」

「ララージュは、姉さんの事が好きですよ」

「私もララージュの事が好きよ。でもそれは、私の魔術好きとは違うわ」

「私が好きな事……」

「これからゆっくり見つければいいわ。ララージュが本気で頑張りたいことを見つけたら、私も応援するわ」

「は、い……」


言葉の途中でララージュは眠りについた。

 それを確認してから、セラフィナも目を瞑り、意識を手放す


                    ・

                    ・

                    ・


「モトキ。……あれ?」


 眠りについたセラフィナは、夢の中の世界に来ていた。

 しかしモトキの姿が見渡らない。


「今朝、「今日は特訓デーだ」と言って、それからずっと話しかけてこなかったけど、まさかまだ特訓しているの?


 セラフィナはドアを開けて、隣の訓練場を覗く。

 6年前は、ただ広いだけの部屋だったが、増築を繰り返した為、今では立派な道場となっている。

 壁には「兄弟姉妹愛」と書かれた横断幕があったが、日本語で書かれている為、セラフィナには読めない。

 それでも何故か何となく意味は理解できたのだった。


「ここじゃないとしたら……あそこね」


 セラフィナが別の扉を開けると、そこは屋外だった。

 緑豊かな広い草原。

 モトキを探して歩きまわると、大きな滝に辿り着く。


「あんな所にいた。あれって……」


 モトキはそこで、白い服を着ながら滝に打たれていた。


(聞いたことがあるわ。滝に打たれることで精神を鍛える修行法があるって)


 モトキは、エドブルガとの闘いで、体でも技でもなく、心が未熟なことに気付いた。

 それを鍛える為の滝行だ。


(邪魔したら悪いわね。頑張って、モトキ)


 黙って立ち去るセラフィナ。

 モトキの特訓を邪魔したくなかったのだ。


(来月のララージュの誕生日……何をプレゼントしたらいいかな?)


 一方モトキは、精神の修行中でも、割と煩悩塗れだった。


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