表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第七章 異常な普通の日常
81/662

80 夢から覚めても

「これは一体……」

「まさか……エアの言っていた魔王か?」

「そんな! 私、封印を解く儀式してないよ!」


 3人の前には、ボロボロの黒いローブを纏った長い灰色の髪の男が立っていた。

 一見普通の人間に見えるが、その虹彩は血のように赤く、白目は闇のように深い黒色とありえない色をしている。

 そして体に重く圧し掛かる謎の威圧感が、3人の危機感を煽る。


(こいつがモトキとイサオキを殺した魔王! それに黒い結膜! やっぱり私と世界の魔人とか関わりが――)

「あなたが……封印された異世界の魔王?」

「魔王……そうだ、我は魔王トラック・プレアデス。魔人達を統らなくては……」

(魔人を統べる存在……その魔人が私の知るものと同じ存在だとしたら、今まで謎だった魔人の秘密が掴めるかも!)


 ここで得る情報次第では、今後の魔人との闘いを、大きく有利にする可能性があった。

 アステリアの人間として、民を護る王族として、何としても欲しい情報だ。

 しかし――


「イサオキ。エア。(おれ)の後ろに」


 今のセラフィナは、ミタカ モトキなのだ。

 例え夢の世界だったとしても、イサオキとエアの安全が最優先であった。


 2人はセラフィナの背後に回り、更にイサオキが、エアを護るように立つ。

 上の兄弟が下を護り、下の兄弟が上を支える。

 それがミタカ家の絆の強さでもあった。


「魔王トラック・プレアデス。あなたは何故、(おれ)達の前に現れた? 目的があるのなら聞きます」

「目的……願い……そうだ、それが我の責任……」


 魔王の表情は虚ろで、その声はたどたどしい。


「魔人とは……なに?」

「我に何を求める……。叶える……」


 そして言っていることも要領を得ない。

 この魔王も、モトキの記憶から作られた存在だとしたら、モトキの経験以上の行動と発言は出来ないのだ。


(どうやら情報を得ることは出来ないみたいね。これからどうしたら……いえ、ここからの展開は――)


 モトキの記憶通りの展開だとしたら、待っているのはモトキとイサオキの死。

 そしてエアの孤独である。


「2人とも逃げて!」


 魔王の背後から2本の黒い帯が伸び、モトキとイサオキに高速で向かってきた。

 事前に警戒していたこともあり、3人は無事に避けることが出来た。


「エア! 警察に電話だ! ここは僕と兄さんで――」

「駄目! イサオキも逃げて! 戦っちゃ――」


 セラフィナが言い切る前に、魔王の伸ばした帯が背後からイサオキの胸を刺し貫こうとしていた。


(分かる! これはイサオキを殺す一撃だわ!)


 セラフィナの脳裏に、イサオキが心臓を潰され、絶命する光景が浮かぶ。

 モトキが感じたであろう、後悔、絶望、悲しみ、怒り、憎悪。

 ありとあらゆる負の感情が、セラフィナの心の中に流れ込んでくる。


(これは夢。過去に会った記憶。意味などない。だけど――)


 セラフィナの右腕が――モトキの右腕が脈動する。

 意思の無い、モトキの無意識が、家族を護れと叫んでいた。


「2度も奪われるなんて、許されないわよ!」


 右腕が、イサオキに伸びた帯を掴み取り、握り潰す。

 掴んだ右手から血が流れるが、そんなことは意にも介さない。

 右腕は掴んだ帯を思いっきり引き、魔王を手繰り寄せる。

 魔王は更に帯を伸ばすが、その全てを右腕が掴んでいく。


(防ぐので精一杯――いえ、未来を切り開くのがモトキの役目!)


 セラフィナは左手に意識を集中させる。

 今までは何故か出来なかったが、ここが夢の中だとしたら、思い浮かべたものを作り出すことが出来るはずなのだ。

 セラフィナは、脳のリミッターを外し、集中力の限界を引き出す。

 すると右手に、真っ白な剣が握られていた。


(モトキが切り開いた道を――)


 防御を全て右腕に任せ、セラフィナは魔王の懐に飛び込む。


(信じて進むのが私の役目よ!)


 セラフィナの剣が魔王を切り裂く。

 すると魔王は、光の粒となり消えていった。


「……やったのか?」

「流石モト兄!」


 セラフィナが魔王を打ち倒すと、エアが抱き着いてきた。

 イサオキは、何が何だか分からないと、困惑している。


「あれ? これって……」


 セラフィナが、ホッと胸を撫で下ろすも束の間、世界が、家が、そして3人が、魔王と同じように光の粒になっていく。


「……どうやら夢が覚めるみたいね。もうちょっと2人と、ゆっくり話したかったなぁ」

「兄さん?」

「何を言ってるの?」


 イサオキとエアが、不安そうな顔でセラフィナを見ている。

 セラフィナは心配はいらないと、優しい目で2人を見つめた。


「イサオキ、エア、よく聞いて。例えモトキ(おれ)が死んでも、2000年の時が流れても、2度と会えなくなったとしても――」

「駄目……嫌!」

「おい! ふざけたことを言うな!」

「モトキは変わらず、あなた達を愛し続けているから」


                    ・

                    ・

                    ・


 気付くとセラフィナは、ベッドの上にいた。

 体を起こし、辺りを見渡すと、そこは船の客室だった。

 セラフィナの記憶と連続する、現実の世界だ。


(戻ってきた……)

『どうした? まだ起きるには早いぞ?』

「モトキ……」


 心の中から響くモトキの声。

 聞くだけで安心する、とても優しい声。

 イサオキとエアが本来与えられるはずだった声。


(イサオキ……エア……)


 セラフィナは俯き、目から涙が溢れる。

 それを心配するモトキの声が、よりセラフィナの心を絞めつけた。


『セラフィナ、大丈夫か?』

「大丈夫よ……ちょっと夢を見ただけ。とても……とても愛おしい夢を」


 夢の内容を、モトキに伝えることは出来なかった。

 モトキの抱える悲しみは、セラフィナが感じたものと比べ物にならない程、大きなものだからだ。


 セラフィナは立ち上がると、船室の窓を開ける。

 窓から体を乗り出すと、何も見えない真っ暗な海、静かな波音、心地よく香る潮風。

 今は感じる全てが悲しく感じた。


(金色の女の人……。前にあの人が現れた時は、魔人が待ち構えていた。だったら今度も……)


 平和が破られる予感がした。


(あの術式らしきものが、何かの役に……)


 それは四色国歴853年。

 セラフィナ・ホワイトボード、15歳。

 魔人アルタイルの存在が確認されてから、もうじき6年が経とうとしていた時の事だった。


第七章はこれで終わりとなります

セラフィナがロリな時代は終わりを告げました

あくまで年齢の話ですが

そしてモトキとの歳の差は変わっていない罠

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ