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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第一章 元気という名の軌跡
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7 城内探索

『へー、城の中ってこんな感じになってるのか』


 城の門を潜ってすぐの場所は開けたホールのような場所だった。

 そこには兵士が規則的に並んでおり、内装は外観に負けない立派なもので、いかにも高そうな調度品や絵が飾られている。

 奥には2つの階段から二階に上がれるようになっており、その中心には大きな肖像画が飾られていた。

 書かれているのは冠を被り、マントと正装に身に纏った白髪金眼の男性が玉座に座っているものだ。


『これがこの国の王様かな? 結構な歳みたいだしたぶん孫がいるかな? 孫の王位継承権ってどんなものだっけ?』


 絵の下にはこの王らしき人の名前と何かの年号のようなものが書かれていたが、モトキにはこの世界の字が読めない。


『会話は加護で自動的に翻訳されるけど、文字でそれをやると元がどんな字か分からないから読めるけど書けなくなるんだったよな。頑張って覚えないと』


 ちなみにイサオキには文字翻訳の加護も与えようとしたが、これが理由でかなり怒られたことは秘密だ。

 仮にモトキの方が先に目覚めていたら、そんなことには気付かずに加護を与えて大変なことになっていただろう。


 不覚にもイサオキへの感謝ポイントを逃したことに気付かず、王の名前を何とか解読しようとしていると、先ほどの馬車から2人の男女が出てきた。

 白衣を着た老年の男性と、鞄を持った助手らしき女性だ。

 モトキはその男性が技術者の類ではなく医者であることを直感的に理解した。

 イサオキと同じ職業なのだから当然だ。


「お待ちしておりました、こちらです」

「うむ」


 それなりに地位のありそうな恰好をした中年の男性が小走りで医者の元へ駆け寄り、城の奥の方へと案内していった。

 中年の男は明らかに焦っており、医者も神妙な表情をしている。


『重病人か? この世界の医療レベルってどの程度なのかな?』


 モトキは少し興味を持った。

 医者とはあの天才イサオキが選んだ職業なのだ。

 それだけでモトキにとって医者という職業の評価はぶっちぎりのナンバー1である。


『イサオキがこの世界でまた医者になってたとしたらだいぶ医療は発展してるはずだけどどうなんだ?でも電気がないから勝手が違うのかも……』


 モトキは気になり付いて行こうとした――がすぐに立ち止まった。


『……やめておこう。俺にとってこの世界はあくまで魂を修復して死に直すための通過点。この世界で積極的に人付き合いをする気はないし、まして人の生き死にとかに関心を持つべきじゃない。俺は神の加護で病気とは無縁なんだから、この世界の医療なんてどうでもいい』


 モトキは自身の気の迷いを振り払い、医者等とは別の通路から城の奥へ進へと進んで行く。

 途中で女性の兵士や使用人と何度かすれ違い、念のため妊娠の有無を確認したが残念ながら妊婦はいなかった。

 妊娠の有無は腹部に手を向けると分かる加護を神から貰っているため、腹部が大きくなっていなくとも分かるのだ。


『……必要なこととはいえ凄く失礼なことしてるよな、俺。どうもすみません』


 そもそも自分の子供に20歳の青年の人格が宿ることも親からすれば勘弁願いたいことである。

 それを考えるとモトキの少し上向きになっていたモチベーションは再び0に。

 いや、マイナスに振り切れていった。


『生まれ変わらずに消滅してしまいたい……。駄目かな? 駄目だよなぁ……』


 罪悪感と憂鬱さを抱えながら更に奥へと進むと、他よりも立派な扉を見つけた。

 触れてみると城の門とは違い、すり抜けることができ、入ってみるとそこは少々広い空間に赤い絨毯が入り口から真っすぐと伸び、その先にある段差の上に立派な椅子、玉座が置いてある。


『さっきの絵に描いてあった椅子ってあれか。よく王様が踏ん反り返ってる玉座の間ってやつだな、王様は留守だけど』


 モトキは何となく玉座に座って踏ん反り返ってみた。

 実際はすり抜けてしまうため形だけそう言う体勢を取っているだけであるが気分は王様である。

 30秒ほどで飽きて起き上がった。


『いくらはしゃいでもやる気が出ない。これはいよいよ不味いかもしれない……』


 モトキは時間切れによる魂の消滅を本格的に選択肢に入れ始めた。

 大抵のものをすり抜け、遮るものなどないはずなのに、まるで泥の中を進んでいるかのように足取りが重い。

 それでも何とか体を前に進めて部屋から出ると、扉の前を正装の少年2人とお付きらしきメイド服の女性が通り過ぎて行った。


 少年等は小学校の低学年くらいの年齢だろう。

 背の高い方の少年は少々やんちゃそうな風貌で両手を頭の後ろに組みながら歩いている。

 もう1人の少年は対照的に姿勢を正したきっちりした佇まいで、気品のようなものを感じる。

 そして2人とも肖像画に書かれていた王(仮)と同じく白髪であった。


『たぶんこの国の王族だな。王子……さっきの絵が王様なら孫かな? この子の母親が妊娠していたら中々のポジションかも』


 そう思い王子(仮)達に付いていくことにした。

 途中ですれ違った兵士が全員敬礼をしていたことから、彼が王子である可能性がより現実味を帯びていく。


 場内の長い廊下を3分ほど歩き回ると長いテーブルが置いてある部屋に付いた。

 テーブルには純白のクロスが敷かれ、その上に食器が並べられた席が5つあり、王子(仮)達はそれぞれの席に着き、お付きの女性はその後方で待機している。


『たぶん王族の食卓だな。残りの席はこの子の両親と他の兄弟の分かな?』


 窓から外を見ると既に日は沈んで暗くなっている。

 光源は篝火やランプによるものがチラホラあるだけで、手ぶらで歩くのは憚れる暗さだ。


『そう言えば幽霊の類は見かけないな。バンさんの説明なら浄化された魂が転生先を探して彷徨ってるはずなんだけどな』


 闇夜を眺めながらそんなことを考えていると扉が開き誰かが入ってきた。

 入ってきたのは3人、王子(仮)達の両親と思われる男女とお付きと思われる女性だ。


「待たせたなシグネ、エドブルガ」

「おせーよ、親父。もう腹ペコだぜ」

「駄目だよシグネ、そんな口の利き方しちゃ。本日もお勤めご苦労様です、父上」


 やんちゃそうな少年がシグネと呼ばれたことから、もう1人の少年はエドブルガであろう。

 モトキが2人の父親の顔を見ると、それはまさに城の入り口に飾られていた肖像画の人物そのものである。

 しかし当初は老年だと思っていたが、実際に会ってみるとおよそ30歳そこそこの容姿をしていた。

 少なくとも孫がいる年齢には見えない。


『あー、髪が白いのは地毛か。この子達も頭真っ白だもんな。勘違いしてました、すみません』


 聞こえていないが、一応王(仮)に謝罪する。

 そして重要なことを確認するために彼の隣にいる女性の方に向き直る。


 目の前の男性は現在の王で、隣にいる女性はその妻、つまり王妃である可能性がとても高い。

 王族の妊娠状況を確かめに城に来たモトキにとって彼女こそ目的の相手である。


 王妃(仮)は、王子(仮)達や王(仮)と同じ白髪を腰下まで伸ばしている。

 その容姿はあまり異性に関心がないモトキからしても感心するほど美しく整ったものであった。


『すごいな、エアの次くらいに美人じゃないか、この人』


 それでもモトキにとって世界一の美人はエアで不動である。

 しかしエアの次というのはモトキにとって女性の容姿に対する最大の褒め言葉であった。


「シグネ、あなたもこの国の王子なのですから、それに相応しい振る舞い方というものをですね――」

「そういうのは王位を継ぐエドブルガだけで十分だろ」

「まったく……」


 2人が王子であることが確定した。

 ならば彼女の母親であろう彼女は王妃で確定であり妊娠していればこれ以上ない好条件の転生先である。

 そう、選ばない理由がないほどに。


『どうしよう。これで妊娠してたら転生しない理由がないじゃん。転生したくないのに……』


 もはや転生先を探すのはポーズであり、本当に転生する気は皆無であった。

 いい転生先がなければ時間切れで魂が消滅しても言い訳が立つ。

 しかしここまで好条件で選ばなければ角が立ってしまう。

言い訳する意味があるかは疑問であるが、モトキは変なところで律儀であった。


「さあ、それでは食事にしよう」

「「「はい」」」


 そう言い王と王妃が席に着くと、別室から料理が運ばれてきた。

 立場的にこの世界で上位に入るはずである料理は、肉類こそはモトキの居た世界と似た形状をしているが、それ以外は完全に未知の食材である。


「「「「数多の命が我々の血肉になることに感謝を」」」」


 4人は料理の前で目を瞑り、両手の指を組んで祈るように感謝の言葉を唱えた。

 これがこの国での食事の際のあいさつなのであろう。

 それを終えると4人は食事を始めた。


『はぁ……。それじゃあ失礼しますね』


 モトキは王妃の横で屈み、腹部の方に右手を向けて意識を集中する。

 すると今までとは違う感覚が右手から脳へと走った。


『これは……妊娠してる』


 幸運か不幸か、モトキの転生先第一候補である王妃は妊娠していたのだ。

 モトキはとりあえず候補が1つで来たことで、転生先が見つからず魂が消滅するという最悪の事態を回避できることに肩を落とした。


『うーん、たぶんこの国でこれ以上の転生先ってないだろうけど、問題は王位継承権だな。どうもエド君が継ぐって話だけど、場合によっては俺の王位継承権って3位になるんじゃ……あれ?』


 そういえばと食卓の周りを見渡すと席が1つ余っていた。

 シグネとエドブルガがわざわざ離れて座り、その間に残る無人の席。

 王達も明るく振舞ってるように見えるが、どことなく不自然さを感じる。


『ひょっとしてもう1人王子か王女がいるのか? ならさっきの医者って――ん?』


 王妃の腹部に手を向け続けていると新たな情報が頭に浮かんできた。

 王妃と胎児の健康状態に出産予定日、そのほか転生を無事に終えるため必要な情報が次々と頭の中に流れ込んでくる。

 結果は概ね問題なく、このまま何事もなければ無事に出産できることが分かった。

 しかし1点だけモトキの意にそぐわない情報があるのだ。


『お腹の子……女の子だ』




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