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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第六章 四色祭
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61 モトキの想い

 モトキの勝利で湧き上がる会場。

 わずか10歳で、肉体的にも戦いに向いていないセラフィナの勝利は、否応なしに人々を滾らせるのだ。


 試合を終えた両選手は、ステージの中央に戻らなければいけない。

 互いに死力を尽くした相手に、礼を尽くさなければならないのだ。

 しかしモトキはその場に留まり続けている。


『モトキ、大丈夫?』

「大丈夫じゃない、動けない……」


 モトキは足の力を限界に引き出し、その前にもカーネギアを撹乱しようと動き続けていた。

 その為、両足の疲労が限界を超え、言うことを聞かなくなっていたのだ。

 痛みや疲労をある程度無視できるモトキでも、そもそも動かないのではどうしようもない。


 それを察したカーネギアは、動けないセラフィナの前に立った。


「セラフィナ・ホワイトボード。俺の完敗だ」


 カーネギアは、モトキの目を見ながら、潔く負けを認める。

 一方モトキの方は、自分の勝利に不満があった。


(わたし)は、この戦いで全てを出し切ってしまいました。本当ならこの後に、もう1戦する必要があります。そうなれば(わたし)は、確実に負けていたでしょう……」

「初戦に俺が油断したせいで、君の勝利にケチが付いてしまったと思っているのか? だが初戦での君の動きを事前に知っていなければ、3戦目はもっと早く決着が付いていただろう。そうすれば君はまだ余力を残せていた。これは純然たる実力の結果だ」

「……すみません、意地が悪かったですね」

「君と戦えてよかった。またいつかやろう。その時は俺が勝つ」

「とても楽しかったです。王闘はこれが最初で最後ですけど、機会があれば是非」


 2人は固い握手を結び、歓声に包まれながらステージを後にした。


『満足いく試合だった?』

「これに不満を抱いちゃ駄目だろ。大満足だ」

「それなら良かったわ。それはそうと、足の痛みが引くまで、表に居てね」

「ああ、この痛みは、俺の勝利の余韻として堪能させてもらうよ」


 それからモトキは、キテラに抱えられながら、王族の観戦している場所へ向かった。


                    ・

                    ・

                    ・


「あっ、さっきぶりです」

「ああ、毎回の事だが、余韻が台無しになるな……」


 2人は別々の出入り口からステージを後にした。

 しかし王族が控えている場所は同じの為、最終的には合流してしまうのだ。


「やったな! よく頑張ったぞセラフィナ!」


 城の皆が、戻ってきたモトキの勝利を称える。

 1番喜んでいるイオランダは、モトキに抱き着こうと駆け寄ってきた。

 モトキはそれを避けた。


「えー……」

『モトキ。その対応はちょっと……』

「申し訳ない。でも今の(わたし)は剣なので。先にやらないといけないことがあるんです」


 そう言うとモトキは、シグネに抱き着く。


「な、何するんだよ、セラフィナ!」

「喜びの表現。言葉だけじゃ表しきれないから」

「はぁ!?」


 シグネは、突然の事に動揺する。

 それからエドブルガ・カリン・リシストラタ・キテラの順に抱き着いて行く。


「みんなのおかげで楽しかった。強くなれた。ありがとう。すごく嬉しかった」


 モトキは最高の笑顔で、王闘に参加できるように取り計らってくれた5人にお礼を言う。

 シグネとカリンは照れ臭そうに、エドブルガとキテラは嬉しそうに、リシストラタは満足そうな顔をしている。


 イオランダは少し寂しかったが、空気を読んで顔には出さないようにした。


「仲の良いことだな。白の国」


 声の聞こえる方を振り向くと、そこには赤の国の女王エルザとカーネギアがいた」


「ほう……近くで見ると殊更小柄よな。その年でカーネギアに勝つとは。イオランダよ、そなたの娘は中々に面白いではないか」

「ええ、私の自慢の娘ですから」


 イオランダは得意げだ。


「どうだ? 我が国の嫁に来る気はないか?」

「えぇ!?」


 想いもやらぬ発言に一同は騒然とする。


『気に入られたわね、モトキ』

(いやいや、俺はセラフィナだからね!)

「む、娘を嫁にはやらないぞ!」


 イオランダは速攻で拒否した。

 しかしエルザは、そんなイオランダを無視して、セラフィナに歩み寄る。

 他の皆も言いたいことがあったが、他国の女王に、おいそれと話しかける訳にはいかない。


「どうだ、今なら次期国王のカーネギアの正妻を狙えるぞ?」

「え? 俺?」

「ステージ上で、仲良さそうに話していたではないか。それともセラフィナは不満か?」

「不満と言う訳では……。彼女の高潔で、真っ直ぐな人柄には好感を抱いている」

(そんなりっぱな性格じゃありません! 自分が楽しみたかっただけなんです!)

「けれど重要なのはセラフィナの意思だ。そうだろ?」


 カーネギアはモトキの方を見る。

 どうにも満更ではなさそうな顔をしていた。

 モトキは、心の中でドン引きしながら、必死にポーカーフェイスを付くっている。


 カーネギアは、見た目より内面を優先した。

 そう言えば聞こえはいいが、実際は女のセラフィナの見た目より、男のモトキの内面を優先したのだ。

 そんな状況を、セラフィナは他人事のように笑っている。


『流石ねモトキ。他国の王子を落としたわ』

(だから俺はセラフィナ!)

『言いたいことは分かるけど、王族の私にまともな結婚願望はないわよ? 政略結婚なんて、とっくの昔に覚悟済みだから』


 セラフィナにとって、恋や愛と結婚はイコールではないのだ。


「……王の正妻は国の名前と同じ色でないといけないのでは?」

「他の国ではな。赤の国では、そういう細かいことは気にせんのだ」

(わたし)には、結婚とかそういうのはまだ分からなくて……」


 モトキは必死に、波風を立てないように、話を終わらせる方法を考える。


 モトキはセラフィナの事が好きだが、同じ体の自分と結婚できるわけではない。

 将来セラフィナが誰と結婚しようと、それはそれと祝福するつもりである。


 しかしモトキの方に好意を持っている相手は遠慮したかった。

 セラフィナに何とも思っていない相手を任せる訳にはいかず、だからと言ってモトキが相手をする気はない。

 モトキはブラコンであっても、男が好きなわけではないのだから。


(カーネギアとは、強敵と書いて友と読む関係がいい! それ以上は求めてない! 誰か助けて!)


 しかし頼みのイオランダは、いまいち頼りにならなかった。

 最大の味方であるはずのセラフィナも、この状況を楽しんでいる。

 そんな時、エルザは背後から声を掛けられた。


「母様、セラフィナが困っています」

(救いの天使!)


 モトキに助け舟を渡したのはソフィアだった。


「ソフィア。セラフィナがカーネギアに嫁いだ場合、セラフィナはお前の義姉になるぞ?」

「義姉!?」


 ソフィアは、1週間前のセラフィナとアンネリーゼのやり取りを思い出す。

 アンネリーゼが、将来エドブルガに嫁いで、セラフィナの義姉になることは納得した。

 しかしソフィアが、そんな2人の関係を、少なからず羨ましく思ったことは事実なのだ。


「セラフィナお義姉さん……」


 ソフィアがボソッと呟いたことを、モトキは聞き逃さなかった。

 救いの天使は、今にも堕天使になろうとしている。


「ソフィア! セラフィナ(わたし)と君は熱い友情に結ばれた親友だ!」

「親友!」


 ソフィアは、セラフィナの1番の友達から、親友へとランクアップした。

 親友から向けられている期待を裏切る訳にはいかない。


「無理強いをしてはいけないと思います!」

「我に意見をするようになるとは……ソフィア!」

「ごめんなさい!」


 ソフィアは頑張ったが、エルザの迫力に負けてしまった。


「……ふっ、これもセラフィナの影響か? よい。今の我の強いお前の方が、我の好みだ」

「母様……」

「今日はこの辺にしておこう。だがセラフィナよ。我はお前の事が気に入ったぞ。赤の国に来ることになったら歓迎しよう」


 そう言ってエルザとカーネギアは、赤の国の席へ戻って行った。


「セラフィナは嫁にやらないぞ!」

「そうね、出来ることなら婿が欲しいところね」

「リツィア!?」


 リツィアは、セラフィナが魔術で白の国に貢献したがっていることを知っていた。

 そして既に魔術研究で非凡な才覚を見せている、優秀な人材である。

 何より可愛い娘だ。


 その為リツィアは、セラフィナを他国に嫁がせたくはなかったのだ。

 しかし他国から優秀な人間をくれるというのなら、反対する理由はなかった。

 もちろんセラフィナの気持ちが第一な為、無理強いする気はないが。


「とりあえず穏便に済ませれた……」

『モトキが構わないのなら、私もある程度は受け入れるつもりよ? 好感度が一定以下の相手なら、人を見る目は私よりあるし』

「そこは自分で判断してくれ……」


 思わぬところで、一般人と王族の価値観の差が表れた。

 もしイサオキとエアが、モトキに結婚相手を決めてもらおうという事態になったら、全力で説教をするところだ。

 しかしそういう立場の生まれであるセラフィナには、そういう訳にも行かない。

 モトキはモヤモヤとした感情を抱えることになった。


「姉さん、嫌なら嫌って言ったほうがいいよ?」

「ああ、そしたら俺達が全力で守ってやるからな」

「ありがとう、でも自分でもよく分かってないことだから」


 モトキは、セラフィナが極端であることを知った。

 シグネとエドブルガの方が、よっぽどモトキに近い思考をしていたのだ。


「あの……セラフィナ。ちょっといい?」

「ん? どうかしたか?」

「やっぱり違う……」

「へ?」

「あのね、ボクとセラフィナとアンネだけで話したいことがあるの。疲れてるとは思うけど来てくれない?」

『モトキが大丈夫なら行きましょう』

「大丈夫だ。行こう」


 そうしてセラフィナとソフィアは、その場を後にした。


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