53 おかえし
「みんな喜んでくれたみたいで良かったわね」
『ああ、頑張った甲斐があるってもんだ』
セラフィナ達は、杏仁豆腐のフルーツポンチを配り終え、自室に戻っていた。
『けれどキテラさんには驚いたな。フラさんはてっきり玉砕したと思ったのに。キテラさんも、そんな素振りは見せてなかったし』
「そうね。最近のキテラは、表情を隠すのが上手いし」
『最近? キテラさんって、セラフィナに何かあるか、何かやらかす時以外は、割とクールな印象があるんだけど』
「んー、モトキになら話してもいいわね。キテラって、城に来たばかりの頃は、かなりのトラブルメーカーだったのよ」
「あのキテラさんが!?」
それは今から6年前。
セラフィナが当時4歳だったころである。
キテラは白の国の片田舎の小さな村の出身だった。
都会での暮らしに憧れていたキテラは、地盤の魔力量が多いことを活かして、城の魔術師として雇って貰おうと、城に直接来たのだ。
『アポなしで来たって、城に入れないだろ?』
「キテラ並みの魔力の持ち主は本当に貴重だから。割と無茶を通せたらしいわ。城の中では、エドブルガに次いで2番目の魔力量だし」
『そんなに凄かったのか……』
魔力量にものを言わせて、城の魔術師となったキテラ。
しかしキテラは魔術の知識など皆無で、特に仕事をするわけではなかった。
いわゆる給料泥棒である。
そんなキテラの教育を任されたオルキスは頭が痛かった。
「キテラは都会の暮らしが目的で、国の事も魔術の事もどうでもよかったみたい。かなり傍若無人に振舞っていたみたいだけど、才能故にクビにはならなかったそうよ」
『不憫なオルさん……』
それでもオルキスは頑張って、何とかキテラに魔術を教えることが出来た。
知識は無くとも、体に術式を刻み、魔力を通せば魔術は発動するのだ。
オルキスは、キテラの魔力量を最大限活かせる、強力な術式を刻む。
そして上空に向かって試し打ちをした。
スパイラルバースト。
何本もの炎が、蛇のように伸び、螺旋を描きながら空を登っていく大魔術である。
その強大な威力と、始めた魔術を使ったこともあり、キテラ本人も目を丸くする程だ。
それを見た城の兵や使用人も、キテラに大きな拍手を送る。
その中でもっとも瞳を輝かせていたのは、1人の少女であった。
セラフィナだ。
「あれが私の初めて見た魔術……私が魔術にハマる切っ掛けね」
『幼少期にそんなの見たら、心奪われても仕方ないな』
それからセラフィナは、毎日のようにオルキスの研究室に訪れるようになった。
そしてそこで怠けて――もとい働いていたキテラに、セラフィナはとても懐いていた。
自分の心を奪った魔術を使った張本人なのだから当然であろう。
キテラも、今まで会った誰よりも自分の事を尊敬し、愛らしく接してくれるセラフィナを可愛がった。
年の離れた妹が出来たような気分だったのだ。
それから暫くすると、セラフィナはイオランダとオルキスに頼みごとをしたのだ。
「わたしキテラがほしいの」
セラフィナに甘々なイオランダと、キテラを厄介者としていたオルキスは、快く了承する。
キテラは有無を言わさずに、城の魔術師からセラフィナの傍付きメイドに昇進させられた。
怠けていても給料の貰える立場ではなくなったのだ。
半ば無理やりとはいえ、王族の傍付きとなったからには、セラフィナにもしもの事があればクビが飛ぶ。
職を失うだけならまだしも、物理的に飛ぶ可能性すらある。
キテラは必死になり、マナーや仕事を覚え、性格を強制した。
そして現在のキテラが出来上がったのだ。
「あー、キテラさんはクールなんじゃなくて、ボロが出ないように気を使ってたのか」
「今ではあれが素になったみたいだけどね。幼い頃の事とは言え。キテラの意思を無視して、人生を大きく変えてしまったのは反省するところね。キテラは「昔は嫌だったけど、今ではこれで良かったと思っています」って言ってくれたけど」
「まあキテラさんが、セラフィナの事を大事に思ってるのは間違いないよ」
その想いに嘘がないから、フラマリオもキテラに惹かれたのだと。
それからセラフィナより、キテラとの思い出話を聞いていると、部屋にノックの音が響いた。
「姫様、キテラです。夕食のお時間です」
「今行くわ」
キテラに呼ばれてセラフィナは部屋から出る。
モトキは、キテラを改めて見据えるが、とてもセラフィナの話に聞くような駄目な人物とは思えなかった。
「セラフィナ様! キテラさん!」
2人が食卓へ向かおうとすると、廊下の向こうからフラマリオが地響きを起こしながら走ってきた。
「フラマリオ、今日の職務は?」
「す、全て滞りなく終えましたです、はい! それでこの度は、昼間に大変良いものを承りましたので、そのお礼にと馳せ参じました!」
そう言うとフラマリオは、2人に小さな小包を手渡した。
さっそく開けてみると、セラフィナには白い宝石をあしらったブローチが、キテラにはイヤリングが送られた。
『これは2人に似合いそうな……。フラさんセンスいいな』
「ありがとうフラマリオ」
「しかしこのような高価な物を……私が渡したクッキーは原価数百アス程度のものですよ?」
「いいえ、これは普段の感謝の気持ちも含めての物なので! それでは失礼します!」
フラマリオは緊張が限界だった様で、要件を済ませると足早に去っていった。
セラフィナがキテラの方を見ると、ジッとイヤリングを見つめている。
「嬉しいなら声か表情に出したら?」
「何のことか分かりかねますね。食後に渡そうと思っていたのですが、ついでですので姫様にお返しです」
キテラからの贈り物は、真っ白な羽ペンだった。
「ありがとうキテラ。これで魔術の研究がより捗るわ」
「程々にしてくださいね。それでは参りましょう」
「ええ、ちょっと待っていて」
セラフィナは自室に戻り、フラマリオとキテラのプレゼントを机の上に置くと、改めて食卓へ向かった。
「セラフィナ、昼間のお返しだ。受け取ってくれ」
「今年も何かしてくれると思っていたから、事前に用意しておいたわ」
「俺からはこれな」
「ありがとう、姉さん」
「え? え?」
食卓に着くなり、家族の皆から次々にお返しを渡された。
部屋の外にはカリンを始めとした、城の者達が待機している。
あまりの贈り物の量に、セラフィナは潰されてしまった。
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「来年以降は、お返しに何か制限を設けましょう。毎年この調子じゃ、部屋が埋まってしまうわ」
『そうだね』
夕食を終え、自室に戻ったセラフィナは、貰ったお返しを開封していた。
モトキがフルーツポンチを大量に作った為、かなりの人数に配ってしまったのだ。
その全員がお返しをくれた訳ではないが、それでも詰み上がったプレゼントは山のようになっていた。
「これは……開けると鏡になっているのね。けど悪いわね、モトキ。フルーツポンチを作ったのはモトキなのに、お返しは殆どが女物だわ」
『俺がやりたくてやったことなんだから気にする必要はないって』
「そうは言っても……よく考えたら、私もモトキにお返ししてないわ」
セラフィナは1番最初に、それも結構な量を食べた。
もちろんお礼は言ったが、物でお返しはしたいないのだ。
「明日まで待って。それまでに何か――」
『俺はもう貰ってるよ』
「え? ……いやいや、何もあげていないわよ」
『俺もキテラさんと同じ。1番欲しい白いもの』
それはフラマリオの恋愛相談を受けた時に、セラフィナが言ったこと。
キテラが好きな白いもの。
『俺はセラフィナの人生の一部を貰ってるよ』
「なっ……急にそう言う……」
セラフィナは上手く声が出せなかった。
手元の鏡を見ると、自分の顔が赤らんでいるのが見える。
(え? え? 何で私、こんなにドキドキしているの? 前に1度告白されているのだから今更じゃない)
それはフラマリオとキテラに当てられたのか。
それともセラフィナが成長したことで意識が変わったのか。
何にしてもセラフィナは、依然と違うものを感じていた。
「セラフィナ?」
「今日はもう寝るわ! ヒートスキン!」
セラフィナは体内の魔力を枯渇させ、強引に眠りについた。
普通の方法では、寝付ける気がしなかったのだ。




