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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第五章 白くて甘い日々
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53 おかえし

「みんな喜んでくれたみたいで良かったわね」

『ああ、頑張った甲斐があるってもんだ』


 セラフィナ達は、杏仁豆腐のフルーツポンチを配り終え、自室に戻っていた。


『けれどキテラさんには驚いたな。フラさんはてっきり玉砕したと思ったのに。キテラさんも、そんな素振りは見せてなかったし』

「そうね。最近のキテラは、表情を隠すのが上手いし」

『最近? キテラさんって、セラフィナに何かあるか、何かやらかす時以外は、割とクールな印象があるんだけど』

「んー、モトキになら話してもいいわね。キテラって、城に来たばかりの頃は、かなりのトラブルメーカーだったのよ」

「あのキテラさんが!?」


 それは今から6年前。

 セラフィナが当時4歳だったころである。


 キテラは白の国の片田舎の小さな村の出身だった。

 都会での暮らしに憧れていたキテラは、地盤の魔力量が多いことを活かして、城の魔術師として雇って貰おうと、城に直接来たのだ。


『アポなしで来たって、城に入れないだろ?』

「キテラ並みの魔力の持ち主は本当に貴重だから。割と無茶を通せたらしいわ。城の中では、エドブルガに次いで2番目の魔力量だし」

『そんなに凄かったのか……』


 魔力量にものを言わせて、城の魔術師となったキテラ。

 しかしキテラは魔術の知識など皆無で、特に仕事をするわけではなかった。

 いわゆる給料泥棒である。


 そんなキテラの教育を任されたオルキスは頭が痛かった。


「キテラは都会の暮らしが目的で、国の事も魔術の事もどうでもよかったみたい。かなり傍若無人に振舞っていたみたいだけど、才能故にクビにはならなかったそうよ」

『不憫なオルさん……』


 それでもオルキスは頑張って、何とかキテラに魔術を教えることが出来た。

 知識は無くとも、体に術式を刻み、魔力を通せば魔術は発動するのだ。

 オルキスは、キテラの魔力量を最大限活かせる、強力な術式を刻む。

 そして上空に向かって試し打ちをした。


 スパイラルバースト。

 何本もの炎が、蛇のように伸び、螺旋を描きながら空を登っていく大魔術である。


 その強大な威力と、始めた魔術を使ったこともあり、キテラ本人も目を丸くする程だ。

 それを見た城の兵や使用人も、キテラに大きな拍手を送る。

 その中でもっとも瞳を輝かせていたのは、1人の少女であった。

 セラフィナだ。


「あれが私の初めて見た魔術……私が魔術にハマる切っ掛けね」

『幼少期にそんなの見たら、心奪われても仕方ないな』


 それからセラフィナは、毎日のようにオルキスの研究室に訪れるようになった。

 そしてそこで怠けて――もとい働いていたキテラに、セラフィナはとても懐いていた。

 自分の心を奪った魔術を使った張本人なのだから当然であろう。


 キテラも、今まで会った誰よりも自分の事を尊敬し、愛らしく接してくれるセラフィナを可愛がった。

 年の離れた妹が出来たような気分だったのだ。


 それから暫くすると、セラフィナはイオランダとオルキスに頼みごとをしたのだ。


「わたしキテラがほしいの」


 セラフィナに甘々なイオランダと、キテラを厄介者としていたオルキスは、快く了承する。

 キテラは有無を言わさずに、城の魔術師からセラフィナの傍付きメイドに昇進させられた。

 怠けていても給料の貰える立場ではなくなったのだ。


 半ば無理やりとはいえ、王族の傍付きとなったからには、セラフィナにもしもの事があればクビが飛ぶ。

 職を失うだけならまだしも、物理的に飛ぶ可能性すらある。

 キテラは必死になり、マナーや仕事を覚え、性格を強制した。

 そして現在のキテラが出来上がったのだ。


「あー、キテラさんはクールなんじゃなくて、ボロが出ないように気を使ってたのか」

「今ではあれが素になったみたいだけどね。幼い頃の事とは言え。キテラの意思を無視して、人生を大きく変えてしまったのは反省するところね。キテラは「昔は嫌だったけど、今ではこれで良かったと思っています」って言ってくれたけど」

「まあキテラさんが、セラフィナの事を大事に思ってるのは間違いないよ」


 その想いに嘘がないから、フラマリオもキテラに惹かれたのだと。

 それからセラフィナより、キテラとの思い出話を聞いていると、部屋にノックの音が響いた。


「姫様、キテラです。夕食のお時間です」

「今行くわ」


 キテラに呼ばれてセラフィナは部屋から出る。

 モトキは、キテラを改めて見据えるが、とてもセラフィナの話に聞くような駄目な人物とは思えなかった。


「セラフィナ様! キテラさん!」


 2人が食卓へ向かおうとすると、廊下の向こうからフラマリオが地響きを起こしながら走ってきた。


「フラマリオ、今日の職務は?」

「す、全て滞りなく終えましたです、はい! それでこの度は、昼間に大変良いものを承りましたので、そのお礼にと馳せ参じました!」


 そう言うとフラマリオは、2人に小さな小包を手渡した。

 さっそく開けてみると、セラフィナには白い宝石をあしらったブローチが、キテラにはイヤリングが送られた。


『これは2人に似合いそうな……。フラさんセンスいいな』

「ありがとうフラマリオ」

「しかしこのような高価な物を……私が渡したクッキーは原価数百アス程度のものですよ?」

「いいえ、これは普段の感謝の気持ちも含めての物なので! それでは失礼します!」


 フラマリオは緊張が限界だった様で、要件を済ませると足早に去っていった。

 セラフィナがキテラの方を見ると、ジッとイヤリングを見つめている。


「嬉しいなら声か表情に出したら?」

「何のことか分かりかねますね。食後に渡そうと思っていたのですが、ついでですので姫様にお返しです」


 キテラからの贈り物は、真っ白な羽ペンだった。


「ありがとうキテラ。これで魔術の研究がより捗るわ」

「程々にしてくださいね。それでは参りましょう」

「ええ、ちょっと待っていて」


 セラフィナは自室に戻り、フラマリオとキテラのプレゼントを机の上に置くと、改めて食卓へ向かった。


「セラフィナ、昼間のお返しだ。受け取ってくれ」

「今年も何かしてくれると思っていたから、事前に用意しておいたわ」

「俺からはこれな」

「ありがとう、姉さん」

「え? え?」


 食卓に着くなり、家族の皆から次々にお返しを渡された。

 部屋の外にはカリンを始めとした、城の者達が待機している。

 あまりの贈り物の量に、セラフィナは潰されてしまった。


                    ・

                    ・

                    ・


「来年以降は、お返しに何か制限を設けましょう。毎年この調子じゃ、部屋が埋まってしまうわ」

『そうだね』


 夕食を終え、自室に戻ったセラフィナは、貰ったお返しを開封していた。

 モトキがフルーツポンチを大量に作った為、かなりの人数に配ってしまったのだ。

 その全員がお返しをくれた訳ではないが、それでも詰み上がったプレゼントは山のようになっていた。


「これは……開けると鏡になっているのね。けど悪いわね、モトキ。フルーツポンチを作ったのはモトキなのに、お返しは殆どが女物だわ」

『俺がやりたくてやったことなんだから気にする必要はないって』

「そうは言っても……よく考えたら、私もモトキにお返ししてないわ」


 セラフィナは1番最初に、それも結構な量を食べた。

 もちろんお礼は言ったが、物でお返しはしたいないのだ。


「明日まで待って。それまでに何か――」

『俺はもう貰ってるよ』

「え? ……いやいや、何もあげていないわよ」

『俺もキテラさんと同じ。1番欲しい白いもの』


 それはフラマリオの恋愛相談を受けた時に、セラフィナが言ったこと。

 キテラが好きな白いもの。


『俺はセラフィナの人生の一部を貰ってるよ』

「なっ……急にそう言う……」


 セラフィナは上手く声が出せなかった。

 手元の鏡を見ると、自分の顔が赤らんでいるのが見える。


(え? え? 何で私、こんなにドキドキしているの? 前に1度告白されているのだから今更じゃない)


 それはフラマリオとキテラに当てられたのか。

 それともセラフィナが成長したことで意識が変わったのか。

 何にしてもセラフィナは、依然と違うものを感じていた。


「セラフィナ?」

「今日はもう寝るわ! ヒートスキン!」


 セラフィナは体内の魔力を枯渇させ、強引に眠りについた。

 普通の方法では、寝付ける気がしなかったのだ。


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