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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第五章 白くて甘い日々
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51 恋の相談

 第3厨房の机を挟んで、セラフィナはフラマリオから恋愛相談を受けていた。


「お察しの通り、このフラマリオは、キテラさんに恋い焦がれているのです」

「そうね」


 セラフィナは、フラマリオがキテラを意識しているのは知っていた。

 しかしフラマリオの口から、はっきりそう言われたのは初めての事だった。


「しかし想うばかりで、今までそれを伝えるようなことは致しませんでした。共にセラフィナ様に付き従う者として、私の想いを伝えることで、職務に支障をきたす訳にはいかないからです」

「あら、私が原因だったの」

「いえ、姫様にはとても感謝しております。このフラマリオは、姫様を通じて知り合い、話す機会を得ることが出来たのですから」


 フラマリオは、セラフィナが産まれた時より、護衛騎士として勤めていた。

 セラフィナが5歳の頃、城の魔術師として働いていたキテラを、自分の傍付きとして指名したことにより、2人は出会うことになったのだ。


「私はキテラさんが、セラフィナ様のお世話をなさっている姿に惹かれたのです。慈愛に満ちた、あの表情と立ち振る舞いは天使のようでした」

「申し訳ないことに、最近私が元気だから、キテラのそういう姿は見ないわね」

「いえいえ、セラフィナ様が元気なことは、私にとっても喜ばしいことです。それに今ではキテラさんの全てが好きなので、何も問題はありませんよ」


 口には出さないが、フラマリオはセラフィナの事を、妹のように思っていた。

 もちろん本当の妹である、カリンと同じ扱いという訳にはいかないが、それでも大事に思う気持ちは変わらない。


「ですが、ララージュ様の護衛騎士になってからは……。いえ、決してララージュ様の護衛騎士であることに不満がある訳ではなく――」

「分かっているわ。キテラと話す機会が減ったのよね?」

「はい……。それでも何とか話せるようにと、機会を窺っていたら……」

「そんなお兄様を、私が見つけたのです」


 洗い物を終えたカリンが、話に加わってきた。

 カリンは、フラマリオを呆れて様な目で見ている。


「聞いてください、お姫様。私がキテラさんと歩いていたら、どこからか舐めるような視線を感じたのです。不審者かと思って、キテラさんと別れた後、隙を見て捕まえたら、お兄様だったのですよ」

「そ、そのような目で見てはおらぬぞ!」

「舐めるような視線は、キテラさんの感想です」

「ぬぉおおおおお!」


 フラマリオは、頭を両手で抑えて、悶え苦しむ。


「そんな相手の正体が、実の兄だったときの絶望感……」

「そうね……シグネやエドブルガがそんなことをしていたら、とりあえずビンタね」

『愛は人を狂わせるからな……そういうこともあるだろう』


 愛に狂った兄であるモトキでも、ストーカーの経験はなかった。

 流石のモトキでも、分身の術を習得することは出来ず、イサオキとエアを同時に追いかけることは出来ないのだ。

 ちなみに本人は気付いていないが、逆にされたことはある。


「私もお兄様がキテラさんの事が好きなのは知っていたし、いい加減進展してほしいと思ってたのですよ。さりげなくキテラさんにお兄様の事をアピールしても、全然効果がないみたいですし」

「あなた、そのせいでキテラから重度のブラコンと認定されているわよ」

「お兄様の事は尊敬してるですけど、ブラコンかと言われると……」


 目の前に弟の為に右腕を捨てて、妹にデレデレな人がいる為、カリンのブラコン・シスコン認定の壁はかなり高い。

 しかしモトキからは、バッチリとブラコン認定されていた。


「それでカリンから、ホワイトデーに贈り物をして、この思いをぶつけるよう提案されたのです」

「去年のお姫様のおかげで。いい感じに下地が出来てるですので」


 ホワイトデーは、本来かなりマイナーなイベントだ。

 利用するのは、何かに付けて祝いたい、付き合いたてのカップル程度の物である。

 それをモトキが、地球にも同名のイベントがあるということで掘り起こしたのだ。


 それでも昨年モトキが祝った為、城の関係者限定ではあるが、現在ではある程度の認知されていた。


「しかし何を送るべきか悩んでいまして。何分初めての事なので勝手が分からず……」

「経験者であり、キテラのことに詳しい私にアドバイスを貰いに来たと」

「その通りです」

「ふむ……」


 セラフィナは少し考えこむ。

 贈り物に付いてではなく、キテラとフラマリオが付き合い、いずれは結婚するかもしれないことに付いてである。

 セラフィナにとって2人は、家族の次に大事な人物と言っても過言ではない。

 そんな2人の幸せは、決して他人事ではないのだ。


「フラマリオ。あなた、キテラと付き合って幸せになれる? そして幸せに出来る?」

「そうなるように精一杯務める所存です」

「神に誓える?」

「神よりも敬愛するセラフィナ様に誓いましょう!」

「分かったわ。キテラに直接何かを言ったりは出来ないけど、あなたには全力で協力するわ」

「ありがとうございます!」


 フラマリオは、深く頭を下げる。

 カリンは、もっと普通の恋愛事と軽く考えていた為、話が大きくなってきたことに、若干戸惑っていた。


「そ、それで何かないですか? キテラさんが好きな白いものって」

「私」


 送って喜ばれるかは謎だが、キテラが好きな白いものと言われれば、セラフィナで間違いないだろう。


「このフラマリオが姫様の恰好を……」

「高確率で嫌われるだろうからやめなさい。でも具体的に何を送るのが正しいか……悩むわね」


 全力で協力すると言ったが、セラフィナも恋愛がある訳ではない。

 恋心すらぼんやりとしか分かっていない為、男性から何を貰えばれない感情が芽生えるかなど見当もつかないのだ。


「……羊の毛で作った私の人形とか?」

「ああ、お姫様の部屋に飾ってある、ちっちゃくて可愛いのですね」


 ここ最近、次の魔術コンテストで発表する魔術が、まだ構想段階なこともあり、セラフィナは心の中の部屋で考えを巡らせ、モトキが表に出ている時間が増えていた。

 その時間にモトキが新たに始めたのが、羊毛フェルト人形作りである。

 以前に羊を2頭連れてきたので、羊毛の入手先には困らないのだ。


 完全にモトキ個人の趣味の為、無茶な動きはせず、足も利用してゆっくり作っていた。

 現在はセラフィナ・イサオキを作り終え、エアを作成している最中だ。


『……セラフィナがプレゼントするなら可愛げがあるけど、フラマリオが作って渡すのはどうだろうか?』

「……やめておきましょう」

『セラフィナ、ここは俺に任せてくれないか? 恋はいまいち分からないけど、愛なら誰にも負けないつもりだ』

(大丈夫かしら……)


 モトキの愛とは、家族愛に重きを置いている。

 それだけならセラフィナも同じであり、それを相談に活かせるのは、もっと関係が進んでからになるだろう。


 それでも何も分からない自分より、自分に惚れたと告白したモトキの方が、フラマリオの力になれるだろうと、モトキに任せることにした。


「フラマリオ、まず自分はキテラにどう思われていると思う?」

「私がキテラさんに? ……共にセラフィナ様に尽くして来た者として、少なからず良い感情抱いてもらっているとは思います」

「そうですね。キテラさんからお兄様のことを悪く言うようなことは聞いていないです」

『私もないわね。少なくとも知り合い以上のはずよ』

「なら話は簡単だ。まずはフラマリオの想いをキテラにぶつけろ!」


 モトキは、立ち上がりフラマリオに向かって、机の上に身を乗り出すと、力強く告げた。


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