48 お出掛け
魔術コンテストの翌朝。
セラフィナは、オルキスが買ってきた新聞を一緒に見ていた。
『これは……』
「小さいわね……」
「姫さんなんて、まだいい方だろ……」
新聞の一面は、コンテストで優勝したフリージアの写真が、前面に押し出されていた。
9回目の優勝に、世界初の派生属性魔術の開発、おまけに美人と言うことで、普段の10倍の勢いで新聞が売れたそうだ。
フリージアがメインになることは仕方ないと思いながら、次のページを見ると、魔術コンテストの詳細が書かれていたが、その大半はフリージアの事であった。
セラフィナ達の事は、コンテストのベスト10に入賞したこと者として名前が記されている。
オルキスに付いて記されていたのはそこだけであった。
セラフィナとソフィアは、金色の瞳を持つ、2つの国の幼き姫が、共に相手の助手として参加し、8位と9位に入賞したことが記されていた。
しかし本来なら2人が新聞の一面を飾っても不思議ではない大ニュースなのだが、端の方に小さく写真が載っている程度である。
「身分と金色の瞳まで明かしたのに、この程度の扱いって……」
「青の国以外のベスト5入りなんて久々なのに、欠片も触れられないとはなぁ……」
これが昨年ならば、もう少し扱いが良かっただろう。
時期が悪かったとしか言いようがない。
「……よし、十分に絶望したわ。ここから話切り替えていきましょう」
「ふっ、逞しくなったな、姫さん」
「フリージアさんに期待されたからね。いつまでも沈んでいられないわよ。やらなくてはいけないこともあるしね」
本日の夕方には、帰国の為の船に乗らないといけない。
その間に無色の大陸を十分に堪能する予定なのだ。
セラフィナとしては、もっとゆっくりしていたかったのだが、一国の姫がいつまでも城を離れている訳にはいかない。
居ないからと言って、国への影響など皆無なのだが、それでも立場と言うものがあるのだ。
(肋骨が微妙に痛いけど、そこは我慢よ)
肋骨のヒビの事を知られれば、安静にしているよう言われるのは目に見えていた。
その為、結局誰にも話していないのだ。
なので神の加護のおかげで、怪我の治りが早いことを活かして、治るまで我慢し続けることにしたのだった。
「姫様、赤の国の姫がいらっしゃっています」
「今行くわ」
セラフィナが宿から出てくると、そこにはソフィアとカリストが待っていた。
事前にキテラを通して、ソフィアとアステロを回る約束をしていたのだ。
「お待たせ、ソフィア」
「ううん、全然待ってないよ。行くところは決まってるの?」
「オルキスから幾つか、お勧めの場所を聞いておいたわ。この中から選びましょう」
セラフィナとソフィアは、メモと地図を持って、アステロの街を巡る。
もちろん護衛騎士であるカリンとカリストも同行している。
セラフィナ達と年の近いカリンは問題ないが、カリストは異様に目立っていた。
2人が巡る場所は、当然の如く、魔術関連の店である。
最初に向かったのは魔術専門の書店だ。
世界の流通の中心であるアステロには、自国では手に入らないようなものが多数置かれており、2人は入るなり目を輝かせている。
2人はお互いに、自分のお勧めを紹介したりしながら、大量の本を購入した。
2人とも集中すると、周りが見えなくなってしまう性格だ。
そのため、うっかり1つの店で時間を使い果たさないよう、モトキに長居をすると知らせるように頼んでいる。
おかげで2人はアステロの各所を堪能することが出来た。
護衛騎士の2人は、どちらが大量の荷物を持ち運べるか競い合っている。
時間的にそろそろ最後となった頃、セラフィナはメモの端に掛かれた一文に目を向ける。
そこには「最後にいったほうがいい店」と書かれており、2人はメモに従い、そこへ向かった。
「ここは……」
「アクセサリーショップ?」
そこは魔術とは無関係の、普通のアクセサリーショップであった。
魔術研究者としてではなく、普通の友達同士で行くような店だ。
(オルキスがこんな店を知っていると思えないわね。キテラも無色の大陸は初めて。ならカリン?)
セラフィナはカリンの方を向くが、まったくそのような素振りはない。
カリストは、言わずもがなだ。
セラフィナはメモを見返すと、ここを記す一文が、アステリア語として微妙な言い回しなことに気付いた。
そして文字自体も、子供のように拙いものだ。
「……これ、モトキ?」
『正解』
モトキがセラフィナの中に宿ってから1年。
時間を見つけては、心の中の部屋で、セラフィナが作ったアステリア語のドリルを解いていたのだ。
体を使うことと比べ、頭を使うことは得意ではないモトキは、まだまだ文章力は低く、文字を書くことも下手だった。
『これは俺なりのお節介。2人は共通の趣味を持っているから、そこを中心に遊び回るのは正しい。けれど魔術研究者の好敵手だけじゃなくても、友達と呼べる関係になりたいなら、魔術関連以外のところでも思い出を作った方がいい。普段身に付けられる思い出の品とか、良いと思わないか?』
「天才か!?」
『イサオキとエアとの思い出作りに余念のない、俺の経験則だよ』
モトキは、セラフィナがソフィアと友達になりたいと言い出した時から、この事態を想定していた。
そしてセラフィナの視界に映った店から、相応しい店をこっそりと選んでいたのだ。
「セラフィナ、どうしたの?」
「何でもないわ、ソフィアはこういうお店に興味はある?」
「……少しだけ」
ソフィアは少しだけ恥ずかしそうにしている。
お洒落に疎い為、今までこういう店に縁がなかったが、年相応に興味はあるのだ。
セラフィナは、お洒落自体に関心が薄かったが、イサオキとエアを出してまで進めてきたモトキを信じることにした。
「うわぁ……」
「綺麗……」
色取り取り、様々な形のアクセサリーが置かれた、小洒落た雰囲気の店。
王族として身に着けるものとしては、比べ物にならないほど安いものばかりだったが、キラキラと光るアクセサリーは、2人の興味を引くのに十分な煌めきを放っていた。
2人は一緒に店内を回ると、とある髪留めに眼が止まった。
セラフィナがそれに手を伸ばすと、ソフィアも同時に、セラフィナが選んだものと色違いの髪留めを手に取る。
「それがいいの?」
「あ、ううん。ボクじゃなくて、セラフィナに似合うかも、って……」
「え? 私もよ」
セラフィナが選んだものも、ソフィアに似合うと思ったものであった。
思わぬ偶然に、2人は喜び合う。
そしてセラフィナは金色の、ソフィアは赤色の髪飾りを購入し、お互いに交換した。
2人は店を出ると、さっそく髪飾りを付けて、お互いの守護騎士に見せる。
「似合ってるですよ、お姫様」
「白の姫が選んだのか? 中々いいセンスじゃじゃないか」
好評なようで、2人は大満足でアステロの観光を終えた。
そしてセラフィナが乗る船の時間が迫ってきたのだ。
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セラフィナ達の乗る船の前。
別れの挨拶をすると、ソフィアは泣き出してしまった。
「ぐすっ……もうお別れなんだね……」
「ほら、泣かないの。来年の魔術コンテストでまた会えるわ。私達は友達だけど好敵手でもあるのだから。そんなことじゃ、来年も張り合ってもらえるか心配だわ」
ソフィアは目を擦り、セラフィナに真っ直ぐ向き合う。
「魔術じゃ負けない……。次もボクが勝つよ!」
「いいえ、次こそは私が勝つわ」
2人は闘志を滾らせながら、強く握手をした。
セラフィナは船に乗り込むと、甲板からソフィアに手を振る。
「手紙書くからー!」
「ええ、お返事出すわー!」
船が出向し、2人はお互いが見えなくなるまで手を振り続けていた。




