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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第四章 魔術の祭典
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45 控室

 魔術コンテストとは、魔術研究者のオリジナル魔術を披露し、その出来を競う場である。

 1人10分の持ち時間の内に、魔術と術式、その他アピールポイントを説明し、審査員の評価で順位付けがされる。

 コンテストと銘打っているが、やることは学会にも近い。


 参加する魔術研究者は50名ほどで、休憩時間を含めると10時間近い長丁場だ。

 その為参加者には控室が用意されており、1つの部屋に10人ほどが割り振られる。

 ただし前年度のベスト10位以内の参加者は、特別に個室が与えられるのだ。


 セラフィナ達は前年度6位だった、オルキスの控室に集まっている。

 しかし薄紫の女性は、いつの間にか姿を消していた。


「俺はちょっと知り合いに挨拶してくる。姫さん達は休むなり発表内容を確認するなり、自由にしててくれ」

「分かったわ」


 セラフィナは、他の参加者や観客に迷惑をかけてしまったので、出場を控えようと考えていた。

 考えはしたが、参加したいという気持ちが圧倒的に強かった為、結局は参加することにしたのだ。


『けど大丈夫か? 俺はあんまり感じなかったけど、セラフィナは結構痛むんじゃないか?』

「我慢するわ」


 痛みに鈍感なモトキには殆ど感じないが、セラフィナは呼吸をするだけで、脇腹がずきずきと痛んだ。

 他の怪我はともかく、肋骨にひびが入っていると知られたら、流石にキテラに出場を止められる可能性がある。

 その為セラフィナは、肋骨の事は秘密にしているのだ。


『ならせめて、セラフィナの出番までは俺が表に出てるよ』

「それは悪いと思うけど……少し疲れたし、お願いするわ」


 ソフィアの誘拐と、ハゲとの激闘で、気を張り続けていた為、セラフィナの精神は疲弊していたのだ。

 その為セラフィナは、心の中の世界に引っ込むと、眠りこそしていないが、ベッドの上でグッタリしている。


 モトキはその間に、セラフィナの髪を結い直す。

 ハゲとの闘いで額に傷を負ってしまい、それを隠すために髪型を変える必要があるのだ。

 ただ隠すだけならそれほど難しくないのだが、セラフィナの可愛さを存分に引き出すことと両立する為に、一切の妥協は許されなかった。


「……よし、これでいこう」

「うん、可愛いと思うよ」


 ソフィアからお墨付きを貰った。

 ソフィアはモトキが髪を結っているのを興味深げに見ていたのだ。


「そうだろう、そうだとも。ソフィアにもやってあげようか? せっかくの晴れ舞台なんだから精一杯お洒落しないとな」

「え? じゃ、じゃあお願い」

「任せとけ」


 ソフィアもセラフィナ同様、お洒落に疎いようで、最初は少々戸惑っていた。

 しかし興味自体はあったようで、すぐに乗り気になっていった。


『私に先駆けて、モトキがソフィアと友達っぽいイベントを起こしている……』

(恨むなら女子力の低い自分を恨むんだな)


 ちなみにモトキのも、女子力ではなく母親力である。

 モトキは、イサオキとエアの兄であると同時に、父親代わりであり、母親代わりでもあるのだ。


「金色の瞳を見せるんだよね? だったら前髪を上げた方がいいかな?」

「うん、お願い」

「その件に関してなのですが……」


 キテラが割り込んできた。

 何やら真剣な表情をしている。


「赤の国の姫。先日身分を明かして参加すると言っていましたが、控えて頂きたいのです」

「え……」

「どうして?」

「私は2人の護衛騎士に代わり、姫様とあなたを守らねばなりません。ですのでトラブルの要因は減らしておきたいのです」


 顔を隠していたとはいえ、会場前で大暴れしたカリンとカリストは、バレればそれだけでトラブルの元になると判断して、外で待機中だ。

 もちろん何か異常があれば、すぐに駆け付けるつもりである。

 それでも普段と比べれば、格段に安全性が低い状況であった。


 ソフィアが魔術コンテストに参加する目的は、赤の国の姫としてコンテストに参加し、結果を残すことで、自国への魔術への関心を高めることである。

 身分を隠したまま参加するのでは意味がない。


「……うん、仕方がないよね。これ以上ボクのせいで皆さんに迷惑を掛ける訳にはいかないし――」

「ソフィア。助手はどうするの?」


 セラフィナは、表に出ると急に話を変えた。

 魔術発表の際には、研究者の他に助手が1名だけ付き添うことが出来る。

 魔力を持たない研究者もいるので、その為の処置だ。


「え? カリストもいないしボクだけで――」

「それは危ないわ。よし、カリストに代わって、私がソフィアの助手をやるわ。その代わりソフィアにも、私の助手をしてほしいのだけど。常に2人一緒の方が、キテラも守りやすいしね」


 セラフィナは脇腹が痛い為、1人で発表をするのは辛い。

 しかしキテラを助手に付ければ、その間ソフィアに付いていられるのはオルキスだけになってしまう。

 それはあまりにも心もとなかった。

 キテラが2人を同時に見守り、いざとなればモトキが守ることの出来る、この方法が1番安全のだ。


「ボクは構わないよ。それどころか凄く有難いし」

「よし。キテラ、私は身分と金色の瞳を公開するつもりだから、そのつもりでよろしく」

「なっ! それはあまりにも危険です!」

「危険ね。だから助手も王族で金色の瞳でも、大して変わらないと思うのよ」

「セラフィナ!?」


 金色の瞳という理由で狙う者がいるとしたら、その対象が1人でも2人でも襲ってくるだろう。

 セラフィナを狙って来たとしても、ソフィアを放置していい訳でもないので、結局2人とも守る必要がある。

 ならばソフィアだけ金色の瞳を隠す必要は、殆どなくなるのだ。


「だ、駄目だよ! ボクの為にセラフィナがそんな――」

「実は私の目的もソフィアとあまり変わらないの。白の国の姫として、魔術研究者の実績が欲しい。だからこれは自分の為。でしょ、キテラ」

「確かにそうですが……それは来年以降に――」

「守護騎士が傍に居ないのは不安である。けど警戒すべきは衝動的犯行より計画的犯行よ。今襲われるより、1年間準備して襲われた方が対処は難しいわ。けれど事前に私達が金色の瞳だと知っていれば、大半の人は私達が狙われることを心配してくれるはずよ」


 当然のことながら誘拐は犯罪であり、大半の人は犯罪を嫌っている。

 鴨が葱を背負って歩いていれば、普通は誰かに食べられないかと心配するものだ。

 そして心配してくれる人の数は、そのまま犯罪の抑止になる。


「今年公開しなければ、来年狙われる心配はないのでは?」

「それは……私って可愛いし? 可愛いわよね? だから今回目立ったら、来年狙われるはずよ」

『可愛いよ。けど今まで可愛いことを理由に事件に巻き込まれたことがないのがネックだな』

「うぐっ……」


 勢いでそれっぽいことを並べたが、やはりボロが出た。


「……確かに姫様の容姿なら、それだけで狙われる可能性がありますね」

((通ったー!))

「あくまで可能性ですがね。ほぼ金色の瞳は確実に狙われるので話が全く違います」

((そんなことなかった……))


 ぬか喜びであった。

 キテラは、セラフィナの安全を最優先したいのだ。

 ただでさえ危険な目に遭ったばかりで、キテラに余裕はなかった。


「セラフィナ。ボクの事なら本当にいいの。今年は参加出来ただけでも十分嬉しいし、公表はまた来年改めてすればいいから」

「けど……」

「あー、ちょっといいか?」


 オルキスが挨拶回りから帰ってきた。

 その手には新聞が握られている。


「ちょっとこの記事呼んでくれ」

「えーと、「魔術コンテストに赤の国の姫が参加か!?」……え?」

「ボクのことバレてる!?」

「そりゃ昨日バラしてたからな」


 昨日、コンテストの情報登録に行った際に、カリストが全てをバラしていた。

 それを見ていたのはハゲ達を含めて少数だったが、その中には新聞記者もおり、こうして記事となり、ソフィアの事は周知の事実となってしまったのだ。


「あと姫さんもカラコン使いながら他の魔術は使えないよな?」

「あっ」


 セラフィナの魔力は、回復力は神の加護のおかげで凄いことになっているが、その量は常に極小だ。

 その為、複数の魔術を併用することは出来ない。

 カラコンを使用しながら、魔術を披露することは出来ないのである。


「そう言えばそうだった……」

『セラフィナ……』

「つまり……」

「元から隠すことなんて出来ないってこった。諦めなキテラ」

「はぁ……」


 キテラは大きく溜め息を付く。

 セラフィナも、よく考えれば拙い屁理屈を捏ねる必要がなかったことに気付くと、自分の視野の狭さに呆れかえる。

 ソフィアの事を考えるだけで一杯一杯だったのだ。


「キテラ。まさか出場を取りやめようなんて言わないわよね?」

「ここまで周りに迷惑を掛けて、そのまま帰る訳にはいきません。せめてその知識で魔術業界に貢献してください。私の命に代えてもお守りしますから」

「命に変えられたら困るけど、頑張るわ。ね、ソフィア」

「う、うん! 皆の頑張りを無駄にしないように、ボクも頑張る!」


 2人は決意を新たにする。

 そしてついに魔術コンテストが始まった。


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