表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第四章 魔術の祭典
41/662

40 お国柄

 セラフィナ達は、追いかけてきたキテラ達と合流し、オルキスお勧めのカフェにやって来ていた。

 そこの角の席は、周りから死角になり、秘密の話をするのに適しているとのことだ。

 しかし飲食は並なので、お勧めはしないらしい。


「眼に魔術を使うなんて……危険じゃないの?」

「私は1年近く使っているけど、今のところ問題はないわ。術式はこれね」


 セラフィナは、ソフィアにカラコンの魔術を説明し、その術式を記した資料を取り出した。

 セラフィナの改良が加えられ、以前はシグネと同じ青色にしか変えられなかったが、今では自由に変えられるようになっていた。


「単純だけど丁寧な術式……。魔力効率に無駄が一切ない……。なんて機能美……」


 ソフィアは、目をキラキラ輝かせながら術式を読んでいる。

 セラフィナの思った通り、彼女も同類なのだ。


「これ……まだどこにも公表してない術式だよね? 見せてよかったの?」

「ええ。実際に組んだのは私だけど、アイディアは人から貰ったものだから私の術式じゃないの。その人も私達みたいに瞳の色で苦労している人に使ってほしいって言っていたわ」


 モトキからは既に了承を得ていた。

 そもそも断る理由がないのだ。


「でも無暗に人には教えないでね。逆に眼の色を金色に変えて、悪用されると困るから」

「うん、さっそく刻んでもいい?」

「ええ、術式を刻む道具は持っている?」

「大丈夫。カリスト、ボクの鞄を――」


 ソフィアがカリストの方を振り返ると、もの凄く渋い顔をしていた。


「なんなの……その顔?」

「眼の色を変えるなんて、俺は反対だ!」


 そう言うとカリストは、両手で机をバンバンと叩いた。


「何故ですか? 金色の瞳は、宝石よりも価値があるもの。それを人前にさらすことの危険性を、あなたはご存じではないのですか?」

「危険から主を守るのが守護騎士の務めだ! だが危険から遠ざける為に不自由な思いなんてさせん!」


 確かにカラコンの魔術は、微量だが常に魔力を消費し続ける為、使い続けるとすぐに腹が減る。

 セラフィナは、このカフェに来てから、既にケーキを1切れ完食し、2切れ目に手を付けていた。


「それに見ろ! 姫のこの美しい瞳を! これを隠すなんて世界的損失だとは思わないか!? 隠す必要なんてない! 誇り、見せ付ければいい!」


 カリストは再びソフィアの髪を掻き分けて、金色の瞳を見せつけた。

 先ほどのように悲鳴を上げたりはしないが、ソフィアは恥ずかしそうにしている。

 普段からあまり人に顔を見せていない為、まじまじと見られるのが照れくさいのだ。


 セラフィナと同じ金色に煌めく虹彩。

 ただ希少なだけでなく、宝石のように美しいその瞳は、見る人を魅了する。

 モトキもそれを隠すのは、いささか勿体ないとは思っていた。


「……赤の国って、そういうスタンスなの?」

「多少は……。赤の国は武の国って言われるくらい、荒々しい国だから。ボクは……そう言うのは苦手……」


 四色王国はそれぞれ気候が異なる為、それに合わせて国の特色も異なる。

 気候が安定して資源が豊かな為、全体的に緩めで保守的な白の国。

 山が多く地域分けがはっきりしており、他の領土とのいざこざが絶えない、力こそ正義な赤の国。

 300年前の魔人との闘いで1度崩壊しており、早急に国力を上げる為に、魔術研究に力を入れて、今や最大の先進国である青の国。

 劣悪な環境の為、国内の結束は強いが、他国への当たりも強い黒の国。


 四色王国の王族は、その国で定められた武術を習得する義務がある。

 力こそ正義な赤の国では、それを特に重んじられていた。


 しかしソフィアは、運動音痴で、性格的にも武術に向いていなかった。

それを良く思わない赤の国の女王が、性格矯正の意味も含めて、押しの強いカリストを護衛騎士に宛がえたのだ。


(バンさん、本当に良い場所に送ってくれたんだなぁ)


 魂の管理所で、モトキの転生のサポートをしてくれたバン。

 モトキに早死にされたら困るので、とびきり平和で豊かな地域に送ると言っていた。

 そんな白の国の中でも、城下の街を選んだ辺り、相当気を使っていたことが伺える。


 結果的に助かったとはいえ、早々に転生することを放棄したモトキは、今更ながら申し訳なく思った。


「それに姫はここに何をしに来たんだ?」

「それは……」

「ソフィア?」


 ソフィアは何かを思い悩むように俯いた。

 ソフィアが無色の大陸に来たのは、勿論魔術コンテストに参加する為である。

 しかしそれはあくまで過程であったのだ。


「これからの時代――ううん、今は魔術を制した国が世界に先んじれると思う。現に魔術に力を入れている青の国はどんどん発展してる……」

「確かに最近の青の国は凄いわね。空飛ぶ船の実験も成功したらしいし」


 セラフィナはモトキから空飛ぶ船、つまり飛行機に付いて聞いたことがあった。

 当時は巨大な鉄の塊が、大勢の人を乗せて、大陸間を横断するなどとても信じられなかったが、その数ヶ月後に青の国で空飛ぶ船の試作機が発表されたのだ。

 研究者にとって柔軟な思考は必須である為、セラフィナは自分の頭の固さを恥じたりもしていた。


「武術ばっかり重視して、魔術を軽視している赤の国は、いつか他の国から取り残されると思うの。だから王族であるボクがコンテストで結果を残して、赤の国の魔術への関心を高めたい」


 先ほどまでの自信のなさげな眼と違って、今のソフィアの目からは強い決意が感じられた。


「ああ、姫はいずれ他の王族達をぶちのめして、赤の国の王になるお方だ! 魔術の力を持ってな!」

「別に王様にはならなくていい……」

「だから王の証である金色の瞳は積極的に見せていくべきなんだ!」

「コンテストでは公表する気だけど、それ以外では……」


 ソフィアの決意、それはセラフィナにとっても悩みの種だった。

 それはコンテストの際に、金色の瞳を公表するか隠すかである。


 白の国の魔術研究者として、そして白の国の姫として歴史に名を残すことが目的なら、当然公表するべきである。

 しかし公表して知名度が増せば、それだけ外出時の危険も増すのだ。


 セラフィナが悩んでいるとソフィアが立ち上がる。


「カラコンの魔術、ありがとう。でも……ごめん、ボクはあなたの友達にはなれない……」

「えっ……」

「ボクはコンテストで結果を出さないといけないの。だから……あなたとは敵になっちゃう……。本当にごめんなさい……。それじゃあ……」

「待っ――」


 セラフィナは呼び止めようとしたが、それ以上声が出なかった。

 少なからず意気投合し始めていたので、セラフィナはこのまま友達になれると思い込んでいた。

 その為、断られた際のショックが思いのほか大きく、何と声を掛ければいいか分からなかったのだ。


「待ってくれ!」

『モトキ!?』


 たまらずモトキが飛び出し、ソフィアを呼び止めた。

 ソフィアは足を止めて、セラフィナの方を振り返る。

 しかし、このままではまずいと思って引き止めただけなので、モトキもここから先の事は考えてなかった。


『ありがとうモトキ、もう大丈夫よ』


 まさにファインプレイだった。

 僅かな時間だったが、それでもセラフィナを正気に戻すには十分な時間だったのだ。


「魔術コンテストに参加するなら、確かに私達は敵かもしれない! でもただの敵で終わる気はないわ! 私はあなたの強敵になる! 強敵と書いて友と読む関係になるわ!」

「……読めないけど」

「私には読めるわ!」


 モトキから教わった日本の文字の読み方である。


「たぶん魔術コンテスでぶつかり合った先に、私達の友情が芽生えるわ! たぶん!」

「そこを2回言っちゃうですか!?」

「だって実際には経験がないもの」


 自信満々に宣言しているが、実際には不安でいっぱいだ。

 それでもソフィアと友達になれる可能性を、僅かでも残したかかった。


「なんでそこまで……」

「え? えーと……明日教えてあげるわ!」


 現状、何も思い付いていないのだ。

 それでも良い笑顔と勢いで何とか誤魔化した。


「お互い、今は目先の魔術コンテストだけを見据えましょう。それからのことは、終わってから考えればいいわ」

「……うん、ありがとう」


 そう言ってソフィアは手を振り、カフェを後にした。


「……慣れないことしたわね」

「魔術に没頭しているときの姫様は、大体あんな感じですよ?」

「そうですね」

「そうだな」

『そうだね』

「そうなんだ……。何にしても希望は繋がったわ。明日頑張る理由が1つ増えたわ」


 セラフィナは決意を新たにして、明日に備えることにした。

 しかし翌日、ソフィアは姿を消してしまったのだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ