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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第三章 強い剣を目指して
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35 当たり前の願い

 夢の中の世界。

 セラフィナが来るなりモトキが抱き着いてきた。

 そして間髪入れず頭をわしゃわしゃと撫でまくる。


「なに!? なんなの!?」

「んー? 愛情表現?」

「はぁ!?」


 セラフィナはモトキを突き飛ばす。

 突き飛ばされたモトキは、今まで見せたことのないほど良い笑顔だ。

 セラフィナは突然の事態に慌てふためいている。


「分かったわ。まずは冷静になりましょう。モトキの中で私に対して何があったの?」

「惚れた? たぶん」

「……モトキってロリコン?」

「俺はブラコンでシスコン、ついでにファミコンだ」

「うん、順番に分かるように説明して……」


 セラフィナは机と椅子、そしてお茶を出し、落ち着いて話せる場を用意した。

 もっともそれでセラフィナが落ち着けるかは別の話である。


「まず俺が好きなものは分かるか?」

「イサオキとエア」

「その通り。俺は2人のことを愛していて、2人の為なら命すら惜しくはない」

「うん、知っているわ」


 散々聞いてきたことであり、今更疑う余地はない。

 モトキの大半を構成している要素と言っても過言ではないだろう。


「けど口では何とでも言える。俺は2人の為に頑張って来たけど、実際に命を張ったことはないんだ」

「魔王とかヒグマは?」

「魔王からは守れてないし、ヒグマ程度に命の危険はないよ」


 セラフィナの認識でも、ヒグマは人間より強い危険な生き物である。

 少なくともセラフィナは、ヒグマと対峙すれば命の危険を感じるだろう。


「地竜……あれは恐ろしい相手だった。なのにセラフィナは自分の命を張ってエドブルガを守り切った。俺には出来なかったことだ。だから俺はそんなセラフィナを凄く尊敬してる」

「だから惚れたって?」

「たぶんね。正直な話、愛は分かるけど恋はいまいち理解出来てないんだ。だからひょっとしたら別の感情かもしれない。どう思う?」

「そんなことを言われても……」


 城から殆ど出たことのないセラフィナに、他人との交友経験など皆無だ。

 そんな彼女に惚れた腫れたの話をされても、理解できるわけがなかった。

 そもそもまだ8歳だ。


「えーと……つまりモトキはどうしたいの?」

「んー、守りたい、甘やかしたい、一緒に居たい」

「うん、今と変わらないわね」

「そうだね」


 偏った人生経験を送って来た者しかいないこの場所で、まともな恋の話が成り立つはずがなかった。


「まあ……モトキが私のことを好きでいてくれるのは嬉しいわ。ありがとう」

「うん。俺もこれまでとあんまり変わらないと思うから、これからもよろしく」


 結局、今までと特に変わらないという結果で話は落ち着いく。

 しかし本当に変わらなそうにしているモトキに対して、セラフィナの方は若干ソワソワしていた。


「それで……セラフィナの願いって言うのはあれで達成されたのか?」

「ええ、代償はあったけど、私は満足しているわ。モトキにも苦労を掛けたわね、ありがとう」


 セラフィナの願いは既に叶えられていた。

 今後セラフィナが例の人物から命を狙われることは無いそうだ。


「予想は付いてたけど、正直信じられなかった」

「流石に気が付いた?」

「流石にね。振り返ってみれば、最初からほぼ答えは言ってたんだよな」


 セラフィナの命を狙う人物。

 それはセラフィナが罪に問いたくない親しい人物である。

 セラフィナが王位を継ぐことで不利益を被る立場にある。

 セラフィナは、エドブルガとは異母姉弟である。

 リスクを冒してまでセラフィナを殺す理由がある人物は、世界に1人しかいない。


「考えられる対象はシグネ君とエド君の母親。リツィアさんがどっちの実母かは分からないけど、王族全員参加のパレードで話題にすらならない、もう1人の母親は恐らく故人。……犯人はリツィアさんだ」

「正解よ」

「けどリツィアさんは、セラフィナが危険なことをすれば、心配をするし説教もする。俺はそこに確かな愛を感じた。だからセラフィナを殺そうとしてるなんて最後まで信じられなかった」

「そうね……少し昔話をしましょうか」


 セラフィナの実母、名はナノン。

 白の国の王イオランダの2人目の妻、側妻である。


 本妻であるリツィアは、王の妻となるべく、幼い頃から両親より英才教育を受けていた。

 そして両親の目論見通り、リツィアはイオランダに嫁ぐことが出来た。

 しかしリツィアの第一子であるシグネは、金の瞳を持たない為、王位継承権を得られなかった。

 リツィアはそれでもシグネを愛していたが、彼女の両親は跡継ぎを産めなかった事を酷く非難したそうだ。


 そしてリツィアにとって本当の不幸は、側妻であるナノンが産んだ子供が、金の瞳を持つセラフィナであったことである。

 その2ヶ月後に産んだリツィアの第二子であるエドブルガも金の瞳を持っていたが、先に産まれたセラフィナの方が王位継承権は高い。

 それに対してリツィアへの両親の対応は想像に難くない。

 リツィアはストレスで病んでいった。


 そんな最中、エドブルガが産まれて数日も経たない頃、ナノンは病気で命を落とした。

 セラフィナと同様、ナノンも産まれ付き体が丈夫な方ではなかった。

 出産で体力を大きく消耗した彼女の命は風前の灯だったのだ。


 リツィアとナノンは幼い頃からの友人で、親友と呼び合える間柄だった。

 共に王の妻となり、思うところがあっただろうが、それでも2人は親友であり続けた。

 だからナノンは、自分が死ぬ直前に、セラフィナをリツィアに託したのだ。

 自分の代わりにセラフィナの母親になって欲しいと。

 愛してあげてほしいと。

 リツィアはそんなナノンの願いを聞き入れた。


 それからリツィアは、セラフィナに自分の子供達と同等の愛情を注いできた。

 決して嘘偽りのない本当の愛情を。


 しかし実子が王位継承権第2位という事実は変わらず、それに対する両親の対応は変わらず厳しく、ついにはリツィアの心を壊してしまった。

 それからリツィアは、セラフィナを愛しながら、セラフィナを殺そうとする、矛盾を孕んでしまったのだ。


 それがセラフィナにとっての真実である。

 実際に本人に確認したわけではなく、調べた情報から予測したものも含まれていた。

 しかしそれは事実とほぼ一致していたのだ。


「なるほどね。だからセラフィナを殺そうとしたのに、右腕を失ったことにあそこまで動揺してたのか」

「申し訳ないことだけど、私はナノンお母様の事は全く覚えてないし、リツィアお母様の愛情は本物だったから、私にとっての母親はリツィアお母様なのよ。だから私はお母様からの愛情を失いたくなかったの」

「リツィアさんに嫌われることなく、リツィアさんの狂気を止める方法……。セラフィナが王位を絶対に継がないと証明することか?」

「右腕を失って物理的に継げなくなるとは思わなかったけどね」


 白の国の王位継承の条件に、剣技の習得がある。

 ただでさえ腕力が弱い上に片腕では、もうその条件を満たすことは出来ない。

 セラフィナは右腕を掲げると、失った箇所の色が薄くなり、ポロポロと崩れ始めていた。

 恐らく肉体と同様に、近いうちに無くなってしまうのだろう。


「私の目論見では、魔術研究者として実績を積み続けるとか、エドブルガを支え続けるとかで、私に王位を継ぐ意思はないって、誰の目から見ても明らかになること。または私が危険な目に遭ったら、お母様の愛が狂気を打ち破ってくれないかって期待していたわ。今回の誘拐事件もそれが狙い」

「前者はともかく、後者は危険すぎるだろ」

「そうね。モトキがいなかったら考えもしなかった方法よ」

「だからこそセラフィナの剣になったんだからな」


 今更モトキに後悔などなかった。

 その結果がセラフィナの右腕を失ったことであっても、1番の願いを叶えることが出来たのだ。

 ならばそれを後悔することも、悲しむことも、哀れむことも、全てセラフィナに対する侮辱となってしまう。


「けれどこれでセラフィナの剣は引退だな。これからはどうしようか」

「第2の生を楽しめばいいじゃない。私の人生もここから再スタートよ。これからも一緒に行きましょう。あなたの愛しいセラフィナが付き合うわよ」

「そうだな。セラフィナと一緒なら、きっとこれからも楽しい」


 2人は笑顔だった。

 きっと輝いている未来を夢見ながら。


                    ・

                    ・

                    ・


 翌朝。

 セラフィナが目覚めると、枕元に綺麗に梱包された細長い箱が置いてあった。


『プレゼント? 誰からだ?』

「……お母様の香水の匂いがするわ」


 それがリツィアからのプレゼントだと確信すると、セラフィナは丁寧に包装を剥がし、箱を開ける。

 中に入っていたのは、立派な鞘に収まった一振りの剣だった。


『今の俺には――いや、両手が揃ってたとしても、こんな立派な剣は振れないな』

「モトキ、抜いてみて」

『抜くことが出来るだろうか……』


 セラフィナに言われ、モトキが鞘を掴むと想像以上に軽かった。

 鞘に収まった状態でも木剣よりやや重い程度で、鞘から抜いた剣は木剣よりも遥かに軽い。


「何だこの剣! 金属の剣なのに異常に軽いぞ!?」

「金属じゃないわ。恐らく何らかの魔獣の骨や牙を削ったものよ。魔獣から採れた素材は軽かったり丈夫だったり、優れた武具の材料になるらしいわ」


 その刀身は雪のように白く美しく、朝日に照らされてキラキラと輝いていた。

普通の剣より細いが十分に強度のありそうな作りをしている。

 モトキはその場で少し振ってみると、抵抗が少なく振れ、空気を切る音が心地よかった。


「どう、使えそう?」

「ああ、左手だから振り辛いだけで、問題なく持てる。けど剣は王位継承に必要な条件の1つだろ? どうして態々こんなものを……」

「もう気にする必要はないってことじゃないかしら。まったく、ようやく剣から解放されたと思ったのに、お母様ったら余計な気を使って」


 口では嫌そうに言っているが、セラフィナはとても嬉しそうだった。


「セラフィナの剣は続行か。もっとも剣を振るう機会が今後あるかは分からないけどな」

「剣を振るうの好きでしょ? だったら楽しめばいいじゃない」


 1つの終わりは新たな始まり。

 未来への憂いをなくし、2人の新たなる人生が始まるのだった。


第三章はこれで終わりとなります

モトキはロリコンではありません

好きになったセラフィナがまだロリだっただけで

いずれ成長します

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