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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第三章 強い剣を目指して
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34 失ったものと手に入れたもの

 セラフィナとモトキ。

 2人の渾身の一撃により、地竜の首は切断され、地に落ちる。

 そしてセラフィナも落下していく。


『どうしよう…‥。この状況からイサオキとエアを助ける方法はあるけど、自分が助かる方法は習得してないなぁ……』

「少しは自分のことも考えてよ!」

「「うわー!」」


 セラフィナが為す術なく落下していると、シグネとエドブルガが駆け付け、空中で受け止める。

 そのまま地竜の体の上に落ちると、3人とも無事に降りることができた。


「姉さん、大丈夫!?」

「無茶しすぎだぞ、馬鹿!」

「ははっ……大丈夫、ごめん、ね……」


 そう言うとセラフィナは気を失った。

 出血多量により失神してしまったのだ。


「姉さ――うぅ……」

「セラフィナのことは俺に任せて、お前も少し休んでろ」


 エドブルガは既に余剰魔力を使い果たしており、その上でセラフィナを助ける為に、生命維持に必要な分の魔力まで使ってしまい、体に力が入らない状態だ。

 セラフィナの右腕は、二の腕の中ほどから千切れており、傷口はズタズタで痛ましい。

 シグネは自分の服を切り、セラフィナの傷を覆い縛る。


「そんな馬鹿な……。ベストラがこんなガキどもに……」


 誘拐犯のリーダーは信じられない事態に唖然としている。

 しかし何かに気付くと途端に頭を抱えて笑い出した。


「くくくっ、あーはははははっ! とんでもねぇガキどもだ! おれのベストラまだ殺しちまうなんてな! だが不幸中の幸いは金眼は全部無事で、お前らは満身創痍ってことだ!」

「くそっ!」


 リーダーは剣を拾い、セラフィナ達ににじり寄る。

 リーダーは右腕こそ骨折しているが、まだ余力を残している。

 対して3人の中で動けるのはシグネのみ。

 しかもかなり無茶な動きをした為、体力は限界に達していた。

 しかしそれでも諦める訳にはいかず、剣を取り立ち上がる。


「来るなら来やがれ! 2人には指一本触れさせねぇぞ!」

「テメェには用はないんだよ! 死ねー!」


 リーダーがシグネに襲い掛かろうとする。

 するとリーダーに向かって一陣の風が吹いた。

 風はリーダーの左腕を切り裂き、吹き飛ばす。


「……は?」

「貴様ー!」


 現れたのはリシストラタだった。

 彼女が振るった剣から発せられた真空波は、距離の離れた対象を切断することが出来るのだ。

 リーダーは突然の事態に理解が追い付かず硬直していると、接近してきたリシストラタの拳を顔面に受け、空中で回転しながら岩肌に叩きつけられ気絶した。


「シグネー!」

「カリン! 連れてきてくれたのか!」


 リシストラタに続き、洞窟の出入り口からカリンや王国の騎士達が続々と入ってきた。

 シグネとモトキが気絶させた誘拐犯達は、次々に捕縛されていく。

 しかし圧倒的な存在感を放つ、シグネが踏み台にしている地竜の死体に、否応にも意識を引っ張られてしまう。


「なんですかこのデカいのは!? もしかしてシグネが倒したのですか?」

「シグネ! セラフィナとエドブルガはどこです!」

「ここにいる! 医療班を連れてきてくれ! セラフィナが酷い怪我なんだ!」


 セラフィナは応急処置を施されると、大急ぎで城へ連れて行かれた。


                    ・

                    ・

                    ・


「……ここ、私の部屋?」

「気が付いたか!」

「姉さん!」

「気が付いてよかったです」

「姫様! 今、王や他の皆を連れてきます!」


 セラフィナが目覚めると、そこは見慣れた自室だった。

 シグネ、エドブルガ、カリンが目を覚ましたセラフィナを見ると嬉しそうに駆け寄ってきた。

 キテラはセラフィナが目覚めたこと知らせるために、急いで部屋から走り去っていった。

 目覚めたばかりのセラフィナには状況が理解できず、起き上がろうとベッドに手を付くと激痛が走った。

 痛みの原因に目をやると、右腕が二の腕の中ほどから無くなっており、これまでの事を思い出した。


「ああ……地竜にくれてやったのだったわね」

「ごめん……僕のせいで」

「ありがとう、私のおかげで。でしょ?」

「うん……ありがとう。姉さんのおかげで僕は助かったんだ」


 セラフィナは笑いながらエドブルガの頭を撫でた。

 いつかのモトキのように優しく。


 喪失感はあった。

 しかし不思議なほどに悲しみは感じなかったのだ。

 もちろんエドブルガに対して恨みなど微塵もない。

 エドブルガが魔術の準備で動けなかったのも、そもそも誘拐されたことも、元々セラフィナに原因があるのだから。


「右腕……残念でしたね」

「ああ、あれから地竜の腹を捌いてセラフィナの腕を探したんだが、焦げた骨しか見つからなかったらしいんだ」

「私が燃やしたからね。そもそも無事だったとしても、あんなグチャグチャじゃくっ付かないわよ」


 切断された体は、よほど切断面が綺麗で、早期の内に処置をすれば繋がる場合もある。

 地球より医療技術が進歩してないので、その条件はかなりシビアでまず成功しない。

 そしてこの世界独自の技術である魔術も、医療面では役立つものは開発されていなかった。


(だけど剣はもう振れないかな……)


 一応片手でも剣を振ることは出来るが、保持し続けるには両手が必須だ。

 しかもモトキの利き腕である右腕がなくては、もはやどうしようもない。


(せっかくモトキが楽しめる数少ないものだったのに……。モトキだったらそれより、私が大怪我したことの方を気にしそうだけど)


 それからセラフィナが気を失ってからのことを説明された。

 セラフィナは丸1日眠り続けていたこと、誘拐犯の今後の処分について、地竜を討ち取った3人に竜殺しの称号が与えられると言う噂が流れていること。


「竜殺しとか……そんな物騒で厳つい体育会系の称号欲しくない。それより地竜を殺すことに貢献した私の魔術に称号が欲しいわ」

「言うと思った」

「セラフィナー!」


 キテラの知らせを受けてイオランダが部屋に飛び込み、続いてリツィアが入ってきた。

 部屋の外からはリシストラタやフラマリオ他数人が覗き込んでいるが、流石に部屋が狭くなってしまうと、入るのは控えている。


「良かった! 本当に良かった!」

「お父様……苦しいです……」


 セラフィナが目を覚ましたと知らせを聞き、イオランダは全ての職務をほっぽり出して全速力でセラフィナの部屋に駆けつけ、力いっぱい抱きしめた。

 前に毒で2ヶ月間眠り続けた時のことが思い出される。

 あの時と比べてセラフィナの体も丈夫になった為、言うほど苦しくもない。

 それより右腕の傷の方がよっぽど痛くて苦しかった。


「セラ、フィナ……」

「はい、お母様」


 リツィアがよろよろと頼りない足取りでセラフィナに近付いてくる。

 たった1日ぶりだというのに随分と窶れて見える。

 リツィアは本来セラフィナの右腕があるはずの場所に手を伸ばし虚空を掴む。


「あぁ……あぁああああ……」


 リツィアは改めて実感したセラフィナの腕がないという事実に、顔を絶望色に染め、その場に泣き崩れた。


「リツィア、大丈夫か?」

「セラフィナ……私は……私は……」

「お母様……」


 セラフィナはリツィアに身を寄せて抱き着く。

 そのままセラフィナはエドブルガの方を向いた。


「ごめんね、エドブルガ。私はあなたを王にしたい。だからその為なら割と危険なことでも出来ちゃうのよ」

「そんな……僕は姉さんにこんな目にあって欲しくない。それも僕の為になんて……」

「うん、だからごめん。でもずっと前からそう決めているの」


 その言葉はエドブルガに向けての言葉だが、それだけではなかった。

 それはずっといいたかった言葉。

 それはずっと認めてほしかった想い。


「お母様、これが私の想いです。これまでも、そしてこれからも変わらない。だから安心してください。安心して……私を愛してください」

「セラフィナ……」


 リツィアはセラフィナを抱きしめると、再び涙を流した。

 セラフィナは満足そうに微笑むと、愛する母の腕の中で眠りについた。


 それはとてもささやかで、当たり前で、とても困難な道の先にある、少女の願いだった。


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