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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第三章 強い剣を目指して
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30 パレード

 王族誕生を祝うパレード。

 それは新たに生まれた王族の子を、専用に装飾された馬車で城下の街を一周し、お披露目をする行事である。

 この行事には他の王族も全員参加し、何台もの馬車が列を作るのだ。


 なお、神の加護で馬車と翻訳されているが、実際に引いているのは羊である。


「先頭の馬車には、ララージュを中心に、右隣にイオランダ、左隣にリツィアが座り、その後ろには護衛の騎士が同乗します。私も騎士の1人として同乗します。あなた達が乗るのは――」

「2台目の馬車だろ? もう散々聞いたって」


 シグネ、セラフィナ、エドブルガの3人は、リシストラタによってパレードの説明を受けていた。

 もっとも事前に何度も説明されたことなので3人とも、段取りを完璧に覚えている。


 全員、普段より数段豪華な装飾を施した正装に身を包んでおり、子供達も少し大人らしく見える。

 セラフィナは、普段はやらない髪の編み込みをするほどの気合の入れようだ。


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                    ・

                    ・


 1時間ほど前、セラフィナの自室。


『セラフィナ、髪型弄らせて』

「ヘアセットならキテラがやってくれるわよ」

『俺が弄った後でどうするかはキテラが決めればいい。ただエアの髪は毎日俺がセットしていたと聞けば、俺の実力が理解できると思う』

「凄い説得力!」


 気合が入っているのはセラフィナよりモトキの方であった。

 長年病弱で、部屋に籠りっきりであったセラフィナは、オシャレにすっかり無頓着になってしまっていたのだ。

 モトキもそのことに気付いていた為、いずれ大改造してやろうとチャンスを窺っていたのだった。


『エアと違って髪が短いからイメージを固めるのに時間がかかったけど、ちゃんと可愛くするから任せて』

「エアって髪が長かったのね」

『胸の辺りまで伸ばした綺麗な黒髪だな。あ、セラフィナの白髪も綺麗だよ』

「別に気を使わなくてもいいわよ。でも長い方が遣り甲斐があったりする?」

『大事な人の為に何かをやることに、遣り甲斐の大小なんてないよ』

「そう」


 セラフィナの髪は首元まで伸ばしているので、エアとかかなり要領が違う。

 世界が違えば当然求められる美的センスも違ってくる。

 しかし幸運なことに城内で働く女性は、気合を入れて髪型を整えてくる人が多かった為、モトキはこの世界の美的センスを完全に習得していた。

 その為、モトキの指は一切の迷いもなく、あっという間にセラフィナの髪を編み込んだ。


「キ、キテラ、どう?」


 セラフィナは、身支度を整える為にやって来たキテラに髪型を披露する。

 初めてのオシャレにやや緊張気味だ。

 対してモトキは自信満々であった。


「あの女を捨てているかと思うほどオシャレに無頓着の姫様が……。女を捨てているかと思うほどの!」

「2度言うほど捨ててないわよ!」


 キテラは信じられない出来事に感極まり、涙を流して床にへたり込んでしまった。

 それだけキテラの中のセラフィナは、そう言ったことに縁遠い存在と認識されていたのだ。


「しかし見事な編み込みですね。これは髪型に合わせてドレスも変えた方がいいですね。少々お待ちを」


 そう言ってキテラは、代わりのドレスを取りに引き返していった。

 セラフィナは心の中のモトキが、これ以上なく満足そうな顔をしている姿を幻視した。


                    ・

                    ・

                    ・


 晴天の下、城の門から専用の装飾をされた馬車が列を成して走り出す。

 馬車を引く羊も美しく飾り付けてある。


 先頭を走るララージュを乗せた馬車は、他の馬車より高い作りになっている為、周りからもよく見えた。

 国民達は皆、ララージュのお披露目に歓声を上げ、拍手で迎えている。


 そしてその後ろを走るセラフィナ達を乗せた馬車。

 セラフィナが公の場に出るのは、自分か生まれた時のパレード以来の2度目の為、大半の人は王子2人に挟まれている少女が何者かを理解できていなかった。


 もちろん当時のセラフィナの存在を覚えている者は大勢いる。

 しかし王位継承権について余計な噂が飛び交わないようにと、カラコンの魔術で眼の色を変えている為、その正体に気付く者は1人もいなかった。

 そもそもとっくに亡くなっていると思われているのだ。


「私に向けられている好奇の目が凄い……」

「ララージュの次に目立ってるな」

「今日の第2の主役は姉さんだね」

「それ、喜んでいいの?」

『きっとパレード後に、セラフィナの正体について噂が飛び交うぞ』

「なんか嬉しくない……」


 王族に対する噂など禄でもないのが相場である。

 いっそ名乗りを上げてしまった方が楽かもしれないが、ララージュが主役の場でそんなことをするほどセラフィナの顔の皮は厚くなかった。


 パレードが中盤に差し掛かった頃。

 馬車が外界への出入り口に最も近付いたときに異変が起きた。

 セラフィナ達が乗る馬車に同乗していた者達が、セラフィナを除いて強い眠気に襲われたのだ。

 同乗していたシグネとエドブルガの護衛騎士も例外ではない。


『これは!』

「やっぱり来たわね……」


 セラフィナが何かを察すると、馬車の中に球状の物体が投げ込まれる。

 護衛騎士が健在なら、異物の侵入など絶対に許さなかっただろうが、あまりの眠気に対応が出来なかった。

 球状の物体が炸裂すると、馬車の周りを真っ白な煙が覆い何も見えなくなる。


「何事だ! 騎士達よ、王子達を救出せよ!」

「「「はっ!」」」


 イオランダの命令により、騎士達がセラフィナ達の乗る馬車に駆け寄る。

 しかし民家の陰から何台もの馬車が飛び出し、騎士達の接近を阻む。

 そしてそのうちの1台が馬車に突っ込み、中から現れた覆面の男達が馬車の中に乗り込んだ。


「この状況で動ける奴がターゲットだ!」

「くっ……」


 この状況で動けるのは、神の加護の影響で睡眠薬の効果を無効化できるセラフィナだけのはずである。

 もちろん男達は神の加護のことなど知る由もないのだが、以前にセラフィナを襲った時の情報が共有されていたのだ。


 男達はセラフィナに殴りかかり、素早く袋に詰めると、自分達の馬車に戻り、街の外に逃げていく。

 騎士達は追いかけようとしたが、他の馬車の中から出てきた角の生えた巨大な狼のような化け物に襲われて身動きが取れなくなっていた。


「おのれ! 逃がすか!」

「いけません! こんなところでそれを使っては! 巻き込んでしまいます!」

「しかし――」


 イオランダは首から下げたペンダントを掴み、何かをしようとする。

 しかしリツィアに制止されことで思い止まり、ペンダントから手を離した。

 そしてその間に誘拐犯達の乗った馬車はどんどん遠くへ行ってしまう。


「すぐに追っ手を出せ! リシストラタ! フラマリオ! ここはいいからお前達は魔獣を倒すのだ!」

「分かりました!」

「御意に!」


 リシストラタとフラマリオは馬車から飛び降りると、角の生えた狼達を次々と切り伏せていく。

 副団長と護衛騎士の名は伊達ではなく、他の兵士達が苦戦していた狼を、瞬く間に全滅させた。

 しかしその間に誘拐犯達の場所は見えなくなってしまったのだ。


(計画通り上手く――なっ!)


 セラフィナの誘拐を企てた首謀者はまだ街の中にいた。

 しかし首謀者が煙の晴れたセラフィナの乗っていた馬車を見ると、セラフィナだけでなくシグネとエドブルガまでいなかったのだ。


(連れ去ったのは確かに1人だけだった……)


 その者は気付かなかったのだ。

 走り出す誘拐犯の馬車の底にしがみ付いた、2人の子供がいたことに。



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