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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第三章 強い剣を目指して
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29 新たなる命

 カリンの一件から1ヶ月後。

 リシストラタの指導の下、モトキはシグネとエドブルガと共に剣の稽古に邁進していた。


『強い……。全然勝てる気がしない……』

「まさか2人がかりで圧倒されるなんてね……」

「流石だね兄さん」

「まだまだだな、2人とも」


 モトキとエドブルガは、2人がかりでシグネに模擬戦を挑んでいるが全く歯が立たなかった。

 モトキのように思いもよらぬ攻撃を仕掛けてくるわけではない。

 エドブルガのように隙のない戦い方をしているわけでもない。

 シグネはただ単純に、そして強いのだ。


「もう騎士になったらどう? カリンに先を越されるわよ?」

「俺がカリンより先に受けて、試験の内容が厳しくなったら困るだろ。俺はリシストラタを超えてから騎士になる予定なんだよ」

「ではしばらく先になりそうですね。そうそう負けてはあげられませんよ」

「兄さんと同時期に試験を受ける人達が可哀そうだ……」


 リシストラタの見立てでは、5年後にはシグネに追い抜かれているらしい。

 5年後のシグネは14歳でまだ成人前だ。

 14歳でも騎士の試験を受けるのはかなり早い。

 その上、王国騎士の副団長以上の実力者が同期となれば、その者達が感じる劣等感は凄まじいものだろう。

 多くの騎士候補生達のように心を折られないよう祈るだけだ。


(カリンちゃんのあの技を覚えられたら戦術の幅がかなり広がって、もう少し善戦できると思うんだけど、なかなか上手くいかないんだよなぁ)


 モトキはカリンからディレイソードの手解きを受けているが、未だ習得には至っていない。

 努力量でごり押しをするモトキを持ってしても、未知の技術の上、アドヴァイス家の秘技となるほどの高等技術を覚えるのは容易ではないのだ。


 それから、しばしの休憩の後、稽古を再開しようとすると、1人のメイドが血相を変えて走ってきた。


「大変です! リツィア様が!」


 以前より妊娠していたリツィアがついに産気づいたのだ。

 セラフィナ達は急いで城内の分娩室の部屋へ向かう。

 分娩室の中に入れるのは、妊婦であるリツィアと夫のイオランダ、そして医者だけということで、セラフィナ達4人はその前にある待合室で待つこととなった。

 身内だけということもあり、キテラ達メイドは外で待機して、必要なものがあった場合に届けてくる。


 歳の近いセラフィナ達3人にとっては、出産に立ち会うのは初めてのことだ。

 圧倒的な知識不足と、部屋の中から漏れ聞こえてくる、リツィアの苦しそうな叫び声によって、3人は不安に掻き立てられている。


「母上……大丈夫かな?」

「城のお医者様は優秀よ。心配いらないわ」

「お、おう……」


 医者により殺されそうになったセラフィナによる発言の為、まったく安心できなかった。


「今リツィアの子を取り上げている方は、あなた達3人の時も担当した信頼できる方ですよ」

「ボーミアだって信頼と実績であの地位にいたんだけどな……」

「凄い心配になってきた……」

『イサオキとエアの為なら何でもやる俺でも、人を殺したことはないなぁ。まあ必要となればやっただろうけど』

「お父様も一緒なのだから滅多なことにはならないわよ! なんであの時の被害者の私がフォローに回っているの!?」


 存在しない不安を感じながらも、それでも信用して待つこと半日。

 普段はとっくに寝ている時間になっても出産は終わっていない。

 そしてついに眠気が限界を超えて、セラフィナは眠ってしまい、夢の中の世界へ行ってしまった。


                    ・

                    ・

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「出産ってこんなに時間がかかるものだったのね・・・・・・」

「そうだな。個人差があるし、そもそも俺の世界の話だから同じとは限らないけど、参考として陣痛から出産まで、イサオキは7時間28分、エアは6時間51分だ」

「……モトキが狂ったのってご両親が亡くなってからじゃなかったっけ?」

「イサオキが母さんのお腹に宿った時点で、俺は兄だよ」


 モトキが狂ったのはあくまで両親の代わりをするためであり、イサオキとエアのことが大好きなのは元からだ。


「……弟や妹って言うのは、どんな形であり愛おしいものだよ」

「ええ、エドブルガは私の可愛い弟よ」

「そして今の俺はセラフィナだ。だからこんなことは願うべきじゃない。だけど願わずにはいられない――」


 モトキはセラフィナの家族をとても好ましく思っていた。王族という重い役目を背負いながらも、仲睦まじいホワイトボードの皆が。

 だからこそ、そんな家族を壊すものが何よりも嫌なのだ。


「……生まれてくる子は金色の瞳であって欲しくない。王位継承権なんて本人達が気にしてない理由で、家族の関係を壊してほしくない」

「そうね……。私も次で最後にしたいわ」

「次なんてあって欲しくないんだけどね。でもセラフィナが家族と何の確執もなく過ごせるようになるなら、俺は何でもやるから」

「ありがとう、私の剣……」

「あっ!」


 モトキが突然何かに気付いたように声を上げる。

 目を瞑り、意識を集中させると、何かを感じ取り目を見開く。


「起きろセラフィナ! もうすぐ生まれるぞ! セラフィナの中の姉魂がそう訴えている!」

「いつの間に私にそんな機能が付いたの!?」

「いいから起きろ! シグネとエドブルガも起こせ!」

「絶対にモトキの影響よ!」


 セラフィナはモトキのことを全面的に受け入れている。

 モトキの意思を尊重して、やりたいことは積極的に出来るようにしている。

 兄妹想いなことも、かなり度が過ぎているが、モトキの長所としてみている。


 だが、それによる人間離れは受け入れ難かったのだ。


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 目覚めると、セラフィナはシグネに寄り掛かり、エドブルガはセラフィナに寄り掛かって寝ていた。


「おや、もう目覚めたのですか? まだ生まれていませんよ?」

「そろそろ生まれる気がするのよ。シグネ、エドブルガ、起きて」


 もはやセラフィナの身に起きる不思議現象に理由を付けようという気すら起きない。

 セラフィナが2人に声を掛けながら揺すると、眠そうに眼をこすりながら起きた。


「……ん? 生まれたのか?」

「いえ、ですが――」


 すると分娩室の方から赤ん坊の泣き声が響いた。

 分娩室から1人の女性が出てきて、子供が無事に生まれたことを聞くと、4人は部屋の中に入っていく。

 中ではベッドに座るリツィアが、生まれたばかりの我が子を抱きかかえている。

 薄っすらと伸びた頭髪は、両親と同じ綺麗な白髪だ。

 隣にいるイオランダは、喜びと感動の涙を流していた。


「母上! 生まれたんですね!」

「待ちくたびれたぜ!」

「男の子? 女の子?」

「あなた達、少し落ち着きなさい」


 リツィアは逸る気持ちを抑えきれない子供達を制止する。

 生まれた子は、以前モトキが調べた通り女の子であった。

 この世界では出産前に子供の性別を知る術がないので、教えるのは野暮だと判断し、今まで黙っていたのだ。


「この子が僕達の妹……」

「ええ、あなた達が生まれた時のことを思い出しますよ」

「これはリツィアに似て美人に育つぞ!」

『無事に生まれてくれて本当に良かった。あぁ、尊い……。尊すぎて体に力が漲ってきた』


 セラフィナの新たな妹の誕生により、モトキの魂は活性化し、損傷が2割ほど回復した。

 感動に打ち震えていると、赤ん坊が泣き止み、目を開けてセラフィナの方を見た。

 その瞳の色は、リツィアやシグネと同じ青色。

 王位継承権を持たないことに、セラフィナとモトキはホッと胸を撫で下ろした。


「尊い……。確かにその言葉が相応しいわね」

「名前は? 親父、ずっと考えてたんだろ?」

「ああ、この子の名前はララージュ。ララージュ・ホワイトボードだ」


 ララージュ・ホワイトボード。

 白の国の王イオランダの第4子。

 この国の新たなる姫である。


「ララージュ……私の妹」

『ああ、これからはこの子の姉としても頑張らないとな』


 ララージュのことは一夜の内に国中へ広がり、国民は新たな王女の誕生を祝福した。

 それから2日後、城下の街では祭りが開かれ、ララージュが初めて公の場に出るパレードが行われるのである。


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