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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第三章 強い剣を目指して
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28 未知の体験

「今日は大変だったわね」

「ありがとうセラフィナ。俺じゃあカリンを助けられなかった」


 神の加護の影響で眠気は吹き飛んだが、体の疲労が限界だったことには変わらず、セラフィナは早々に就寝し、夢の中の世界へやって来ていた。


「あんなに楽しそうなモトキは初めて見たし、モトキって戦闘狂だったのね」

「俺が狂ってるのはそういう意味じゃないはずなんだけどなぁ。確かに楽しかったけどイサオキやエアと一緒にいた時の楽しさとは全然違ったし」


 セラフィナは半ば冗談のように言ったが、モトキは思いのほか深刻に受け止めていた。

 イサオキとエアに全てを捧げてきたモトキは、人生経験がかなり歪で偏っている。

 その為、鍛えた成果を発揮することによる喜びは、モトキにとって未知の感覚なのだ。

 それにより受けたモトキの衝撃は、喜びを通り越して、一種の恐怖に感じられていた。


「今後はあんな風にならないように気を付けないと」

「無茶な動きで筋肉が酷いことになるのは困るけど。楽しかったなら程々に楽しめばいいじゃない」

「俺はセラフィナの剣だ。セラフィナが自在に使いこなせる存在でなければいけない。コントロールできない狂剣じゃ、いつか大切なものを取りこぼすことになる。心技体、技と体だけじゃなくて心も鍛えないと」

(想像以上に重傷ね……)


 セラフィナはモトキにもっと人生を楽しんでほしかった。

 しかしモトキは自分自身の為に何かを行うことに、苦手意識を持っているのだ。

 その為セラフィナの為という建前があることは、モトキにとってとても楽なのである。


(もっとじっくり、長い目で見て行かないと駄目ね)

「それにしても、よくあんな無理やりな提案が通ったな。言っちゃ何だけど、あれでカリンが許されるとは思わなかった」


 条件付きとはいえ、リツィアがカリンを無罪放免にしたことはかなり以外だった。

 いくらセラフィナとシグネにも原因があるとはいえ、カリンの軽率な行動は擁護しきれるものではないのだから。


「やらかした相手に、条件を満たせば守護騎士雇用……。これじゃ罰じゃなくて恩賞だ。こっちから言い出したこととはいえ、いくらなんでも都合がよすぎる気がするんだ」

「私の日頃の行いが良かったおかげね」

「本当にそれだけ?」

「私がモトキに助けられた奇跡に、明確な理由なんてあった?」


 セラフィナは明らかに何かを隠している。

 そしてモトキもそれに心当たりがあった為、それ以上追及することは止めた。

 モトキは自分がすべきことを既に決めていたのだから。


                    ・

                    ・

                    ・


 翌日、セラフィナは案の定、地獄の筋肉痛で自室のベッドから動けなかった。


「毎度のことながらペンすら持てないのは辛すぎるわ……。脳内で術式を組むのも限界があるし……」

『毎度のことながら申し訳ない……。』

「何か動かないで出来る暇潰しってある?」

『しりとりって知ってる?』

「ええ、前の人が言った単語の最後の文字を、次の人が最初の文字として使い単語を作るのを繰り返す言葉遊びね。同じ文字を言った方が負けという――」

『難易度高いな!』


 そもそも神の加護の影響で、モトキが発している言葉と認識している言葉には齟齬がある。

 この1ヶ月余りで、この世界の言葉を少しは学習出来ているが、まだまだ拙い状態だ。

そんなモトキが日本のものより数段難易度の高いしりとりでセラフィナ勝てるはずがなく、ほぼ一方的にされたのだった。


 そんなことをしていると、部屋にノックの音が響いた。

 キテラである。


「姫様、キテラです。お客様がお目見えになっています」

「私、寝間着姿よ。入れる前に着替えを手伝って……」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 キテラだけが部屋に入ると、手際よくセラフィナの身支度を整える。

 しかし体を動かすたびに激痛が走るため、思うように着替えられない。

 仕方なくモトキが表に出て、痛みをスルーしながら着替えていく。


 初めの頃は、セラフィナが着替えるたびに意識を閉ざしていたが、1ヶ月以上共に生きてきた為、もはやモトキも気にしないようになっていた。


「どうぞ」

「失礼します」

「失礼しますです」


 来客はフラマリオとカリンだった。

 昨日の件の謝罪とお礼を言いに来たのだ。

 もちろん今回はカリンも正規の手続きを踏んで、セラフィナに会う許可を得てきた。


「セラフィナ様。昨日はとんだご迷惑をお掛けしました」

「助けていただき、ありがとうございますです」

「フラマリオに感謝するのよ。彼の妹でなければあそこまで言わなかったのだから」


 セラフィナがフラマリオを信頼していることと、モトキが2人の兄妹愛に心動かさなければ、自分の守護騎士を変えるなどという荒業は、絶対に使わなかっただろう。


「はい、お兄様にはもちろん感謝してるです。けれどそれはそれとして、お姫様にもとても感謝しているのです。もちろんシグネにも」

「そう」


 カリン達は、ここに来る前にシグネにも会って来たのだ。

 シグネは今回の件の罰として、騎士候補生の訓練に参加できなくなってしまった。

 もっともシグネがあそこにとどまっていた理由は、カリンの存在だけなので、特に不満はなかったようだ。


「さて、私はあなたに助け船を出したけど、まだ岸には辿り着いてないわよ」

『騎士だけにか?』

(今はまじめな話をしているのよ)


 カリンは半年の間に騎士にならなければ、護衛騎士どころか、一般騎士にすら永遠になれなくなってしまう。


 カリンは現在9歳である。

 半年後でも10歳になったばかりだ。

 騎士試験は自体に年齢制限は特に設けられていないが、10歳以下で受ける者はほぼ記念受験で、受かることはまずありえないだろう。

 シグネなら突破できるだろうが、あの規格外を参考にしてはいけない。


 騎士とは、知力、体力、技量、人格を高いレベルで兼ね備えた者だけがなれる役職だ。

 カリンは体力こそ申し分ないが、技量は心もとない。

 そして知力と人格も昨日のことから優れているとは言い難いだろう。


 そんなカリンが残り半年で騎士として認められるまでに成長するには、相当努力する必要があるのだ。


「言っておくけど、ただ騎士になっただけじゃ私は認めないわ。私はフラマリオという、優秀な護衛騎士を手放したのだから、あなたにも同等の実力を求めるわ。あなたにそれが――」

「分かりました! このカリン、半年でお兄様を超えて見せるです!」


 カリンの目には一点の曇りもない。

 それは自信ではなく、覚悟から生まれたものだ。


「フラマリオ。妹の罪は自分の罪と言っていたわね? なら罪の責任として、しっかり妹を鍛えるのよ」

「はい! このフラマリオ、必ずや妹を私に勝るとも劣らない騎士に育て上げて見せます!」

「それと――」


 セラフィナはモトキと入れ替わった。

 モトキは昨日の勝負からどうしても気になっていることがあったのだ。


「昨日の戦いで君が最後に使った技。まるで衝撃が遅れて来たみたいだったけど、あれは何だったんだ?」

「なんと! あの技まで使ったのか!」

「最後まで真剣に向き合ってくれたお姫様に、全力を出さないのは失礼かと思ったのです」


 モトキ相手にはそれで正解である。

 一瞬、手加減されたと思った時は、大人げなくも不機嫌になったものだ。

 モトキはセラフィナやカリンのように、自分の目標に一生懸命な相手が大好きなのである。


「その様子だとアレは特別な技みたいだね。その上で失礼を承知で、あの技のことを知りたいんだ。そして習得したいと思ってる」


 あの技は地球の物理法則では再現できない技だった。

 今のモトキの技は、全て地球での経験の延長線上にしかないものだ。

 ならばあの埒外の技を習得することが出来れば、モトキの強さは1つ上の次元に昇ることが出来るだろう。


「あの技の名称はディレイソード。アドヴァンス家に伝わる秘技の1つで、お姫様のおっしゃる通り、衝撃を遅らせることが出来るのです」

「秘技か……」


 秘技とは文字通り秘密の技術。

 それも家に伝わるものとなれば、おいそれと人に教えることは出来ないだろう。


「お姫様も使いたいのですね! だったら今度教えるのです!」

「いいの!? フラマリオはいいの!?」

「セラフィナ様なら構いませんよ。我々だけの秘密ですが」


 あっさり承諾された。

 もちろん本当は簡単に教えていいものではないが、セラフィナには簡単ではない大恩があるのだ。

 そしてセラフィナなら軽々しく他の者に教えないという信頼があった。


「キ、キテラさんもこのことはご内密にお願いします!」

「はい、特に興味がありませんので」


 キテラの興味がないが、どこに掛かった言葉なのかによっては悲しいことになるが、全員気にしないように努めた。

 それからしばらく雑談をすると、一行は部屋から出て行った。


「それにしても衝撃が遅れてくる攻撃か……。魔術といい、この世界は俺の知らないことがいっぱいだな。……?」


 モトキはセラフィナに話しかけたつもりだが返事がない。

 何か考え事でもしているのだろうと思い、邪魔しないようにとゆっくり心の中に戻って行った。


(フラマリオが護衛騎士じゃなくなった。他の護衛がいたとしても、パレードはまたとないチャンスのはず。必ず何か仕掛けてくるわ)


 セラフィナは何かを決意した目で天を仰いだ。


(来るなら来い。私は逃げも隠れもしないわ)


 後にセラフィナは酷く後悔することとなる。

 その決意は悲劇の始まりとなるのだった。

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