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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第三章 強い剣を目指して
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27 アドヴァイス

 モトキは一度眠ってしまうと自力では起きることが出来ない。

 十分な休息の後に、セラフィナが夢の中の世界で直接起こす必要がある。


「起きろー!」

「うわっ!」


 セラフィナは夢の中のベッドを消して、モトキを床に落として起こした。


「もっと普通に起こして……。というかまだ眠い……」

「モトキが眠ってから10分も経ってないからね。でも呑気に寝ている場合じゃないわ」


 セラフィナは疲労のあまり、あのまま眠ってしまったのだ。

 しかし眠る直前の状況から、そんなことしている場合じゃないと、モトキを無理やり起こしたのだ。


「詳しく説明している余裕はないわ。モトキならあの極度の疲労状態でも少しは起きていられるでしょ? 私もここでギリギリまで起きているから、表のことはお願い」

「とにかく大変なんだな? 分かった、任せて」


                    ・

                    ・

                    ・


「おや? 目覚められたのですか?」


 モトキが目覚めるとまだ先ほどの庭だった。

 休憩用のシートの上でキテラに膝枕をされている。


「うん、どれくらい眠っていた?」

「ほんの5分少々です」

「状況は?」


 キテラが無言である方向を向き、モトキも起き上がり同じ方向を見ると、シグネとカリンが正座をしている。

 その前に立ち、2人を見下ろしているのはリツィアだ。


「母さん、カリンに悪気はなくて、俺の言い方に問題があったのが原因なんで、どうか寛大な処置を……」


 カリンを庇うシグネと、青い顔をして震えているカリン。

 どうやらカリンは、ようやく自分が不味いことをしたということに気付いたようだ。


「城内への不法侵入、王族と無許可の戦闘行為、どちらも重罪ですね」

「お母様、戦闘行為の方は(わたし)が了承しました」

「あなたにそのような権限はありません。あなたへのお説教は後でしますから黙っていなさい」


 セラフィナが焦っていたのは、こういうことだったのだ。

 確かにカリンは問題行為を起こしたが、その原因にどちらも王族が関係している。

 これを見過ごして眠っていては、2つの意味で寝覚めが悪い。


『モトキ、はっきり言ってお母様の言っていることは正論よ。カリンを助けたいなら情に訴えるしかないわ』

「びっくりするほど無策だ……」

『眠くて頭が回らないのよ……』


 セラフィナもとっくに限界である。

 しかしモトキがカリンのことを気にいっていると判断して、何とかチャンスを作ったのだ。


(カリンとの闘いは楽しかった。それに最後のあの技……。何とかして助けないと)


 モトキは立ち上がるとリツイアの下に向かい、シグネの横に正座をする。


「彼女は(わたし)にとって有益な人物です。延いてはこの国の益となります。ですからどうか恩赦を」

「お姫様……」


 モトキは頭を下げてリツィアに懇願する。

 それに倣い、シグネとカリンも頭を下げた。


 リツィアは頭を抱えている。

 リツィアは個人としては今回の件を厳重注意で済ませてもよいと考えていた。

 しかし国の王妃であり、国務を担う立場としてはそうはいかない。


 リツィアがどういった罰が妥当かと頭を悩ませていると筋骨隆々の大男が走ってきた。

 フラマリオである。


「セラフィナ様ー!」


 フラマリオは高く跳躍すると、土下座の態勢で着地する。

 巨大な塊が落ちてきた衝撃で、セラフィナ達は少し浮いた。

 フラマリオも少し地面にめり込んでいる。


「セラフィナ様! 申し訳ございません!」

「あー、(わたし)の護衛が出来なかったこと? 別の仕事に就いていたのはフラマリオのせいじゃ――」

「違うのです! 実はそこのカリンは――」

「お兄様!?」

「え?」


 その場にいた全員が沈黙した。

 聞き間違いでなければ、カリンはフラマリオのことを兄と言った。

 筋肉で出来た山のようなフラマリオと、見た目はほっそりしているが実は怪力のカリン。


(あ、兄妹っぽい)


 モトキは1人で勝手に納得した。


「その通り、彼女はアドヴァイス家の長女カリン。このフラマリオ・アドヴァイスの妹です」

(アドヴァイス家!)


 モトキはやっとカリンのことを思い出した。

 アドヴァイス家は、モトキが転生先の候補に選んだ貴族の家である。

 その家の奥様の妊娠状況を確認した際にカリンを見かけたのだ


(その節は大変失礼なことを、申し訳ございません)


 モトキは心の中でアドヴァイス兄妹に謝罪した。


「妹の罪は私の罪! 罰を与えるならどうかこのフラマリオに!」

「ごめんなさいお兄様! こんなことになるなんて思わなくて!」

(あ、絶対助けないと)


 美しい兄妹愛を見せられたことで、モトキにとってカリンは何とかして助けたい相手から、何としても助けたい相手に格上げされた。

 それと同時にセラフィナの肉体から眠気が吹き飛ぶ。

 それによりセラフィナの眠りかけの頭も回りだす。


『これは……モトキの意思で神の加護が働いたの? なんにしてもチャンスだわ。 モトキ――』

(え? それ大丈夫なの? 任せちゃうよ?)


 セラフィナはこの場を打開する策を提示する。

 モトキは無茶な提案だと思ったが、カリンを助ける為にセラフィナを信じて任せることにした。

 セラフィナが表に出ても、眠気が戻ることはなく、頭は冴えたままだ。


「お母様、実はこのカリンは私の新たな守護騎士候補なのです!」

「なっ!」


 あまりに唐突な発言に周りの皆は驚愕した。

 守護騎士は、王族が生まれた際に付けられるが、その王族の意思で後から変更することが可能なのである。

 しかしそれは、その場しのぎにしてもあまりに雑で、しかもリスクの高い発言だった。


「そのような手続きはされていませんが?」

「あくまで現在は候補の段階ですから。ですがカリンを城内に連れ込んだのも、剣の稽古に参加してもらったのも私の意志なのです」


 先ほどまでの発言と全く違う内容で、誰が聞いても嘘なのは明白だ。

 だがリツィアは何故かそれを嘘とは否定しなかった。


「守護騎士の役職に就けるのは1人だけです。フラマリオは解雇ということですか?」

「そ、それは困るです! 私の為にそんな――」

「フラマリオは優秀な騎士です。彼以上に守護騎士に相応しい人物は他にいないでしょう。ですから彼にはこれから生まれる私の弟か妹に就いてもらいたいと思っています」


 たとえこれから守護騎士選定の試験を行ったとしても、フラマリオ以上の実力と信頼を兼ね備えた騎士なの表れるはずはない。

 それに加えて、セラフィナの推薦があればイオランダは間違いなく彼を選ぶだろう。


「守護騎士になれるのは騎士階級の者だけです。この少女は見習い騎士ですらない候補生。あなたが幾ら目に掛けようと、その条件は無視できません」

「カリンが騎士になるまで私は城の外に出ません。今まで通りで何の問題はありません」


 守護騎士の仕事は王族が外出する際に、一番近くで護衛をすることである。

 そして病弱なセラフィナは城の外に出ることはない。


「私が出産したら、新たな王族の誕生を祝うパレードがあります。今回はあなたにも参加してもらう予定です。これだけ動き回れるのに今更病弱などとは言いませんよね?」

「……参りました」

『うぉい!』


 セラフィナは万策尽きた。

 元から浅い理論を、屁理屈と情でごり押ししているだけなので、理詰めのリツィアに分が悪かったのだ。


「ごめん、モトキ……」

『いや、セラフィナが悪いんじゃない。これはどうしようもないって』


 それでもセラフィナは、モトキの為に何かしてあげたかったのだ。

 自分の為に全力を尽くしてくれるモトキの為に。


「母上、兄さんと姉さんがここまで言っていることですし……」

「まったく、あなた達は……」


 エドブルガは、セラフィナ達があまりに必死でカリンのことを庇うので、すっかり絆されていた。

 そして元から大事にしたくないと思っていたリツィアにとっても、十分な言い訳が用意されたのだ。

 リツィアは大きく溜め息を付くと、腹の上から中の子を撫でる。


「パレードの際は、私と王がこの子と同じ馬車に乗ります。あなたはシグネとエドブルガと同じ馬車に乗りますが、その際には2人の守護騎士も同乗します。ですから滅多なことは起こらないでしょう」

「お母様……」

『やった!』


 リツィアはパレードの際にセラフィナの守護騎士が不在のことを許可した。

 シグネとエドブルガの守護騎士もフラマリオと同等の実力者だ。

 護衛対象が1人増えた程度では、何の問題もないだろう。


「フラマリオ、あなたにはセラフィナに代わってこの子の守護騎士を務めてもらいます。それでよろしいですか?」

「このフラマリオ、その命を謹んでお受けいたします!」

「カリンと言いましたね。あなたが騎士階級を得た際にはセラフィナの守護騎士として任命します。それで今回の件はセラフィナの不手際ということで不問としましょう」

「ほ、本当ですか! ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」


 フラマリオとカリンは再び深く頭を下げる。

 そしてセラフィナにも最大限の感謝を伝えた。


「しかしいつまでもセラフィナの守護騎士が不在という訳にはいきません。期限は半年です。半年以内に騎士になれなかった場合、カリンの騎士試験の受験資格を永久に剥奪します」

「構わないです! ありがとうございます」

「セラフィナには別のものを守護騎士として付けます。よろしいですね?」

「はい」


 何とか事態を穏便に済ませることができ、セラフィナとモトキそしてシグネは、ホッと胸を撫で下ろした。


「詳しい話はまた後程。フラマリオは妹を城外まで送り届けなさい」

「はっ!」

「シグネとセラフィナは私の部屋に来なさい」

「「はい……」」


 その後セラフィナとシグネは、リツィアにたっぷりとお説教をくらったのだった。


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