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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第三章 強い剣を目指して
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26 騎士候補生

 モトキとカリン。

 2人の木剣が激突するとモトキの方が一方的に弾かれる。


(やっぱり身体能力は向こうが上か。でも――)


 力負けすることも弾かれることも初めからそういう前提で真正面から打ち込んだのだ。

 モトキは弾かれた勢いを利用し、右足を軸に回転し、遠心力を加えて逆サイドから切りかかろうとする。

 近接で背中を無防備に晒す行為の為、当然カリンは追撃を行う。

 モトキはわざ右と足を滑らせることで態勢を地面スレスレまで下げることでそれを回避する。

 軸足を左に変えると、その体制からカリンの胴に切りかかる。


(そんな! こんな態勢でですか!?)


 カリンは何とか柄頭でモトキの木剣を受けると、後方に飛んで態勢を立て直そうとした。

 モトキは無茶な体勢での攻撃を防がれたことでバランスを崩したが、そんなこと知ったことじゃないと、横っ飛びから強引に追撃する。


『モトキ! それ絶対に足の筋肉が酷いことになるやつ!』

「筋肉痛は成長の前兆!」


 全力で戦わなければ自分の実力を正確に測ることは出来ない。

 お互いに態勢は良くなかったが、立て直そうとしているカリンに対し、モトキの一撃は捨て身だった。

 モトキは全体重でぶつかり、カリンを押し倒す。


「勝った――なにー!?」

「まだまだです!」


 カリンは体を大きく仰け反らせ、上半身が地面と平行になるまで傾いているが、その状態でモトキの全体重を抱えて留まった。

 カリンはそのままの態勢でモトキを両腕ごとガッチリとホールドし、体を横に捻じり投げ飛ばす。

 モトキは空中で体を捻り、態勢を整えて着地する。

 お互いにに距離が離れ仕切り直す形となった。


『今あの子、凄いことしなかった?』

「ああ、いくら(わたし)の体重が軽いからって、あの状態から堪えるなんてな。あの服の下は筋肉が凄いことになってるはずだ」

「お姫様こそあの無茶苦茶な連撃、素晴らしいバランス感覚です!」


 2人は笑っている。

 お互いに相手のことを強敵と認め、そんな相手と剣を切り結べるのが楽しいのだ。

 カリンは再び真正面から切りかかると、モトキはそれを次々と受け流していく。


(楽しい! リシストラタやエドブルガとの稽古と違う! なんだこの感覚!)


 今までモトキは、イサオキとエアの為、セラフィナとエドブルガの為にと鍛え続けてきたが、その成果を実践する機会には恵まれなかった。

 あるのは精々、山から下りてきたヒグマ、病気で殆ど動けなかった時に出会った魔王、城の外で戦った男達。

 どれも命がけで、肉体的に制約があることが多かった。

 リシストラタやエドブルガとの稽古も自分を強くする為、エドブルガを強くする為と常に気を張っていた。


 しかし今あるのはセラフィナとして1から鍛え直したことで、新たに作り上げたモトキの努力の成果。

 誰の命も背負っていない、誰の為でもない、何の責任もない戦い。

 ただ純粋に自分の力をぶつける快感は、宛らスポーツでもしているかのようだ。


 常に誰かのために生きてきたモトキにとって、それは初めての感覚だった。


『モ、モトキ? ちょっと激しすぎじゃない?』

(なんだこれ!? 体が止まらない! 頭がおかしくなりそうだ!)


 モトキはカリンの剣を蹴り弾く。

 剣で強くなる為にと使うのを控えてきた護身術を解禁した。

 それはモトキの脳に染み込んだ技が、体が勝手に動かしたのだ。


(姉さんが蹴り技を!?)

(何て鋭い蹴りですか! 私より年下なのに、一体どれだけの修練を――)


 全く想定していなかった方向より飛んできた蹴りにより、カリンの木剣は大きく弾かれ、体ががら空きとなった。

 モトキはカリンの懐に飛び込むと全力で切り込む。


「今度こそ!」

「だからまだ!」


 カリンは肘と膝でモトキの木剣を挟み込んで止める。

 カリンの怪力で挟み込まれた木剣はピクリとも動かず、その隙にカリンは引き戻した木剣をモトキに向かって振り下ろす。

 モトキは木剣から手を放し、白羽返しによりカリンの木剣を奪い取る。

 2人はお互いの木剣を交換する形となり、再び距離をとった。


「凄いよ姉さん! いつの間に兄さんの技まで! それに体の切れがいつも以上だ!」

「しかし少々張り切りすぎですね。弟王子様との稽古の後ですし、姫様の体力がここまで持つはずがない」


 キテラが睨んだ通り、モトキの体力は既に限界を超えていた。

 特に下半身は無茶な動きを繰り返した為、立っているのすら辛い。

 それでもモトキはまだこの時間を続けたく剣を構える。


「お姫様、私のとっておきを披露します。これで終わりです」

「受けて立ーつ!」


 カリンの目にもモトキの限界は明らかだった。

 しかしそれでも闘気を微塵も失わないモトキに、手加減は無礼と判断し、最後まで全身全霊で挑むと決める。


 カリンは今までで最大の踏み込みから、一直線にモトキへ切りかかる。

 今まで何度も繰り返してきた真正面からの攻撃だが、その質は段違いだ。

 避ける体力を残していないモトキは、両手でしっかりと木剣を握りカリンの一撃を受け止める。


 そう、受け止められたのだ。

 ただでさえ腕力が劣っている上、体力も限界だというのに、モトキはあっさりと受け止められた。

 最後の最後で手加減でもされたのかと思いながら、モトキは最後の力を振り絞って木剣を振りかぶる。


 カンッ!


 モトキの頭上から木剣がぶつかる音が響き、木剣はモトキの手から弾かれる。

 しかしカリンは目の前にいる。

 それはまるで先ほどの一撃が遅れてやってきたようだった。


「私の勝ちですね!」


 カリンはモトキの眼前で剣を寸止めすると勝利宣言をする。

 決着が付くと、モトキの全身から力が抜け、地面にへたり込む。


「姉さん!」

「姫様!」


 すぐさまエドブルガとキテラがモトキの下へ駆け寄る。


「ははっ、負けちゃった」


 モトキは笑いながらそう言うと、セラフィナの中に戻ると眠ってしまう。

 表に出ていられる時間も限界を超えていたのだ。

 入れ替わったセラフィナに今までの疲労が襲い掛かると、もはや重力に逆らうことすらできず、大の字で地面に倒れこむ。


「し、死んじゃう……」


 セラフィナの顔は赤く、汗は滝のように流れ、呼吸と心音はハードロックを奏でている。


「だ、大丈夫ですか、お姫様」

「大丈夫じゃない……。でもあなたが悪いわけじゃないから気にしないで……」


 モトキは途中から明らかに、その後のことを完全無視して戦っていた。

 悪いのはモトキ、そして――


「シグネ様をお連れしました!」

「カリン! お前何やってるんだよ!?」


 エドブルガに頼まれた兵士がシグネと共に戻ってきた。

 全力疾走して戻ってきたようで息を切らしている。


「あ、やったですよシグネ! 言われた通りシグネの妹様に勝ったです!」

「兄さん、どういうことなの?」

「どうもこうも、そんなこと言ってねぇよ!」

「そんな! だって――」


                    ・

                    ・

                    ・


 それはおよそ1ヶ月前。

 騎士候補生の訓練にシグネは身分を隠して参加した。

 伊達メガネをかけて、ネグシと言う偽名を名乗っている。


「よし! まずはお前らの実力を見てやる! かかってこい!」


 他の候補生に対しての第一声がこれである。

 突然現れて、この上からの物言いに、他の候補生は大層怒った。

 皆、騎士になる為に日々精進を続けて、己の強さに自信がある者たちばかりなのだから当然だ。


 シグネは挑んでくる訓練生を次々に倒していった。

 時には集団で、1度倒れた相手が再び挑んできたこともあった。

 そしてシグネは、その全てに勝利したのだ。


 翌日、シグネの理不尽の強さに候補生達の半数以上は心を折られて辞めてしまった。

 残りもシグネに怯えて、決して関わろうとしない。


(実力不足は仕方ないけど、そんな心構えで王や国を守る騎士が務まるのかねぇ)


 シグネが他の候補生達に失望していると、昨日のリベンジを挑んだ者が1人だけいた。

 それがカリンである。


「このカリンは、いずれ護衛騎士となり王族を守る者! それは訓練生の中で1番にもなれないようでは決して務まらないです! なのでリベンジです、ネグシ!」

「ネグシ? え? ああ、俺か。いいぜ、何度でも相手になってやる」


 それからシグネは毎日カリンと模擬戦を繰り返した。

 結局カリンは1度もシグネに勝つことは出来なかったが、何度負けても決して諦めないカリンを、シグネはとても気に入った。

 カリンもシグネの圧倒的な強さに理不尽さを感じながらも、強くなることに真摯な姿に尊敬の念を覚えて行く。

 その為シグネはカリンに気を許し、つい冗談交じりに身分を明かしてしまったのだ。


「まさかネグシがシグネ王子だったとは! 驚きです!」

「え? 信じるの?」

「ライバルであるネグシが私を騙すはずがないです! あっ、王子!」

「いや、今まで身分を偽ってたんだが」

「それは王族ですから、仕方ない理由があったのですよね? 王子が私を騙そうとしたわけではないので別です」

「……今更王子はいいよ」

「ではシグネと呼ばせてもらいます!」


 秘密を明かしたことで2人はより仲良くなった。

 そして昨日、シグネは爆弾発言をしてしまったのだ。

 その日もカリンはシグネに完膚なきまでに敗北していた。


「護衛騎士たるもの、守るべき王族より弱かったら務まらないぞ」

「そうですね。よし、もっと修練を積んでシグネを追い越すですよ!」

「いや、俺は将来、白の国最強になるからそれは無理」

「何という自信! けどシグネなら本当にそうなりそうですね」

「俺は無理だけどエドブルガ――の方がお前より強いな。セラフィナは……まだ何か隠し持ってそうだから微妙だな」

「セラフィナ? もうすぐ生まれると噂のリツィア様の子のことですか?」


 エドブルガと違って公な場に出たことのないセラフィナは名前すら知られていなかった。


「いや、俺の1つ下の妹。剣の腕はまだまだだけど、妙な技を使うから油断ならないんだよ」

「なるほど。その妹様に勝てれば護衛騎士に……」

「そうだな。それくらいなければ試験すら受けられないだろうな」

「分かったです! 頑張るですよ!」

「ん? おお、頑張れ!」


                    ・

                    ・

                    ・


「――って、言ったですよね!? まさかライバルである私を騙したのですか!?」

「騙してねぇよ! お前の勘違いだ!」


 勘違いではあるが、シグネ言い方も曖昧であった。

 カリンの真っ直ぐな性格を知っているのならば、かなり迂闊な発言である。


「これは……姉さんはどう思う?」

「……シグネが悪い」

「なんで! いや……ごめん」


 もちろんカリンにも非はあるのだが、セラフィナにとっての1番の問題は疲労困憊の自分自身である。

 いかなる理由があろうと、こうして力尽きて倒れている原因がモトキとシグネであることに変わりはない。

 ぐったりとしたセラフィナを見て申し訳なくなったシグネは、自らの非として認めてしまったのだった。


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