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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第三章 強い剣を目指して
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24 人類の天敵

 人類の天敵。

 それはモトキが以前にバンからこの世界について説明されたときに聞いた言葉だ。

 バン曰く、数百年おきに現れて、それに巻き込まれると高確率で死ぬらしい。

 散々気を付けるように言われたが、今日まですっかり忘れていた。


「人類の天敵と……戦う?」

「ええ、それこそが王が民の上に君臨できる理由。四色王国の4人の王は人類の最終兵器なのよ」


 モトキは、さっきまでは後ろ暗い話が理由で気が滅入りそうだったが、今度は物騒な話が理由で気が滅入った。


「その人類の天敵ってなんなんだ?」

「数百年に1度現れる、魔人と呼ばれる常軌を逸した力を持つ生命体。異形な部位を持った人型の災害。その力は単体で国を滅ぼすほどで、人の力は魔人に掠り傷1つ付けることが出来ないそうよ」

「何その化け物!? ってか、今その魔人が出てきたらイオさんが倒すってこと!?」


 セラフィナの父にして、この国の国王であるイオランダ。

 大らかで子煩悩なところがある人物で、とても荒事が出来るようには見えなかった。

 ましてや魔人相手に最終兵器など、絶対に呼ぶことは出来ない。


「確かにお父様が強いという話は聞いたことがないわ。幼少期は妹のリシス叔母様に剣でコテンパンにされていたらしいし」

「そういえばリシスさんも王位継承の条件を満たしてるのか。魔人と戦うのが王の役目ならイオさんよりリシスさんがなるものじゃないのか?」

「魔人だけを考えればね。けれどそれだけじゃ国を回せないわ」


 数百年に一度あるかないかの魔人より、確実に必要な政治力である。

 物事をあまり深く考えないリシストラタは致命的に王に向いていなかったのだ。


「それで、そんなお父様でも魔人を倒すことの出来る手段として、魔人殺しの秘術と言うものがあるらしいの。私も実際に見たことはないのだけれど」

「魔人殺しの秘術か……。それって魔術なのか?」

「違うと思うわ。魔術の歴史はまだ300年程度だから」


 国の歴史は数千年単位の為、当時は魔術と言うものが存在すらしていなかったのだ。

 魔力自体は元々人間に備わっているものだが、それを魔術として利用しようするようになったのは300年ほど前からである。

 モトキはこの300年と言う言葉に引っ掛かりを覚えた。


「俺の弟のイサオキがこの世界に転生したのは300年位前なんだ。今までない技術がいきなり出てくるなんて、ひょっとしたら関係してるのかも」

「モトキの世界には魔力すらなかったのよね? 全く未知の分野だからこその閃きがあったのかもしれないわね」

「イサオキは天才だしな」


 モトキは得意げだ。

 モトキはイサオキならこの時代でも何か偉業を成し遂げていると確信していた。

 しかしセラフィナは歴史上にイサオキと言う名の人物は知らなかった為、どんな名前で偉業を成したのかが分からなかったのだ。


「300年前の偉人だと、有名なのは青の国に現れた魔人ミラを討伐した一団ね」

「よりにもよってその時代に出てきたのか、魔人……。巻き込まれてないよな……」


 イサオキなら魔神が相手だろうが何とか出来そうだと思ってはいるが、それでも万が一があるのではという不安があることも否定できなかった。


「魔人を討伐した一団……。当時の青の国の王族スラミティス。魔術の基礎を作り上げた天才シロヴァ。戦場と共に生きた医者クリミア、最強の剣星ソルヴェーグが有名ね」

「医者か……そっちかもしれない」


 生前医者だったイサオキならクリミアが鉄板だろう。

 モトキも最初にこの世界に来た時にイサオキは医者になっていたかもしれないと予想していた。

 しかし地球の医療知識の大半を網羅していたイサオキなら、もっとこの世界の医学を発展さることが出来ただろう。

 その為モトキは違う気もしていた。


「イサオキのことも気になるけど、重要なのはイオさんやエド君の代に魔人が出てくるかだな」

「そうね。魔人殺しの秘術があっても絶対に勝てるって訳じゃないから」


 エドブルガも、他の皆も魔人のことは承知の上だろう。

 それでも皆、エドブルガを王にしようとしている。

 モトキはそれに対して思うところがあったが飲み込んだ。


(これはこの世界に深く根付いた歴史だ。この世界に来て1ヶ月ちょっとの俺が安易に口出ししちゃいけない)

「何か言いたそうね? 言っていいわよ」


 飲み込んだものを吐き出させに来た。


「……エド君が王になるのはいいけど、魔人と戦わせるのは気が引ける。だからと言って俺は代わりとしては役者不足だ。戦わないで逃げるなんて一番あり得ない」

「うん……。魔人なんて現れなければいいのにね」


 セラフィナもモトキと同じ気持ちだ。

 決してエドブルガの命を軽く見ていないセラフィナにモトキは安心した。

 分かっていたことだが、それでも言葉にして聞くことには意味があるのだ。


 魔人の存在は、モトキに魔王の存在を連想させた。

 圧倒的な力によって、大事な人が壊されていく絶望。

 あの時見た光景を、聞いた叫びを、血の臭いを、味を、痛みを、想いを。

 恐らくモトキは一生忘れることはないだろう。

 そしてセラフィナや周りの皆にも、そのような思いは絶対にしてほしくなかった。


「俺に出来るのはエド君が魔人に負けないくらい強くなれるように、一緒に剣の稽古を頑張るくらいかな」

「私なんて魔人が現れないように祈ることくらいしか出来ないわよ」


 セラフィナはそう言うと体を伸ばしてベッドに倒れこむ。

 夢の中でも睡魔が襲い、瞼を開けていられなくなる。

 夢から覚めて完全な眠りに就こうとしているのだ。

 モトキはセラフィナを抱きかかえて、正しい向きでベッドに寝かし直した。


「モトキ……」

「んー」

「モトキも……後悔しないで……」


 そう言ってセラフィナは眠りについた。

 モトキはセラフィナの横顔を見ながら横に腰掛ける。


「見透かされてるなぁ。俺ってそんなに分かりやすいのか?」


 思い返すと、イサオキとエアにもよく胸の内を暴かれることが多々あった。

 モトキが分かりやすいのも理由の1つである。

 しかしそれ以上にモトキは彼等によく見られているのだ。


「俺も大概恵まれてるな。……後悔しないよ。俺一人の人生じゃないからな」


 モトキはセラフィナの頭を撫でた。

 いつかイサオキやエアにしたように、優しく。


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