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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第三章 強い剣を目指して
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22 護衛騎士

「モトキ。ひょっとして焦っている?」


 夜の自室。

 魔術の研究をしていたセラフィナは手を置き、モトキに尋ねた。


『そりゃ焦るさ。セラフィナの剣になるなんて宣言したけど、今の俺は容疑者の誰とも勝てる自信がない』


 セラフィナが庇う、セラフィナの命を狙う人物。

 セラフィナの親しい人物として思い浮かぶのは、両親のイオランダとリツィア、兄のシグネ、弟のエドブルガ、叔母のリシストラタ、メイドのキテラ、魔術の師オルキス。

 そして未だ会ったことはないが、もう一人の母親と護衛騎士がいるはずだ。


 会ったことのない2人については分からないが、モトキはこの中にセラフィナの命を狙う人物がいるとはとても思えなかった。

 そして仮にいたとしても、今のモトキでは分の悪い相手ばかりだ。

 直接勝負を挑んでくるような単純な相手ではないだろうが、そこは気持ちの問題である。


「容疑者なんて言わないの。あなたが思い浮かべている人達は、全員私の大切な人なのだから」

『そうだったな……ごめん』


 セラフィナは件の人物についての情報は一切喋らない。

 ヒントを話すくらいなら、直接名指しすればよいのだから当たり前だが。


「協力してくれるモトキには悪いけど、私の方から行動を起こす気はないの。それにモトキは私の剣であって騎士じゃないでしょ?」

『分かってる。俺はあくまで目の前の脅威を対処するのが役目だ』

「そう言うこと。それに急いで強くなる必要もないわ。城の中にいる限り強硬手段を取れないから安全だし、毒ももう効かないからね」


 セラフィナ毒殺の調査は現在でも行われている。

 そんな中、再び行動を起こすのは不可能だろう。


「そうだな。今は焦らず確実に経験を積もう。セラフィナが狙われてる件もなるべく気にしないようにする」

「そうそう。モトキはもっと第二の生を楽しんでね。あと次の願いも決めなくちゃいけないしね」


 そう言ってセラフィナは魔術の研究に戻る。

 モトキは願いのことはそこそこに、あまり難しいことを考えないようにした。


(けどまだ会ってない人には、早めに会ってみたいな。護衛騎士とか強そうだし、剣の参考になるかも)


 その後、セラフィナの研究をほどほどで中断させ、2人は眠りについた。


                    ・

                    ・

                    ・


「セラフィナ。頭は大丈夫ですか?」

「その聞き方だと私が馬鹿になったみたいじゃない。もう全く痛くないわ」

「そっか、よかった」


 翌日、リシストラタの剣の稽古が再開された。

 昨日のことを考慮して、念の為にと頭部を守る防具が用意されている。

 しかしそれだけでもセラフィナにとってはかなりのデッドウェイトなので遠慮した。

 離れたところから見ているキテラの視線が痛いが、そこは我慢だ。


『危うく女性の顔に怪我をさせるところだった……。あんな失態は二度としない』

「ところでセラフィナ。昨日の訓練で最後に使った技はどこで覚えたのですか?」

「前に書庫でたまたま読んだ本に書いてあって、どうにか一回くらいリシス叔母様に当てられないかって考えていたら、急に思い出したから試してみたのよ」


 シグネの時の前例がある為、この手の言い訳は慣れたものだ。


「そうだったのですか。あの一撃は――」

「セラフィナ様ー!」


 リシストラタの話を遮り、ドスドスと何やら重たい足音と共に誰かが近づいてきた。

 セラフィナ達は声の方に振り向くと、筋骨隆々の大男が走っている。


『な、何だあれは!?』


 その男は本当に巨体で、セラフィナの前に立つと倍近い身長差があった。

 鍛え抜かれた筋肉は凄まじく、腕はセラフィナの胴より太い。

 スキンヘッドで厳つく堀の深い顔も合わさり、その迫力はモトキでも身動くほどだ。


「あら、どうしたの? フラマリオ」

『フラマリオ!? セラフィナの護衛騎士の!?』


 モトキは彼の名前だけは聞いたことがあった。

 王族が外出する際に、一番近くで守る役職である護衛騎士。

 そのセラフィナ担当がフラマリオである。


「聞きましたぞ! 剣を覚えたいのでしたら、このフラマリオにお任せください!」

「なっ! セラフィナは私が鍛えると決めたのです! 引っ込んでいなさい、フラマリオ!」


 フラマリオは、どうやらセラフィナを鍛えたくやって来たようだ。

 それを聞いたリシストラタは食って掛かる。


「昨日の訓練でセラフィナにはキラリと光るものを感じました。彼女は多彩な技術で相手を翻弄するタイプでしょう。ならば国1番の技巧派である私こそが指導役に相応しい」

「いいえ! セラフィナ様が剣を振るう必要がある場でしたら、その傍には必ず私が控えているはず! ならば私と共に訓練することで、即座にサポートに回れるよう連携力を鍛えることこそが重要なのです!」

「セラフィナは私を頼って来たのです!」

「それはあなたがエドブルガ様を鍛えていたからです! 仮に私がエドブルガ様を鍛えていたら私を頼っていたでしょう!」

「そんなことはありません! 私です!」

「いいえ! このフラマリオです!」


 2人は一歩も譲らずに主張を押し付けあっている。

 当人であるセラフィナは置いてきぼりだ。

 そんなことをしばらく続けたのち、その矛先はセラフィナへと向いた。


「ならばこの場でセラフィナに決めてもらいましょう!」

「望むところです! セラフィナ様――」

「こういう風に振るとあまり力が必要ないんだよ」

「なるほど」


 2人が言い争っている間に、すでにモトキはエドブルガと稽古を始めていた。


「なんで2人で先に始めているの!?」

「いや、今は基礎を覚える段階だし、エドブルガが教えてくれるって言うから」

『実際凄く丁寧で分かりやすかった』


 真面目で実直な性格のエドブルガがカチカチに固めた基礎は、一部の隙もないほど完璧なものの為、今の段階のモトキには最高の講師だった。

 それこそエドブルガの師であるリシストラタを上回るほどだ。


「確かにエドブルガの剣は、教本に乗せたくなるほど基本に忠実なものだけど……」

「しかしエドブルガ様はエドブルガ様で覚えなければならないことがある訳ですし、セラフィナ様はこのフラマリオが――」

「何を抜け駆けしようとしているのですか! 私に教わりたいですよね!」


 モトキとしてはエドブルガが一番なのだが、フラマリオの言うことも一理あった。


「えーと……」

『俺は個人技を磨きたい。リシスさんが言うように、セラフィナの体なら技を重視するのも理に適っている。そしてフラさんは、俺をサポートするより1人で戦う方が絶対強いと思う』

「分かったわ。フラマリオ、悪いけど私はリシス叔母様に習うわ」


 フラマリオはこの世の終わりかと思うほど絶望した顔でこちらを見ている。

 対してリシストラタはドヤ顔で勝ち誇っている。


「な、何故ですか!? このフラマリオに何の不満が!?」

「えーと、フラマリオが一緒なら、連携して戦うよりフラマリオ1人の方が強いだろうから?」


 フラマリオは更にショックを受けて涙を流し、膝を突き項垂れる。

 顔と体格と声の大きさに対して、中々に繊細な心の持ち主なのだ。


「そんな……せっかくセラフィナ様のお役に立てるチャンスだと思ったのに……」

『凄い落ち込みようだな』


 護衛騎士。

 王族の命を守るという、信頼と実力を併せ持った者のみが就くことの出来る、大変名誉な役職である。


「私が外出したのは、この間の城を抜け出した1回きりだから……」


 つまりフラマリオは、護衛騎士としての仕事を1度もしたことがない。

 護衛騎士が護衛をしたことがないなど、その存在を否定されたも同然である。

 そしてせめてセラフィナの役に立ちたいと、千載一遇のチャンスに賭けてみたが、結果はご覧の通りだ。


「昔は一緒に遊んでもらったりもしたけど、私が魔術にハマってからはその機会も減ったのよね……」

『何というか……悲しい』


 自分達で止めを刺した訳だが、フラマリオのあまりの落ち込みように不憫に思えてきた。

 しかし剣の稽古は2人にとって重要なものの為、妥協するわけにはいかない。

 すると遠くから見ていたキテラがゆっくりと近付いてきた。


「立ちなさいフラマリオ。姫様の稽古の邪魔です」

「キ、キテラさん! こんな場所で奇遇ですね!」


 フラマリオは目にも止まらぬ速さで立ち上がった。

 先ほどまでの絶望顔は何処へやら。

良い顔で背筋をこれでもかというくらいピッと伸ばしている。


「姫様のいる場所に私がいるのは普通のことです」

「そ、そうでしたね。これは一本取られました、はっはっはっ」


 フラマリオの様子は明らかにおかしかった。

 言っていることは支離滅裂で、体は強張り、眼が泳いでいる。

 それは極度の緊張状態だ。


「フラマリオはキテラの事が好きなのよ」

『恐ろしいほど初心だな』


 フラマリオの態度は分かりやすく、周りの誰から見てもその胸の内は明らかだった。

 しかしキテラは気付いていないのか、気付いたうえで気にも留めていないのか、とにかく冷めた目をしている。


「私とあなた。共に同じ主に使える身として気持ちは分かります。最近の姫様は部屋で人形に話してばかりで、私といる時間が減りましたから」

(私、そういう風に思われていたのね……)


 セラフィナは城を抜け出してから羊好きになり、部屋に羊の人形を置くようになった。

 もちろん人形相手に独り言を言っている訳ではなく、実際はモトキと話しているのだ。


「剣の稽古を始めたことで、その時間は更に減ることでしょう。しかしそこに思うところがあっても姫様の邪魔をすることは許されません」

「思うところあったのね……。ごめんなさい、キテラ」

「今はそんなことどうでもいいです」

「どうでもいいの!?」


 キテラの事が大好きなセラフィナ。

 どちらかと言えば蔑ろにしたのはセラフィナの方なのだが、逆に蔑ろにされてカウンターをくらってしまった。


「……そうですね。このフラマリオはセラフィナ様の騎士。ならば何が1番セラフィナ様の為になるかを考えなければならない。申し訳ございません、セラフィナ様」

「いいえ、辛かったのはあなたの方でしょ? あなたを騎士として働かせられなくてごめんなさい」


 蔑ろにされる辛さを知ったセラフィナは、少し優しくなった。


「来年なら護衛騎士の仕事が出来ますよ。姫様は魔術コンテストに出るのですから」

「そうだったわ! 魔術コンテストは無色の大陸で行われるから、フラマリオにも付いて行ってもらわないと!」

「本当ですか!」

「ええ、そもそも私が体を鍛え始めたのは、無職の大陸へ行くまでの体力作りの為なのだから」


 モトキが現れてから状況が二転三転した為、すっかり失念していた。

 セラフィナの魔術コンテストへの情熱がモトキを引き込んだようなものなので、2人にとっても重要なイベントだ。


「来年なら四色祭(ししょくさい)もあるよね。今の姉さんなら一緒に行けるよ」

「フラマリオ! 来年から本気を出せるわ!」

「護衛騎士フラマリオ! 誠心誠意努めさせていただきます!」


 輝かしき未来に希望を見出し、セラフィナもフラマリオも表情が明るくなる。


「それでは来年に向けてもっと体を鍛えねばなりませんね。稽古を再開しましょう」

「うん!」

「いえ、残念ながら時間です。今日はここまでです」


 セラフィナが珍しく体を鍛えることに乗り気だったところに水を差されてしまった。

 余計なことをしている間に稽古の時間を使い切ってしまったのだ。

 こうしてモトキの剣の稽古2日は終了した。


『結局全然稽古が出来てない……』


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