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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第三章 強い剣を目指して
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21 剣の稽古

 セラフィナには、夢と願いがあった。

 その願いは、とてもささやかで、当たり前で、とても困難な道。

 セラフィナには、その道を切り開く剣が必要だった。


 モトキが強いことは、最初から分かっていた。

 それはセラフィナが一生を賭けても、得ることの叶わない強さだ。

 だからその強さが得られるなら、セラフィナは全てを捧げても構わなかった。


                    ・

                    ・

                    ・


 セラフィナが限界を超えた筋肉痛から復帰するのには2日掛かった。

 筋肉痛と言っても無茶な動きによる筋肉の断裂の為、2日で治ったのは早い方である。

 そしてセラフィナは兼ねてからの約束通り、リシストラタの剣の稽古に参加することとなった。


 城の庭にはセラフィナとエドブルガとリシストラタ。

そして少し離れたとこからキテラが見守っていた。


「そういう訳で今日から剣の稽古に参加させてもらうわ。よろしくお願いします、リシス叔母様」

「ええ、歓迎しますよ、セラフィナ」

「一緒に頑張ろう、姉さん」


 セラフィナは歓迎されているが、実際に稽古を受けるのはモトキだ。

 しかしモトキは連続で出続けるのは10分程度が限界なので、長時間訓練をするには頻繁に休憩を挟む必要がある。


「剣を振るうのはモトキの担当。それ以外、主に筋トレは私の担当でいいわね?」

『悪いな、面倒な部分だけセラフィナ任せにしちゃって』

「私にとっては剣を振るうのも別に楽しいわけじゃないから構わないわよ」


 セラフィナは柔軟をしながら内緒話をする。


 モトキはセラフィナの剣になるとは言ったが、その手段が剣術である必要はなかった。

 生前イサオキとエアの為にと覚えた護身術は素手によるもののみで、剣では今までの経験を活かせず1から学び直すことになってしまう。


 しかし先日の戦いで、セラフィナの体による肉弾戦では決定力が足りないこと、体を鍛えてもその欠点を克服するのは難しいと判断したことから、武器を用いた戦い方が必要と感じたのだ。

 そんなモトキには、国の戦闘組織のナンバー2が手解きをしてくれる機会など、願ったり叶ったりだった。


(でもそんなに頻繁に入れ替わって、上手く覚えられるかしら?)

「姫様、怪我だけはしないように気を付けてくださいね。姫様はただでさえ弱いのですから」

「ええ、分かっているわ。弱いなりに頑張るわよ」


 キテラの声に心配してもしょうがないと思い至った。

 前提として自分はとてつもなく弱いのだと。

 上手く覚えれるかの前に、モトキがセラフィナの体でまともに訓練を受けられるかすら怪しいのだ。


「よし、それではまずセラフィナがどの程度動けるかを見てみましょう。剣を構えてください」

「はい」


 モトキはセラフィナと入れ替わり。以前にセラフィナがシグネから教わったやり方を思い出しながら木剣を構える。

 1週間の地獄の筋トレと、先日の無茶な限界突破からの回復により、セラフィナの筋力は多少だが上がり、木剣を振るだけなら問題ない程度にはなっていた。


「ふむ、構えはしっかりとしていますが……。セラフィナ、あなたは左利きでしたよね?」

「え?」

「剣の握りは、利き手が上になるようにするものなんだよ。だから姉さんは僕等とは逆に握るんだ」


 さっそく大問題が発生してしまった。

 セラフィナ利き手は左だが、モトキは右なのだ。

 そして体の主導権が変わると利き腕も一緒に変わってしまうのである。


『シグネが右利きでそのまま教えたから気付かなかったわ。利き手で構えが変わるなんて……』

(ど、どうしよう。 20年間使い続けた利き手を、今更逆に補正するんなんて出来るのか? それに下手に利き手が変わると、素手の護身術にも影響が……)


 決定力は足りないと言っても、モトキの護身術は非常に有用な技術だ。

 常に剣を持ち歩けるわけでもないのだから、護身術を捨てるわけにはいかない。

 だからと言って普段表に出ているセラフィナの利き手を急に変えるのも無理な話である。


『……両利き設定にしましょう』

「じ、実は(わたし)、食事や書き物をするときは左を使ってたけど、力を使うことには右の方がやり易いんだ。ほら、私って病弱で力を使う機会がなかったから今まで気付かなくて」


 だいぶ無理のある設定だ。

 更に一人称こそ変えているが、口調は殆どモトキのままで、怪しさ満点である。


「なるほど。珍しいですね」

「姉さんならそういうことがあっても不思議に感じないよ」

((誤魔化せたー!))


 エドブルガは基本的にセラフィナの言うことを疑わず、リシストラタは物事をあまり深く考えない性格なのだ。

 シグネがいたらこうは行かなかっただろう。


「あれ? そういえばシグネく――は?」


 危うく君付けで呼びそうになった。

 一人称と二人称を変えたら、流石に違和感を拭えないだろう。


「そっか。あの時、姉さんは部屋で寝込んでいたから聞いてなかったね。兄さんは昨日から騎士候補生の訓練に参加しているんだ」


 どうやら入れ違いになってしまったようだ。

 シグネもすでに説明した気になっていた為、食事の時もそんなことは一言も言っていなかった。


「私としてはシグネも鍛えたかったのですが……。しかし候補生の訓練が悪いものという訳ではありません。シグネならどこでも立派な騎士に育ってくれるでしょう」

「うん、兄さんは凄いからね。この間なんか素手で僕の木剣を取っちゃったんだから」

「素手で? それは凄いね」


 約束通り、シグネは白羽返しをセラフィナから教わったことを秘密にしてくれたようだ。

 そして本当にあの短い時間で完璧に習得してしまった感心した。


(エドブルガが言うように、本当に凄いんだな、シグネ君)

「話が脱線してしまいましたね。それでは改めてセラフィナがどの程度動けるかを見ましょう。私に好きなように打ち込んでみてください」


 そう言うとリシストラタは両手で正面に木剣を構える。

 その構えは洗練されており、とても美しいものだ。


(この前の男とは真逆だな。剣の知識はないけど、リシスさんが強いことは分かる。全盛期の俺でも勝てるか怪しい。イサオキとエアが襲われてたら何が何でも勝つけど)


 リシストラタの強者の風格に、モトキはつい勝つための方法を考えてしまう。

 しかしこれはあくまでセラフィナがどの程度動けるかを調べるためのものである。


(ここで全力を出すのは間違ってる。けどセラフィナの命を狙ってる相手がリシスさんである可能性は0じゃない。今の俺との力量差を測っておきたい……)

「……行きます!」


 モトキは一呼吸の後にリシストラタに真正面から切りかかる。

 全力で切りかかったが2人の腕力の差は歴然で、リシストラタは軽く受け切った。

続いてモトキは右から左から連続で切りかかるが、その全てを難なく捌かれる。


(まともにやっても身体能力の差は埋められない、なら――)


 モトキはリシストラタが反撃してこないという前提で、体を一回転させ、遠心力と体全体の力を利用した、隙の大きい方手打ちを叩き込む。

 今のモトキに出せる最大の威力の一撃である。


 油断もあったのだろう。

 モトキの予想外の動きに、リシストラタは一瞬反応が遅れ、少々無理な形で受けてしまった。

 そして更に予想外なことに、モトキの一撃が意外と重く、リシストラタは力強く押し返してしまった。


 それに耐えられなかったのは、モトキの握力である。

 木剣はモトキの手から滑り落ち、打ち込んだ方向と逆側に跳ね返り、モトキの頭の側面を強打した。


「あがっ!」

『モトキ!?』


 セラフィナの体は虚弱でかなり撃たれ弱い。

 リシストラタが反撃してこないという前提に加え、まさか自分の剣により自滅すると思わなかった為、完全に予想外の一撃に意識を持っていかれてしまった。


 外的要因によるダメージは、もう片方の意思が健在であっても問答無用に気絶してしまうのだ。


「ね、姉さーん!」

「あわわっ、やってしまいました!」

「姫様ー! とりあえず医務室へ!」


 セラフィナはすっ飛んできたキテラに背負われて城の医務室へと運び込まれた。

 幸い大事には至らず、運び込まれてから数分で目を覚ましたが、大事をとってその日の訓練は中止ということになる。

 こうしてモトキの剣の稽古1日は終了した。


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