表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第二章 白の国の姫
21/662

20 セラフィナの剣

「言い訳があるなら聞きましょう」


 リツィアは冷たい眼と冷たい声でそう言い放った。

 セラフィナ、シグネ、エドブルガの3人は、リツィアに見下ろされながら玉座の間の堅い床の上で正座をしている。

 この世界でも反省を促す時には、正座で座らせるのが基本なのだ。

 かれこれ30分はその状態で放置された。


 3人は隠し通路から城へ戻ると、玉座の間で待ち構えていたリツィアに捕まったのだ。

 リツィアの無言の拳骨は、男Aの剣速より遥かに速かった。


「今回の件は私が計画・発案しました……」

「隠し通路を見つけたのと、エドブルガを引き込んだのは俺です……」

「僕は自分の意思でそれを了承しました……」

「「「ごめんなさい……」」」


 3人は深々と頭を下げて謝罪した。

 怒られ慣れていないセラフィナとエドブルガは涙目だ。

 シグネも泣いてこそいなかったが、リツィアのあまりの威圧感に委縮している。

 そんな3人を見て、リツィアは額に手を当て、大きく溜め息を付く。


「あなた達は王族です。その命は他の人間より遥かに重いものなのです。特にエドブルガは将来この国の王となる存在。今回は運良く何もなく帰って来れましたが、一歩間違えればこの国を大きく揺るがすことになります」


 そう何もなかった。

 セラフィナは眠る2人を引きずりその場を離れただけで、襲い掛かってきた男達を憲兵に突き出すこともしていない。

 そして眠りから覚めた2人には、魔力を使いすぎたのが原因で眠ってしまったのだろうと言って誤魔化したのだった。

 そのため公には何もなかったということになっている。


「まあまあ、何もなかったのだしそのくらいで許してやろうじゃないか。子供たちも十分に反省しているようだし、な?」

「「「はい……」」」

「あなたは……はぁ。いいですか、二度とこんなことは許しませんよ」

「「「はい……もうしません」」」


 後ろに控えていたイオランダの口添えにより、リツィアの長いお説教が終わり、3人は解放された。

 3人は罰として反省文を書かされることとなり、今後玉座の間には見張りの兵が付くこととなった。

 セラフィナは痺れた足でよろよろと部屋に戻ろうとしたが、玉座の間の外で待ち構えていたキテラにより、お説教タイムの第2ラウンドを迎えることとなる。


 その結果、セラフィナは肉体的・精神的ともに限界まで疲弊し、夕食の後は魔術の研究もせずに眠ってしまう。

 その間、モトキが目覚めることはなく、再び会うことが出来たのは夢の中の世界でだった。


                    ・

                    ・

                    ・


 夢の中の世界。

 そこは以前のどこまでも広い真っ白な世界ではなく、小ぢんまりとした一室だった。

 木製の机と椅子とベッド、そして沢山の本棚が並ぶ書斎のような部屋。

 温度が存在しない為、ほぼインテリアなレンガ造りの暖炉のパチパチと薪が燃える音が心地よい。


 ここは夢の中の世界なので、セラフィナの想像力を駆使することで自由にコーディネイトすることが出来るのだ。

 そしてセラフィナとモトキは表に出てない間、ここで過ごすことになり、意識を集中することで視覚を共有できる。

 モトキはその部屋のベッドの上でうつ伏せになりグッタリしていた。

 以前の死装束ではなく、地球での普段着を模したものを着ている。


「モトキ?」

「……んあ、セラフィナ?」


 セラフィナが声をかけると、モトキはあっさりと起きた。

 魂の状態も悪化している様子はなく、本当にただ眠っていただけだったようだ。


「よかった、急に眠っちゃったから心配したのよ」

「ごめん。どうも本気を出すと、表に出てられる時間が短くなるみたいだな」

「謝る必要なんてないわよ。私達を助けてくれてありがとう、モトキ」


 セラフィナにお礼を言われると、モトキは少し照れた様子で頭を掻いた。

 最初にセラフィナの命を救った時と違い、今回は確かな意思の下に助けることを選んだからだ。


「それにしてもモトキって、あんなに強かったのね。正直見縊っていたわ」

「あれくらいできなきゃ、いざという時にイサオキとエアを守れないからな。まあ実際は本当に守れなかったんだけど」


 モトキは自虐的な物言いだが、以前のような悲しみはだいぶ薄れていた。


「でもそれで今日はセラフィナ達を守れたんだから、まったく無駄って訳じゃなかったみたいだ。セラフィナもよく頑張ったね」

「私なんてファイヤーショット撃っただけだし、モトキと比べたら全然よ」

「セラフィナが1週間前の状態だったらどうしようもなかったよ。セラフィナが筋トレを頑張った成果だ。それに……」

「ん?」

「いや、何でもない。とにかく今日の勝利は俺達2人のものってこと」


 セラフィナの声によって、一度は諦めかけた状態から持ち直したことは伏せておいた。

 それを知ってしまったら、今後セラフィナはモトキを頼り辛くなってしまうからだ。


「それであの後どうなったんだ? あいつ等に依頼した奴は?」

「うん、実は――」


 セラフィナはモトキが眠ってしまった後のことを話した。

 まず3人の男達に依頼を出したと思われる人物については何も分かっていない。

 そして男達を憲兵に引き渡さずにその場から立ち去ったことを。


「あの屑どもは、身包みを全部剥いで燃やして、ついでに頭と股間の毛を燃やしておいたわ。あの格好で街中を歩いたら間違いなく憲兵に捕まるでしょうね」

「あなたには女性としての羞恥心がないんですか?」

「モトキの服を剥いだ時に一緒に捨てたわ」

「やめて!」


 地味にモトキのトラウマになっていた。


「けど何で普通に衛兵に突き出さなかったんだ? わいせつ物陳列罪じゃ大した罪に問われない。君達は命を狙われたんだぞ?」

「モトキの世界にはとんでもない名前の罪状があるのね。モトキは勘違いしているわ。命を狙われたのは私達じゃなくて、私だけよ」

「どういうことだ?」


 セラフィナは空中に黒板とチョークを作り出し、自分の考えを書き出す。


「理由は幾つかあるわ。あいつ等が攫うために用意した箱は子供1人入るのがやっとな大きさなこと。真っ先に私に近付いたこと。状況が悪くなったら殺すことも厭わなかったこと」

「人質にでもする気で、誰でもいいから1人だけ連れて行くつもりだったとか」

「私は2人と違って、産まれてすぐの頃にしか公の場に出たことはないわ。眼の色も隠していたし、私を見て王女だと分かる人は少ない。けれど私を最初に狙った」

「少ない……例えば城の人間とかか?」

「恐らくはボーミアと偽医者の時と同じ人物が糸を引いているわ」


 セラフィナを毒殺しようとした黒幕。

 実行犯であるボーミア達は獄中で毒を飲んで死んでしまった為、その真相は未だに謎に包まれている。


「可能性はあるけど。そう断定する根拠は?」

「リスクを冒してまで私を殺す理由がある人物は、世界に1人しかいないからよ」


 セラフィナが知らずのうちに恨みを買っている可能性はある。

 しかしだからと言って一国の姫を殺そうとするなど、あまりにもハイリスクである。

 政治的な理由でも、元々病弱なセラフィナよりエドブルガを狙った方が無難だ。


「つまり……セラフィナには黒幕の正体に心当たりがあるんだな?」

「ええ、その人物は屑どもを衛兵に突き出せば、口封じに処刑できる立場にある。だからあえて見逃して処刑しづらい状況にしたの。無理に口封じしようとすればボロが出やすいようにね」

「ならそのことを両親に相談した方が――」

「私はその黒幕を罪に問いたくないの」

「なっ!」


 セラフィナは暗にその黒幕が親しい人物だと言っているのだ。

 モトキはセラフィナの人間関係を全て把握しているわけではないが、それでもその広さは高が知れている。

 その中にセラフィナを殺そうとしている者がいるとは、とても思えなかった。


「誰だ!? いったい誰が――」

「たとえモトキであっても教えることは出来ないわ。知ったらモトキは見て見ぬ振りが出来ないと思うから」

「これからも命を狙われる可能性があるんだぞ」

「長生きするってモトキの約束と相反してしまうわね。でも私だって死ぬ気はないわ。諦めて、認めてくれるまで抗い続けるだけよ」


 モトキは戦慄した。

 この少女は、その小さな体にまるで不釣り合いの重いものを抱えている。


「俺がセラフィナの下に来たのは偶然だ。俺がいなかったら間違いなく死んでいた」

「ありがとう。だけど私にも守りたいものがあるの。あなたにとってのイサオキとエアのように」


 イサオキとエアの為。

 モトキにとってそれがどれだけ重いものかをセラフィナは十分に理解していた。

 モトキもそれが分かっている。

 それだけセラフィナの覚悟は強いものだということだ。


「羊をモフったら次の願いを決めるんだったよな……セラフィナ。リシスさんとの剣の稽古、可能な限り俺にやらせてほしい」

「それはモトキが私を守る騎士になりたいということ?」

「セラフィナのことは守りたいと思っている。だけど俺はセラフィナだから、セラフィナを守る騎士にはなれない」


 モトキがセラフィナと出会ってから10日と経っていない。

 常に一緒にいるが、それでもその時間はあまり長いとは言えなかった。

 イサオキとエアのように全てを捧げたいと思うほど愛しているわけでもない。

 それでも目の前の小さな少女を愛おしく想い始め、守りたい存在と思い始めている自覚はあった。


「だから俺は騎士じゃなく、セラフィナの未来を切り開く剣になる。それが俺の願いだ」


 モトキは今までで一番真っ直ぐな瞳でセラフィナを見ている。


「モトキがそう言ってくれるのを期待していた……いいの? 私はかなり面倒な姫よ?」

「ああ、俺もかなり面倒な兄だからな。むしろピッタリだろ」

「そうかもね……。またあなたへの恩が増えたわ。これは返すのに一生掛かりそうね」


 セラフィナは微笑むと、両手でモトキの頬に触れ、引き寄せ、お互いの額を合わせた。


「これからもよろしくね、私の剣」

「こちらこそ、俺の姫」


 2人は出会い、交わり、始まり、誓った。

 姫と剣が目指す未来の為に。


「それとごめん、明日は酷いことになってると思う」

「?」


                    ・

                    ・

                    ・


「いだだだだだっ!」

『やっぱり……』


 セラフィナは神の加護により、筋肉痛は一晩寝れば治る。

 それはモトキがそうなるように調整した結果であった。

 昨日の戦闘で、モトキはセラフィナの体の限界を引き出した為、全身の筋肉にとんでもない負荷を与えていたのだ。


 セラフィナは地獄のような痛みで一歩も動けず、久しぶりに1日中ベッドの上で過ごすこととなった。



第二章はこれで終わりとなります

セラフィナの物語に乗っかっていただけのモトキは

セラフィナと共にある剣として生まれ変わりました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ