1 プロローグ
「あなた達のお父さんとお母さんが自動車事故で――」
突然知らされた両親の訃報に、少年の体はショックのあまり全身の血が凍り付いたのではないかと思うほど血の気が引くのを感じた。
当時まだ8歳だった彼には、とても受け止めきれないほど大きな悲しみ。
彼は狂ってしまうのではないかと思うほど泣いた。
いや、狂わなければいけなかった。
彼には5歳の弟と2歳の妹がいる。
死んでしまった両親に代わって2人を守るのは兄である彼の役目だ。
もちろんそんなことを8歳の子供に求めるものなど誰もいなかったが、それでも彼は為さねばならなかった。
3人の兄弟は親戚の家に引き取られる話が進んでいたが、3人揃って引き取れる家はなく、それぞれ別の家へ行くことになっていたのだ。
弟も妹も死というものをまだ上手く理解出来ておらず、両親がいなくなったという漠然とした悲しみと目まぐるしく変わる状況に戸惑っている。
そんな中、兄弟とも離れ離れになってはあまりに辛すぎる。
「だから俺達はこれからもこの家で暮らす。俺が2人の面倒を見る」
幸いにも両親の貯えと死亡保険で金は十分にあった。
3人が高校を卒業する程度なら問題なく行えるほどの額だ。
もちろん親戚一同には反対されたが、弟と妹が少年に強く賛同したことにより、一先ず様子を見るということで話が付いた。
その間に少年は相続の手続きを完璧にこなし、あらゆる家事を必死になって覚えた。
最初の頃こそ周りの人達に助けられながらであったが、ほどなくしてそれも必要と無くなり、ついに親戚一同を納得させたのだ。
両親の死から10年余り。
辛いこと、大変なことも多くあったが、兄弟は力を合わせながら、彼等なりの幸せな生活を送っていた。
しかし、そんな幸せは呆気なく崩れていった。
望む未来を得るために狂った代償を払う時が来たのだろう。
少年は病に倒れ、その命は尽きようとしていた。
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